手遅れ?【臨帝&遊帝】
気が付くと視線がその人を追うことがある。
気が付くとその人のことだけを考えてしまったりする。
熱い視線が絡まり合うならそれは恋なのだと誰かが言った。
その日、少しだけ浮かれていたことを臨也は自覚していなかった。
「帝人くーん」
見つけた帝人に背後から声を掛けつつ抱きついてやろうとしたが失敗した。
電柱の影に入るように帝人が移動したのだ。電柱が邪魔で近づけない。
そのまま臨也を振り返ることなく歩いていく帝人。
「え、忍者?」
「え? 忍者いるんですか??」
瞳を輝かせて帝人が振り向いてくれた。
周りを見回す帝人に「いや、君の今の動きが」と言えば一瞬でつまらなそうに溜め息を吐いて無表情になった。
その様子に臨也も上がっていたテンションが落ちる。
「臨也さん、あそこに正臣いますよ」
先程、別れたばかりの友人がいる方を指差す帝人。
正臣が店の中でナンパでもなんでもしているだろうと思ったからこそ臨也は一人の帝人に声をかけたのだ。
「で、なんで帝人君は帰ろうとしてるの。俺たち、会ったばっかりだよね」
「元々、僕は下校中です。帰宅するのに何か問題ありますか?」
帝人の反応がいつになく冷たい気がしたが臨也は気を取り直してわざわざ池袋まで来た理由を教えてやろうと思った。
「帝人君、今日は何の日?」
「平日です」
意外な即答。
どうしてか視線が下にズレた。
「え? お昼に祝われたり……あ」
「正臣が物凄く睨んできてるんで僕は早く帰ります」
「ちょ、ちょっと待ってってば」
帝人の腕を掴めば正臣に足を踏みつけられた。
ずっとナンパしていればいいと言うのに臨也が現れた瞬間にやってくるということは、
何処かから帝人を見ていたのだろうか。
臨也は内心で「保護者ストーカー」と正臣をなじる。
「臨也さん、なんで池袋にいるんすか? 自販機の的になりたいんですか? 平和島さんなら、あっちの通りにいましたよ」
「いじめてくるよー。いじめられたよー。帝人君、助けてっ!!」
躊躇なく臨也の足を踏んでくる正臣を見ながらも帝人の表情はそれほど動かない。
わざとらしい掛け合いに対するツッコミも戸惑いも苦笑も何もない。
「僕は帰りますから。正臣、また明日」
逃げるように足早に帝人は去って行ってしまう。
振り返ることもない。
「帝人?」
「帝人君??」
残された二人は気まずい沈黙の中で顔を見合わせた。
「なんか勘違いじゃなければ帝人君の中で嫌な誤解がある気がする……」
溜め息を吐く臨也に正臣は眉間に皺を寄せながら「着いてこないで下さい」と声を尖らせる。
帝人と一緒にいた時の冗談のような空気はない。
「俺はこれから――」
「杏里ちゃんと合流してサプライズパーティーするの? 失敗するんじゃない。帝人君のテンション低すぎ」
「……朝からなんですけど。だからこそ、パアッと騒いで」
「もっと豪華にしなよ」
「はい?」
「お金出してあげるから、はい」
簡単に万札を正臣に渡してくる臨也の手を振り払う。
「ふざけんな!」
「荷物持ちになってあげるから、ちょっと俺の話、聞きなよ」
「帝人に近づいて何が目的なんですか!!」
「いや、予想以上にヤバいかもしれない」
「はあ?」
「帝人君が見てる」
臨也の視線の先を追えば帝人が気まずそうな顔でノートを持っていた。
小さく「明日の小テストに使うって言ってたから」と渡しそびれたノートを正臣に押しつけて、また走り出す。
帝人の足になどすぐに追いつけると走ろうとする正臣を臨也は止めた。
最悪な状況に置かれている気がした。
「冗談じゃないと思うのは俺もなんだけど」
「うるさい、放せ!!」
「俺と君、付き合ってることになってる……」
「はいぃ?」
足の力が抜けかけた正臣に臨也も頭を抱える。
「あの反応は間違いないね」
「間違いありまくりっすよ。意味わかんねえ。ふざけないで下さい!!!」
言葉が乱れまくる正臣にも臨也は困り顔のまま「俺の思い込みなら楽なんだけどねー」と答える。
「……やっぱり折原さんと紀田君って付き合っているんですか?」
「杏里?! やっぱりって? えぇ??」
「待ち合わせ場所に来ないからちょっと探してしまって……。二人で一緒に居たいならいいですよ。気にしないで下さい。私は帝人君と二人でケーキ食べますから」
三人で食べる用に買ったケーキに視線を落として杏里は帝人のアパートへと向かおうとする。
「待って! 待ってくれ、杏里。なに? なにが? どうなってるって言うんだ!!?」
「いいんです!! 私が帝人君をお祝いしてますから、お二人は仲良くしててくださいっ!!」
首を振る杏里はそのまま走り出そうとする。
「待って。俺達が付き合っているなんて言ったの帝人君?」
