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ある昼のこと

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 授業中。
 寝ているわけではない。決してない。だが、頬杖をついて、半眼で黒板の方を眺め、ぼんやりとしている。
 どうも話の流れが……困るというほどでもないが、どうしようかと思う、うまくないもの……
 教師がパンと手を叩いてまとめた。
「それでは、ふたり一組になって、世界の作家の中からひとり選んで、その生涯をまとめたレポートを提出すること!」
 自由行動になり、教室の中がざわめき始める。
 席を立ってそれぞれに組む相手を探し始めたのだ。
(ふたり一組か……)
 アンディはそっと息を吐く。
 執行部員の自分と組んでもいいなんて者は誰もいない。案の定、誰にも声をかけられない。次々とペアができていく中でひとり。
(まあいいや、ひとりでやろう……)
 さして落ち込みも悩みもせずにさっさと決めて教科書を開く。
 まあ、先生には何か言われるかもしれないが。
 やることはやるんだからそこは勘弁してほしい。
 誰にしようかと教科書をめくってできるだけ簡単そうな人物……早くに亡くなった作家とかいないかな……を探し出した。
 するとその時。
 バシン!! と教科書が机に叩きつけられる。
 アンディは顔をあげた。
 自分のではない。自分の向かいに誰かの教科書やノートやペンケースなどがまとめて置かれている。それを置いた腕を目でたどっていくと、そこにバジルが立っていた。
 意地悪そうにニヤニヤとして言う。
「お偉い執行部員様とは誰も組みたがらねぇよな。何かしたらすぐに学校側に言いつけられるもんな。なぁ、アンディ? ずいぶんと嫌われたもんだな、守ってるはずの連中から」
 机の両端に手をついて、バジルが顔を近付ける。大きな目を輝かせて。
 アンディは顔をしかめた。
「何が言いたいの?」
 バジルは曲げていた腰を戻し、ハッと両手を広げて肩をすくめて嘲笑ってみせた。
「別に。ただご苦労だなと思っただけさ。いつも安全な学園生活を送れるようにしてもらってるくせに、自分たちが責任のない自由を楽しみたいなんて理由でおまえら執行部を鬱陶しがってる汚い連中。そんな奴らのために動かなくちゃならないなんて」
 バジルは鼻で笑って『同情するぜ』と続けた。
 アンディは目の前に置かれたバジルの教科書一式をじろじろと見る。
「いや、それはいいんだけど……」
 これはなんだ。
 バジルはじろっとアンディの前の席のクラスメイトを鋭くにらみつけて、ぼそっと言った。
「てめぇ、退け」
 怯えたクラスメイトがガタガタガタンッと椅子から転げ落ちそうになりながら慌てて退く。
 バジルは退いたクラスメイトのその椅子を奪い、アンディの方を向いて跨るように座った。
「汚いのは同じだが、そんな連中より、おまえの方がまだマシだ」
「バジル……」
 アンディは呆然とする。
 つまり、バジルが自分と組むということだ。
 信じられないという目で見て、アンディは首をひねった。
「……組む相手いないの?」
「あ? そうじゃねぇよ。てめぇと組んでやるって言ってんだろ……」
「はぶられてんの? ぼっち?」
「人の話を聞け、アンディ!! 誰が『ぼっち』だ、こらぁ!!」
 バジルが立ち上がってバンバンと激しく机を叩く。
 クラス中の視線がふたりに向けられる。
 教師が震える声で『し、静かに……』と言うのがかろうじて聞こえる。
 『フン』と鼻を鳴らしてバジルは座り直した。
「とにかく、おまえとやってやる」
「別にひとりでいいんだけどな……」
 アンディのつぶやきを意に介さず、バジルはさっさと教科書とノートを開いてペンケースからペンを取り出している。
 アンディも仕方なしにノートを開いた。
「アンディ、おまえ誰にするつもりだったんだよ」
「いや、まだ決めてない」
「とろいな、おまえ」
「バジルは決めてあるの?」
「……俺はおまえの選んだやつ以外なら誰でもいい」
「ねぇ、それ、ボクが決めたの絶対にダメってこと? ペアの意味なくない? っていうかムリじゃない?」
 こんなやり取りで当然なかなか決まらない。
 決まる前にチャイムが鳴った。


作品名:ある昼のこと 作家名:野村弥広