二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

人の話は聞かなきゃね!

INDEX|1ページ/4ページ|

次のページ
 



「ボスがお呼びでございます。アリス様。」

窓際でぼんやりと陽光の差す屋敷の庭を見るでもなく眺めていたアリスは、その声で我に返る。

「はい、直ぐに行きます。」

返事をすると、テーブルの上に置いていた本を数冊抱えてメイドについて部屋を出た。
方向音痴ではないのに、何度歩いてもブラッドの部屋までの道順が覚えられない。似たような装飾が続く廊下を幾度も曲がって同じような扉の続く長い廊下だ。この屋敷内の間取りに慣れるのに時間が必要なのかも知れない。そんな風に考えながら屋敷内を歩く。
見覚えのある重厚な扉の前で立ち止まると、メイドがアリスの到着を伝え、中からブラッドの声でどうぞと入室の許可が出る。
メイドが開けた扉からアリスが部屋に入ると、後ろで重い音がして廊下側からしていた屋敷内の雑音が消えて静けさに包まれた。

「やあ、お嬢さん。好きな本を読んでゆっくりしていきなさい。」

かなり離れたところで大きな執務机に座るブラッドの声がはっきり聞き取れる程に静かだ。

「こんにちは。あの・・本ありがとう。返しておきますね。」

そう言いながら、壁面に作り付けられた大きな書棚に向かう。
家主の仕事の邪魔にならないように気を使い、そっと本を元の場所に戻しながら、興味を引きそうな本のタイトルに目を走らせる。
そこで目に留まった1冊の本を引き出すと、最初のページを読み始めた。


「・・・・ ・・・・ ・・・ス アリス」

何処か遠く、意識の端で自分の名を呼ばれているのに気付くとハッと顔を上げる。直ぐ目の前にブラッドの緑色の瞳が見え、驚き思わず身を後ろに引いた。

「あ!ごめんなさい。私ったら本に気を取られてて・・・」

そう言いながら、視線を外して本に目を落とす。

アリスはこの男が苦手だ。理由は単純。一番会いたくない男と瓜二つだから。私の気持ちを知っていながら姉に心変わりした男。もちろん別人であることは百も承知だが、嫌な男と同じ顔という第一印象はそう簡単には覆らない。
もうひとつは、単に年齢が離れていて話しづらいという理由だ。何を話していいのか話題に困る。マフィアのボスとの話題なんて思いつかない。

「紅茶が入っているよ。」

ブラッドはソファの方に歩きながら気だるげ言う。
これは失敗した。さっさと本を選んで退室するべきだった。この男と向き合ってお茶を飲みながら、話題探しに頭を捻り、気まずい時を過ごさなければならないのかと思うと気が重い。
アリスは読みかけの本を閉じソファに腰を下ろすと、いただきますと言ってカップに注がれた紅茶を一口いただく。カップに近づけただけで良い香りが臭覚細胞を刺激する。

「あ!美味しい!!」

思わず小さく声に出る。かなり良い茶葉を使っているのだろうくらいはアリスにもわかった。

「ふふ・・そうだろう。」

ブラッドが満足そう笑い、この紅茶は・・・と説明を始める。
はぁ・・・と聞き流しながら、興味の無い話題が早く終わらないかなと他の事を考え始めた。



アリスは帽子屋屋敷に来る前の ユリウスと時計塔に住む生活に満足していた。此方の世界に来た当初から『元の世界に戻ること』が最重要課題であり、それ故にこの世界の理解に苦しむ争いには巻き込まれたくないと常々思っていたし、もちろん誰かと親しくなろうなどとは全く考えてもいない。取り敢えずの生活が送れる場所として時計塔は最適だったわけだ。

あの白ウサギがぶち壊すまでは・・・

ユリウスと親しいハートの城の騎士エースとはよく気が合い、彼のちょっとブラックなところも面白くてユリウスと3人で(というか、主に2人で)話が盛り上がることも多かった。ユリウスのピントのずれた生真面目な合いの手に突っ込み、幾らでも話題が尽きない。
だが、アリスを心配して頻繁に時計塔に様子を見に来るペーター=ホワイトは、時計塔滞在に加えてそれも気に入らなかったらしく、とうとうユリウスの仕事場で鉢合わせたエースと乱闘になってしまったのだ。
二人の暴走を止めようとしたアリスだが、銃と大剣を相手にどうすることも出来ず、ユリウスの仕事場が破壊されるのを唯見ている事しか出来なかった。居たたまれずに泣きながら部屋を飛び出す。
そのまま、泣きながら歩いていると何かにぶつかった。頭に硬い物が当たって、目の前の障害物に気付く。
(・・・・・?)
人気の少ないこんな往来の真ん中に、何かあった記憶は無い。立ち止まって顔を上げると壁みたいに大きな男が立ちはだかっていた。

「お前、怪しいな。女が泣いてりゃ油断すると思うなよ?死ね。」

いきなり低い声で命の危険を感じる脅し文句を吐かれ、頭が混乱する。頬を伝う涙を拭う事も忘れ、呆然と立ち竦んでいた。

「エリオット、待て。」

後方から近づいてきた男の制止する声。エリオットと呼んだ目の前の大男の腕に手を乗せると、下におろすように力を込める。特に抵抗する様子も無く下ろされた腕の先に銃が見えた。自分の頭に突きつけられたのが銃だと理解した時には腰が抜けた。

「失礼したお嬢さん、大丈夫か?」

しゃがみ込み此方を覗き込みながら気遣う男は、アリスの手を取り立てるかと離しかけて来たが、下半身の脱力は回復しそうに無い。そのままエリオットに抱き上げられて帽子屋屋敷に来たのだった。
もう、出会いからして最悪だったわよね・・



急に現実に戻りハッとする。顔を上げるとブラッドがこちらを見つめていた。

(しまった!!!ぼんやりし過ぎた。なに?何の話題だっけ?紅茶・・・じゃないわよね。)
意識が他の事に飛んでからどれ位経っていたのだろうか。我ながら何という失態。顔が赤くなってカップを持つ手が汗ばんでくるのがわかる。思わずうつむく。
しばらく沈黙が続いた後で、

「お嬢さんの気が進まなければ断わってくれていいんだ。急な話だからね。ここに滞在しているからという事で無理をしなくてもいい。」

(これは、何かのお願い?)

「あの・・・・本当に私なんかで?」

アリスは相手の様子を伺いながら、無難な返事を返してみる。
ブラッドは明るい声で勿論だと言いながら笑顔になった。
とにかくここは話を合わせるしかない。無理に笑顔を作り、お役に立てるのならば引き受けると返事をすると、紅茶を一気に飲み干して客室に戻りたい旨を告げた。


部屋に戻るとベッドに倒れ込む。今頃になって動悸が激しい。
とにかくあの場の感触では、上手く話が繋がったのだろう。それもこれもあれもこれも全部、時計塔に居られなくしたペーターのせいなんだからっ!と話を聞いていなかった罪悪感をペーターへの怒りに変えてみる。
それにしても、自分は何を引き受けたのかさっぱり見当もつかない。例え上の空でも何か断片でも覚えていないかと頬杖をついて暫し考えてみるものの、時間の無駄だと思い至ると、さっき借りてきた本のページを繰って読み始めた。
どうせ自分のような年齢の、しかも客人に依頼する内容など知れたものだろう。


コンコン・・
ノックの音で気付くと部屋は夜の闇に包まれていた。
ぼぅっとする頭で、ハイと返事をしてベッドから身体を起こす。

「明かりを点けても宜しいでしょうか?」

と聞かれて、お願いと応える。