「違います」
「え」
「だから、付き合ってねえから!! ありえねえだろ!!! 付き合うなら杏里みたいなスイートガール……」
「分かってます! 折原さんはこれから性転換の手術を受けられるんですよね? 頑張ってください」
「え……。臨也さん、そうなんすか?」
「ドン引きするのは俺もだよ。誰だよ、そんなデマを流してるのは」
「……あ、すみません。紀田君の方が手術を?」
「待って! 杏里みたいなエンジェルにそんな恐ろしいことを吹き込んだのは誰だ? 帝人がおかしいのもそのせい?」
「帝人君もショックだけどちゃんと二人を応援するって」
「しないでいいよ!! ちょっと本当に誰から聞いた?」
二人の勢いに杏里は少し怒ったように早足になる。
「友達に何でも話すのは難しいかもしれませんけど……紀田君がそんなに私と帝人君を信じてくれないなんて思いませんでした。別に私たちは妨害なんかしないのに」
「杏里待ってくれ。なぜ怒る!! 誤解をそのままにするには、それは酷過ぎるからな!」
「帝人君だっていっぱい悩んで諦めたのに、二人とも酷いです」
「何を諦めたって言うんだよ。埒があかない!!」
携帯電話を取り出して臨也は帝人に電話する。
繋がらない。
何台もの携帯電話を試してみても繋がらない。
それを見て正臣も電話をかけてみるが繋がらない。
「これが絶望……」
「意味が分かんねえ……」
落ち込む男二人に「お幸せに」とかかる杏里の声は冷たい。
気が付くと視線がその人を追うことがある。
気が付くとその人のことだけを考えてしまったりする。
熱い視線が絡まり合うならそれは恋なのだと狩沢絵理華は言った。
帝人もそう思う。
気が付くと視線が臨也を追うことがある。
気が付くと臨也のことだけを考えてしまったりする。
だからこそ気付いたことがあるのだ。
「臨也さんって正臣、好きですよね」
溜め息深く吐きながら帝人は遊馬崎から借りた抱き枕に顔を埋める。
キャラクターは知らなかったが手触りが良くて帝人は気に入っていた。
「正臣も……たぶん臨也さん好きですよね」
誰も帝人の独り言にツッコミ入れない。
門田はげっそりとした顔で首を振っていたが帝人は枕が目隠しになって何も見えてない。
「みかプー、みかプー」
狩沢の呼びかけに顔を上げればワゴンの扉が開けられた。
破裂音と共に紙のテープが帝人に降り注ぐ。
気が付くとその人のことだけを考えてしまったりする。
熱い視線が絡まり合うならそれは恋なのだと誰かが言った。
その日、少しだけ浮かれていたことを臨也は自覚していなかった。
「帝人くーん」
見つけた帝人に背後から声を掛けつつ抱きついてやろうとしたが失敗した。
電柱の影に入るように帝人が移動したのだ。電柱が邪魔で近づけない。
そのまま臨也を振り返ることなく歩いていく帝人。
「え、忍者?」
「え? 忍者いるんですか??」
瞳を輝かせて帝人が振り向いてくれた。
周りを見回す帝人に「いや、君の今の動きが」と言えば一瞬でつまらなそうに溜め息を吐いて無表情になった。
その様子に臨也も上がっていたテンションが落ちる。
「臨也さん、あそこに正臣いますよ」
先程、別れたばかりの友人がいる方を指差す帝人。
正臣が店の中でナンパでもなんでもしているだろうと思ったからこそ臨也は一人の帝人に声をかけたのだ。
「で、なんで帝人君は帰ろうとしてるの。俺たち、会ったばっかりだよね」
「元々、僕は下校中です。帰宅するのに何か問題ありますか?」
帝人の反応がいつになく冷たい気がしたが臨也は気を取り直してわざわざ池袋まで来た理由を教えてやろうと思った。
「帝人君、今日は何の日?」
「平日です」
意外な即答。
どうしてか視線が下にズレた。
「え? お昼に祝われたり……あ」
「正臣が物凄く睨んできてるんで僕は早く帰ります」
「ちょ、ちょっと待ってってば」
帝人の腕を掴めば正臣に足を踏みつけられた。
ずっとナンパしていればいいと言うのに臨也が現れた瞬間にやってくるということは、
何処かから帝人を見ていたのだろうか。
臨也は内心で「保護者ストーカー」と正臣をなじる。
「臨也さん、なんで池袋にいるんすか? 自販機の的になりたいんですか? 平和島さんなら、あっちの通りにいましたよ」
「いじめてくるよー。いじめられたよー。帝人君、助けてっ!!」
躊躇なく臨也の足を踏んでくる正臣を見ながらも帝人の表情はそれほど動かない。
わざとらしい掛け合いに対するツッコミも戸惑いも苦笑も何もない。
「僕は帰りますから。正臣、また明日」
逃げるように足早に帝人は去って行ってしまう。
振り返ることもない。
「帝人?」
「帝人君??」
残された二人は気まずい沈黙の中で顔を見合わせた。
