手遅れ?【臨帝&遊帝】
「てめぇ、遊馬崎! 車ん中を汚すなよ」
「人に向けてクラッカーは危ないだろ」
「いや、いやいや、ちゃんと片付けますから! 誕生日ぐらい無礼講っすよ!」
「誕生日? 誰がだよ」
「……あ」
「帝人君、誕生日おめでとうございます」
「おめでとう、みかプー!!」
「帝人君にケーキと杏里ちゃんと今日発売のゲームを持って来たっすよ」
恥ずかしそうに杏里が手に持ったケーキを見せる。
プレゼント包装されたゲームソフトと飲み物食べ物各種。
「ここで食ってこぼすなよ」
「だから無礼講っすよ」
「誕生日だったのか。おめでとう」
「ありがとうございます!!」
嬉しそうに顔を緩ませる帝人に渡草も口うるさく言う気がそがれたのか舌打ちして横を向く。
「狩沢さんが言う通りあの二人は付き合ってました! そして、否定しようとするんです!!」
少しだけテンション高く杏里が報告する。
「やっぱり……僕達が邪魔をするって思ってるんだね」
「男同士って分からないですけど別に紀田君が誰を好きだって……私は差別なんかしません」
「う、ん。……僕も応援したいと」
「思ってないよね? 未練たらたらだよね。帝人君、俺のこと好きだよね?」
閉められていない車のドアの前に臨也がすごい形相で立っていた。
「先週はシズちゃんだっけ?」
「あれは誤解だったんですよね。すみません。……ごめんね、正臣」
げっそりとした顔の正臣に帝人は悲しそうに笑う。
無理をしたような作り笑いに正臣はへたり込む。
「なんだってこんな、寿命が縮むっていうか……」
「えっと二人とも仲良くね」
「待って、閉めないで!! 痛い痛い、手が挟まってるから!!! 痛い痛い!! ちぎれるっ!!」
わざと手を入れて大げさに叫ぶ臨也。
正臣は現状がどういうことになっているのか理解できないでいた。
誰にからかわれて、こんな状況になっているんだろうか。
「違うから! 俺は誰とも付き合ってないから!!」
叫ぶ、臨也に扉が動くのを止める。
アマノイワトが開くように少し開けた隙間から帝人が「誰とも?」と首を傾げてきた。
「え、……あ、いや……その……」
顔を赤くして視線をあっちこっちに向ける臨也。
その内、手が払われてドアが完全に閉まった。
「あんた……帝人に何したんですか」
「勢いで告白したら付き合ってくれるって……」
「冗談っすか?」
「いや、本気だけど。悪い?」
「……じゃあ何で、こんな状況になってるんですか」
「ぇ……冗談だと思おうとしてくれてるから?」
「臨也さんが言ったことを嘘にするためにあんたの本命探しをしてるってことですか?」
「分かんないけど。先週は帝人君に会いに来てるのに池袋に来るのはシズちゃんのためだって」
「誤解ときました?」
「いつの間にか言わないようになったから良いかと思ったんだけど次は紀田君だよ。何だって言うんだ」
溜め息を吐く臨也に正臣は車のガラスを叩く。
中から叫びが聞こえる。渡草だろう。
「俺と臨也さんは遊びだったんだ。俺は弄ばれてたんだ。本命は十歳ぐらいの女の子なんだって」
「え? そうなの?」
「騙されてポイっだよ。ひでぇ人だ」
「そうなんですか?」
「は? そんなわけな――」
「臨也さん、最低です」
「紀田君、入ってください」
杏里に手招きされて正臣はワゴンの中に消える。
立ち尽くす臨也は何がどうなっているのか分からない。
そのまま車は発進した。
「何それ」
臨也は一人、何もかもに裏切られた気分だった。
止まった車の窓が開く。
自然と静雄は身構えた。
