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夏待ち

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十四年生きていて殺し屋にあった。マフィアにもあった。自称テロリストにもあった。平々凡々と生きていたなら一生あわないでいただろう犯罪者たち。ゲームでいうならレアモンスターといったところ。ただしこっちはうれしくはない。
 希少価値が高いモンスターばかりに遭遇していた俺は完璧に油断していた。
 世の中にはもうちょっと遭遇確率が高い犯罪者だっていることを。



「困った」
「困りましたね」
「バスの時間に間に合わないかもしれない」
「バスの時間に間に合わないかもしれない」
 はもった。
 顔を上げて、にこりと隣のおにいさんと笑顔を交わす。
「デートですか?」
「残念ながら友だちと待ち合わせ。君は?」
「残念ながら男同士です」
 たくさんの意味を込めてため息をついた。とりあえず現在の意味としては「コンビニ強盗に出くわしちゃったよどうしよう」だ。
 隣で仲良く俺と床にはいつくばっている店員のおにいさんも、やっぱりたくさんの意味が込められていそうなため息をついた。
 店員がひとりしかいない小さなコンビニで強盗とばったり。マフィアやらテロリストやらに出会うことがあっても強盗は初めてだった俺は降参のポーズを取っていた。
 現在、店に入ってきて大きなナイフを取り出し、機械を通したような声で「床にはいつくばれ」と命令してきたフルフェイスなコンビニ強盗は忙しくカウンターの奥で物色中だ。コンビニの入り口の張り紙には「フルフェイスのお客様はお断り」と書いてあったがお客様ではない本物の強盗にはまったく効果がないというのがよくわかる。
 誰か来てくれて悲鳴のひとつもあげてくれないかと思ったけれど、店のほとんどの窓はシャッターが降りている。誰がどう見ても閉店中だ。しかも時間帯は休日のさわやかな早朝。こんな明るい時間にフルフェイスの強盗があらわれると思うだろうか。俺はたぶん思わない。
「ごめんね。巻き込んじゃって」
 刃の背にギザギザがついたごついナイフを向けられたときは汗が背中から頭に逆流するような感覚を味わって冷や汗たっぷりだったけれど、スマイル0円のおにいさんが床の上でも笑顔で話しかけてくるものだから、こちらも笑顔になってしまう。
「いやいや、おにいさんのせいじゃないですよ。閉店作業中だったのに無理言って買い物させてもらったのはこっちだし。おにいさんこそ待ち合わせに間に合うといいですね」
 うーん、とおにいさんが床でうなる。
「俺、いい加減だからなあ。遅刻多いし、根性ないし。見捨てられて先に行っちゃったかも」
「あ、俺もわりと」
 なんだか親近感がわくおにいさんだ。
 もさもさした茶色い髪に、状況も忘れてへらりとわらう顔が自分でいうのもなんだが俺に似ている。年齢はたぶん高校生で俺よりずっと背も高いけれど。
「ダチにもバイトするって言っても、最初信じてもらえなかった」
「でもしたんですね」
「うん。で、今日が給料日。今時小さな独立経営コンビニの古風な店長は封筒で手渡し。その封筒がたったいまコンビニ強盗に奪われかけている」
 強盗に気づかれないようにこっそり顔を上げておにいさんが指をさす。その方向にあるカウンターの背後の棚をごそごそやっているコンビニ強盗。
「なにやってるんでしょうね」
「たぶん店長の金庫を探している。うちの店長って古くさいダイヤル式の小さな金庫が好きなんだ。こうカチカチ回して、かちんと鍵はずれるのが楽しみっていう。きっと犯人は店長の知り合いだな」
 言われてみると、このコンビニもどこか古くさい。
 文房具屋で使われてそうな角張ったスチール棚が並ぶ店内に、レジは元は白かったのだろうけど薄汚れて茶色っぽい。雑誌もなければ置いてある物の種類も少ない。しかし、なぜか米が売っている。日本酒コーナーがやけに充実。そのことを言うと「元は酒屋なんだ」と説明された。
「でも、盗んでも開けられないですよね」
「実はおもいっきり上から叩くとはずれる」
 古くさいにもほどがある。
「あのう、そういうことは見ず知らずの他人に言わない方が」
「ああ、そうか。俺、口が軽くて何でも話しちゃうんだよな。よく怒られる」
 そうこうしている間に強盗は金庫を発見してしまった。片手には茶色い封筒。おにいさんは「あああ、俺の給料が」と小さく嘆いた。
 目的のものを発見した強盗は今度はレジに向かった。がちゃがちゃいじっているかと思うとすぐにレジがチーンと音をたてる。
「あ、レジの開け方まで知ってるんだ。こりゃ本格的に店長の関係者かも」
「開け方ってあるんですか?」
 てっきり「開ける」とかいうボタンで開くのかと思っていた。俺の考えたことを見透かして「そう思うよね?」とおにいさん。
「俺もそう思ってた。レジに開閉ボタンってないんだよ。いろいろあるけど、商品の値段を入力するとか、両替ボタンを押さないと」
 そうなんだ。それにしても本当になんでもしゃべってしまうおにいさんだ。
 コンビニ店長の秘密の金庫とレジの開閉方法にふんふんとうなづいていると、やがて強盗はレジの中のお札をわしずかみ、すばやくシャッターを開けて出ていてしまった。
「はあ、やっと出ていった」とぱんぱんと服のほこりを払いながらおにいさんが立ち上がり、俺もおなじように立ち上がる。思っていたより汚れていない。そういえばコンビニの床っていつもピカピカだ。
「警察に連絡するんですか」
「うん。まあ、とりあえず君の会計を済ませてから」
 レジの中には小銭だけは残っていたらしい。
 両手に持っていたままだったシーチキンとシャケ、ほかにも適当に棚からおにぎりをつかんでレジに置いた。ふと思い立って、スナック菓子も適当にひっつかんで。
 ポケットから預かった千円札を取り出すと、ジュース一本分ぐらいのおつりが返ってきたので、パックのオレンジジュースを追加した。
「旅行、どうするんですか?」
「どうしようかなあ。店長に無理言って臨時休業にしてもらったのに強盗さんにお金とられちゃったから、留守番必要だろうし」
「臨時休業だったんですか」
「うん、他のバイトや店長がどうしても今日の夜までつかまらなくて。きみが最後のお客。戸締まりしたら、友だちが待ってるバス停に行くつもりだった」
 ちらりとおにいさんが壁にかかっている時計を見る。
 つられて俺も時計を見た。
「す、すみません。俺が無理言わなかったら、強盗が来る前に出発できたのに」
「いやあ、こっちもおにぎりとか生ものを売り切れたほうが店長うれしいだろうなあ、と思ったからなあ」
 おにいさんの善意の結果、最後のおにぎりは俺が買い、レジに残ったのは俺の千円と小銭になってしまった。
 これでおにいさんの予定は中止だ。本当ならすぐにも警察に連絡を入れて、俺も残るべきなんだろう。
 唐突におにいさんが「ねえ、実は俺、これから逃亡予定だったって言ったらわらう?」とたずねてきた。
「なにからですか?」
「まあいろいろと。俺じゃなくて友だちのほうだけど。俺は一緒にいてって言われたんだ」
「じゃあ、俺とおなじです。友だちじゃないし、相手は俺がいなくても平気だろうけど」
 おなじくバス停で待っているはずの相手を思い浮かべた。
作品名:夏待ち 作家名:るーい