「なんか勘違いじゃなければ帝人君の中で嫌な誤解がある気がする……」
溜め息を吐く臨也に正臣は眉間に皺を寄せながら「着いてこないで下さい」と声を尖らせる。
帝人と一緒にいた時の冗談のような空気はない。
「俺はこれから――」
「杏里ちゃんと合流してサプライズパーティーするの? 失敗するんじゃない。帝人君のテンション低すぎ」
「……朝からなんですけど。だからこそ、パアッと騒いで」
「もっと豪華にしなよ」
「はい?」
「お金出してあげるから、はい」
簡単に万札を正臣に渡してくる臨也の手を振り払う。
「ふざけんな!」
「荷物持ちになってあげるから、ちょっと俺の話、聞きなよ」
「帝人に近づいて何が目的なんですか!!」
「いや、予想以上にヤバいかもしれない」
「はあ?」
「帝人君が見てる」
臨也の視線の先を追えば帝人が気まずそうな顔でノートを持っていた。
小さく「明日の小テストに使うって言ってたから」と渡しそびれたノートを正臣に押しつけて、また走り出す。
帝人の足になどすぐに追いつけると走ろうとする正臣を臨也は止めた。
最悪な状況に置かれている気がした。
「冗談じゃないと思うのは俺もなんだけど」
「うるさい、放せ!!」
「俺と君、付き合ってることになってる……」
「はいぃ?」
足の力が抜けかけた正臣に臨也も頭を抱える。
「あの反応は間違いないね」
「間違いありまくりっすよ。意味わかんねえ。ふざけないで下さい!!!」
言葉が乱れまくる正臣にも臨也は困り顔のまま「俺の思い込みなら楽なんだけどねー」と答える。
「……やっぱり折原さんと紀田君って付き合っているんですか?」
「杏里?! やっぱりって? えぇ??」
「待ち合わせ場所に来ないからちょっと探してしまって……。二人で一緒に居たいならいいですよ。気にしないで下さい。私は帝人君と二人でケーキ食べますから」
三人で食べる用に買ったケーキに視線を落として杏里は帝人のアパートへと向かおうとする。
「待って! 待ってくれ、杏里。なに? なにが? どうなってるって言うんだ!!?」
「いいんです!! 私が帝人君をお祝いしてますから、お二人は仲良くしててくださいっ!!」
首を振る杏里はそのまま走り出そうとする。
「待って。俺達が付き合っているなんて言ったの帝人君?」
「違います」
「え」
「だから、付き合ってねえから!! ありえねえだろ!!! 付き合うなら杏里みたいなスイートガール……」
「分かってます! 折原さんはこれから性転換の手術を受けられるんですよね? 頑張ってください」
「え……。臨也さん、そうなんすか?」
「ドン引きするのは俺もだよ。誰だよ、そんなデマを流してるのは」
「……あ、すみません。紀田君の方が手術を?」
「待って! 杏里みたいなエンジェルにそんな恐ろしいことを吹き込んだのは誰だ? 帝人がおかしいのもそのせい?」
「帝人君もショックだけどちゃんと二人を応援するって」
「しないでいいよ!! ちょっと本当に誰から聞いた?」
二人の勢いに杏里は少し怒ったように早足になる。
「友達に何でも話すのは難しいかもしれませんけど……紀田君がそんなに私と帝人君を信じてくれないなんて思いませんでした。別に私たちは妨害なんかしないのに」
「杏里待ってくれ。なぜ怒る!! 誤解をそのままにするには、それは酷過ぎるからな!」
「帝人君だっていっぱい悩んで諦めたのに、二人とも酷いです」
「何を諦めたって言うんだよ。埒があかない!!」
携帯電話を取り出して臨也は帝人に電話する。
繋がらない。
何台もの携帯電話を試してみても繋がらない。
それを見て正臣も電話をかけてみるが繋がらない。
「これが絶望……」
「意味が分かんねえ……」
落ち込む男二人に「お幸せに」とかかる杏里の声は冷たい。
気が付くと視線がその人を追うことがある。
気が付くとその人のことだけを考えてしまったりする。
熱い視線が絡まり合うならそれは恋なのだと狩沢絵理華は言った。
帝人もそう思う。
気が付くと視線が臨也を追うことがある。
気が付くと臨也のことだけを考えてしまったりする。
だからこそ気付いたことがあるのだ。
「臨也さんって正臣、好きですよね」
溜め息深く吐きながら帝人は遊馬崎から借りた抱き枕に顔を埋める。
キャラクターは知らなかったが手触りが良くて帝人は気に入っていた。
「正臣も……たぶん臨也さん好きですよね」
誰も帝人の独り言にツッコミ入れない。
門田はげっそりとした顔で首を振っていたが帝人は枕が目隠しになって何も見えてない。
「みかプー、みかプー」
狩沢の呼びかけに顔を上げればワゴンの扉が開けられた。
破裂音と共に紙のテープが帝人に降り注ぐ。
作品名:手遅れ?【臨帝&遊帝】 作家名:浬@