一度止まった車から空き缶を投げつけられて逃走するなどという嫌がらせを受けたことがある。
帝人がそんな事をするはずもない。
「おう、久しぶりだな」
頭を下げる帝人に警戒を解いて静雄は笑いかける。
「静雄さん、ケーキ食べますか? 実は僕、今日が誕生日で」
「そっか、おめでとさん。俺じゃなくてお前が食べるべきだろ」
「この前は迷惑かけちゃったから」
「気にすんなよ。……じゃあ、一口だけ」
「はい、あーん」
「甘いな」
静雄は笑って動き出す車に手を振った。
「それにしても、この前のは何だったんだか……」
帝人に臨也と付き合っているのかと急に聞かれて否定した一幕を思い出す。
『臨也さんは僕と話してた時は笑ってたのに静雄さん見るとスゴイ睨んでるんですよ』
『いつものことだ』
『いつでも?!』
『はじめて会った時からアイツとは合わなくてな』
『愛し合ってるんですか?』
『どんな聞き間違いしてんだよ!!! 嫌いだってんだよ!』
『静雄さんが嫌いでも臨也さんは』
『はあ? ありえねえだろ。迷惑だ』
『でも、臨也さんは金髪の頭が見えたら別の道に行こうとしたり……僕と一緒にいるところを見られたくないっていう行動に』
『俺だってアイツとは会いたくねえよ。会いたくねえなら避けるだろ』
『えっと、じゃあ静雄さんは臨也さんと付き合ってないんですか?』
『最初っから言ってるだろ』
『そうですか。でも、金髪』
『あ? お前の友達の奴じゃねえの』
『正臣は確かに……茶髪というか金髪というか……え?』
『二人で話しているところ見たことあるぞ。仲良いんじゃねえの』
『それは……灯台下暗し。気付かなかったです』
『おぅ、残ったこれは全部食べていいのか?』
『どうぞ。静雄さんのために買ったものです』
端で見ていたトムは内容が内容なだけにいつ静雄が暴れ出すか気が気ではなかった。
一言しゃべるごとに帝人が静雄の口の中にケーキを入れるという行動をとったからか、
静雄はキレるタイミングを逃し続けたらしく物理的な被害は幸いなことに全くなかった。
会話の内容自体にもトムは胃が痛かったが、折原臨也をフォローしてやる義理もない。
ケーキを食べて大勢に祝われて色々と帝人は心が楽になった。
どう頑張っても十歳の少女にはなれないのだから臨也のことは諦めるべきだ。
「狩沢さん、人が悪すぎますよ。誤解だって分かってましたよね?」
「ごめんなさい。皆さん真剣だったから……」
「杏里は謝らなくていい。帝人も頭冷やせよ。臨也さんが言ったことは忘れろ」
「え? なに?」
「だーかーら!!! 俺が臨也さんと付き合ってるとか事実無根だっていうの」
正臣が先ほどから自分が清廉潔白だと証明し続けていたと思い出して帝人は「わかった」と頷く。
男にフラれたことを正臣も早く忘れたいのだろう。
「遊馬崎さん、枕貸してあげてもいいですか?」
「うぅ、俺の嫁なんすけどね。帝人君がどうしてもって言うなら……紀田君、三分だけっすよ」
「正臣が慰められてる間に僕が遊馬崎さんの枕嫁になってます」
「ぎゅうっとしちゃいますよ?」
「いいですよ」
二人して「ぎゅう」と言いながら抱き合う遊馬崎と帝人。
それを温かい目で見守る狩沢に「疲れたけど傷ついちゃいない」と呟いた正臣は気付く。
「…………まさか、狩沢さん」
「正臣、臨也さんにフラれた傷は癒えた?」
「フラれてねえって言ってるだろ」
「……やっぱりまだ割り切れないんだね」
「人の話聞いてないな、帝人の馬鹿っ」
作品名:手遅れ?【臨帝&遊帝】 作家名:浬@