君と俺のプロジェクトX
「大学、やめようかな」
「はああ!?」
俺の何気ない一言に、前に立っていた弟が呆気にとられた。
「・・・だって授業楽しくないしな、クラブ活動だって飽きたし」
「そう言う問題か?継続は力なりって言うし、もうちょっと続けてみろよ。
・・・アルタイルには言ったのか?」
そう言って弟はシェーカーを振った。今、俺はデスモンドがバイトしているバーで
ひっそりと飲んでいるところなのだ。もちろん、飲みに行かないかと誘えば喜んで「si!」
の返事をくれる女の子だって両手に余るほどキープしているが、今日は一人で飲みたい気分だった。アルタイル、と言った弟の言葉はぎこちない。まあ、まだ兄弟として暮らしはじめて
から時間はあんまり立ってないのだから当然だろう。それまで俺たちは、自分は天涯孤独なのだと信じていた。
「・・・マリクさんには言ってみた」
「・・・・・・」
「お前と同じことを言ってた」
黒髪隻腕の彼は、アルタイル兄貴の恋人だ。面倒見が良くて頼りになる人で、
アルタイル兄貴の少々暴走気味の感情にも笑って受け止める好男子である。
彼と出会って俺は、生まれて初めて失恋、というものを体験した。と言っても
俺が彼に対して抱いていたのは、ほのかな憧れ程度の感情だったが。
デスモンドはそれを知っている。だからこそ沈黙で答えたのだろう。
「とにかく、俺は退学には反対だからな」
気を取り直したらしくデズモンドは一言、そう言った。
「デズモンド、マティーニのおかわり頂けるかしら」
「ルーシー、いつものドライか?」
親しい仲らしい金髪の女性の注文に応えるため、彼は急いで走って行った。
俺はそれをぼんやりと眺めながら、強いカクテルを啜った。
いいなあ、どいつもこいつも。
作品名:君と俺のプロジェクトX 作家名:taikoyaki