懲りないわたしたち
推定160cm半ばの身長、腰あたりまで伸ばしたさらさらストレートのプラチナブロンド、水色の瞳とつんと天を向いた鼻に象徴される西洋人然とした顔立ち、ぴんと伸ばされた背筋、基本的なデザインは地味なのに、なぜか膝上丈のシスター服から白い太ももが惜しげもなくさらされ、驚くほどの無防備な雰囲気とざっくばらんな仕草を持ちながらも、口を開けば飛び出す「聖職者」「吸血鬼」から「堕天使」やら「秘密の封印」に至る特殊用語が台無しにしている、というのが現在の高山マリアそのひとだ。
そんな14歳とバスに乗って家に帰るまでの間、小鳩は針の筵以上の居心地の悪さを味わった。通路を隔てた席に腰かけ返事をせずに必死で他人のふりをしても、マリアの、話しながら動かずにはいられないらしい腕が話の内容にあわせていちいち小鳩の肩を叩いたり二の腕をつついたりするのでまったく意味がない。
おかげで羽瀬川家前のバス停に着くころには小鳩は再びめまいに襲われはじめていたのだが、そのめまいは、
「まずは補給廠に寄って行こう」
「補給……?」
「すぐ近くにあるから」
言いながら歩きはじめるマリアは、小鳩の腕から指へと掴む手を動かし、ためらいもなく冷えた指に自分のそれを絡めた。意外にもこちらの歩調に上手く合わせながら顔を覗きこんでくる。
「折角捕らえた吸血鬼をみすみす離すわけにはいかないからなー。聖職者は規律がいろいろあるから大変なんだよっと。ん?それともレイシス、おまえは早く日陰に入りたいのか?」
「さっき、家に帰るって言った」
「でも、おなかがすいてるんじゃなかったっけ?」
「だ、だからわたしは、べつに」
「いいから」
ほら着いた。やけにあっさりと言ってのける場所は、スーパーマーケットの前で。
(そういえば、こんなところがあったんだっけ)
ロゴマークの入ったビニール袋をぶら下げた兄の姿を幻視したせいで小鳩の顔色はまた悪くなったのだろう。白いプラスチックのベンチにやわらかな仕草で小鳩を座らせ、マリアは肩にかけた鞄からピンク色の水筒を取り出した。
「ん」
「ん?」
「水でも飲んで待ってればいい」
「……わたし、帰る」
「そんなのは予想済みですー。これは聖水だからな?あたしがちゃんと聖別してるんだ。吸血鬼を捕獲するにはこれが一番だからな!」
言い置いたマリアがスキップでスーパーの自動ドアをくぐる。その背中を見送りながら、でも確かに喉が乾いていたので聖水とやらの味を確かめてやろうと蓋を開けた小鳩は、香ばしい匂いに眉をしかめた。
水筒の中身は、よく冷えた麦茶だった。
(水ですらない……)