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嘘も本当も何もかも【新帝&臨帝】

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セルティの言葉に帝人は少し合点がいった。

「……そういうところ、似てるんだ」
『? どうかしたか?』
「いいえ。邪険にし辛かった理由がやっと分かりました。好きな人の好きな人とか好きな人に似ている人って違う人だって分かってても好感が持てちゃいますよね」
『そうか? 変人は一人で十分だと思うんだがな。あ、帝人君の好きな子は変人じゃないから、今の発言はなしだ、なし』
「どうでしょうね」
『いや、本当に! 変なのがくっついてきても杏里ちゃんは真面目な良い子だぞ!!』
「変なの?」
『すまない。忘れてくれ。今日はちょっとおかしいんだ』

首を回すような動作をするセルティに頭を下げて帝人は帰ることにする。

(バレちゃったかな)

嘘も本当も何もかも心を見透かされた気がする。
それは願望なのかもしれない。
自分の心を知って欲しいと望んでいるのかもしれない。

(そんな勝手なこと、言えるわけがない)

溜め息を吐こうとした瞬間、後ろから抱きしめられた。
振り向かなくても分かる。
嫌になるほど昨日嗅いだ香り。
体臭なのか香水なのか分からないがもう忘れることは出来ない折原臨也の香り。

「ねえ、帝人君」

ねっとりとした声が耳に吹き込まれる。
手を握られて冷たさにゾッとした。
怖くなる。逃げ出してしまいたい。
新羅とセルティがいるマンションに戻ってあたたかでささやかな誕生会に出席したい。

「僕は新羅さんが好きです」
「嘘だろ。エイプリルフールはもう終わったんだよ。嘘ついちゃダメだ」
「僕は新羅さんが好きです」

繰り返す。繰り返す。思い込ませるように。信じ込めるように。

「俺を好きだって気持ちを認めないために他の誰かを引き合いに出すのはやめなよ」
「違います」
「でも、俺と付き合ってくれるんだろ」
「……僕は新羅さんが好きです。それで良ければ」
「俺と正面から向き合うのが恥ずかしいの?」
「僕は新羅さんが好きです」

呪文のように繰り返す。
これが最後の砦だ。自分という器を守るために必要な嘘と本当。

「いいや。じゃあ、昨日と同じことしようか? 今度は痛い思いはさせないから安心して」

隣に回って手を繋いでくる臨也。
横を向けばガーゼの貼ってある左耳。
えぐれていることを帝人は知っている。
鼓膜は無事だろうが耳たぶの欠けは治らない。
手に汗をかいた帝人に気付いたのか「緊張してる?」と臨也が聞いてきた。

「大丈夫。痛い思いはさせないってば。昨日はごめんね。エイプリルフールなのを忘れてたんだ。だから、ちょっと乱暴したね」
「……臨也さん、小指」
「あぁ、ちょっと動かないかも。早めに治療すれば良かったんだけどうっかりしちゃった」
「手を握っていると痛いです」
「いいね。俺と手を握ってるっていうのが目をつぶってても帝人君には分かるわけだ」
「変なことするために付き合うんですか?」
「変なことって? 別に俺は君に何もしないよ。危害なんか加えない。信じて」
「歩くの早いです」

足を引きずられるようになっていた帝人を見て臨也は歩調を緩める。

「君が新羅を好きな理由は分かるよ。都市伝説の恋人で喧嘩人形の幼馴染で俺の友人だからだろ」

夕日が血の色に見えた。
空が血に染まっていく。
夕日に照らされた臨也も血に染まっている。

「昨日言ってたね。セルティが好きだ、シズちゃんが好きだって。分かってる。君は非日常の産物を愛してる」

上手い嘘を吐けばよかったのだろうか。
どれだって嘘ではない。
嘘を吐くべき日に嘘を吐かなかったからこその歪みなのか。

「新羅のそのポジションが帝人君は好きなんだよね。どんなに頑張っても帝人君はセルティの恋人にもシズちゃんの幼馴染にも俺の友人にもなれない。だって帝人君は俺の恋人だから。仕方がないね」
「そうですね。でも、僕は新羅さんが好きです」
「一度吐いた嘘を取り消せないと思ってる? いいんだよ。昨日はエイプリルフールなんだから。俺は気にしてない」

告白を断るのに別に好きな人が居るという理由が一番相手を傷つけずに済む方法だと思っていた。
その考え自体が間違いっていたのだろうか。
どんな名前を出しても信じなかった臨也がただ一人の名前だけに納得した。

(ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい)

誰にどういった意味で謝っているのか帝人にはもう分からない。
嘘も本当も何もかも分からない。

「ただ、泣いたあなたに驚いただけなんです」
「え? 別に俺は泣いてないよ。昨日にいっぱい泣き叫んでたのは帝人君の方じゃないか」

そうかもしれない。
朝は声が嗄れていた。
鏡を見れば目の周りは少し赤かった。

「新羅さんに変なもの渡さないで下さい」
「変なものって……昨日にちゃんと説明したじゃないか」
「もう、あんなことしないでください」
「分かったよ。帝人君は全部俺の物だ」

先程口にしたものを思い出して胃袋からせり上がってくる甘ったるい匂い。
沈んでいく夕日を目に焼き付けることで何とか耐えた。

「来月は俺の誕生日なんだけど」
「冗談じゃないです」
「まだ何も言ってないのに」
「ひとりで」
「俺のケーキを食べてくれる?」
「嫌です」

とりつく島もない帝人にも臨也は嬉しそうに笑いながら「来月も俺達は恋人同士だね」と言った。
嘘も本当も何もかも臨也には伝わりはしないのだろう。
もう何も見えてはいない。