二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

アリス振り回される(前編)

INDEX|7ページ/7ページ|

前のページ
 

用意されたこれはどう見てもウエディングドレスだ。アリスは断固拒否したがブラッドが指先をパチンと鳴らすと一瞬でドレスが入れ替わる。

「ちょっと! これは反則よね!」

アリスはブラッドへ抗議の為に振り返ると、既に黒のタキシードを着て新郎の格好のブラッドが立っている。何故この男まで着替える必要があるのか。アリスには嫌な予感しかしない。そうして最近、嫌な予感ほどよく当たるのだ。

「もう少し此方に来て、よく見せてくれ。」

不信感露わなアリスに対し、お店のスタッフは照れていると勘違いしたのかドレスの裾を持ち上げて歩き易く配慮し始める。先程までブラッドとアリスのドレス選びをしていた店長が、アリスの手を取りさあどうぞと促されては、歩かざるを得ない。後数歩というところで、アリスは何かにつまずいて店長の手から離れてしまった。体勢が前のめりになる。店内の空気が一気に緊張した。

「私の花嫁は些か元気過ぎるようだな。」

アリスはブラッドの胸元に倒れこみ、まるで新郎に抱き付きに行ったように見えなくも無い。一瞬の緊張の後の場面だけにその場に居たスタッフは皆、胸元で手を合わせはあ~と甘い溜息を吐く。素敵!という声すら聞こえてきた。もう完全に、先程のアリスの態度の悪さは照れ以外の何ものでもないと勘違いされている。
ブラッドは耳元で囁く。

「今日の行いを少しは反省するんだな。私と居る時は私に気持ちを集中させろ。他の男との火遊びも結構だが、私の婚約者だということを忘れてもらっては困るな。」

「嘘吐き!」

「私は寛大だからな、君に選択権をあげよう。」

また、あのアリスの苦手な何かを企んでいる目をしている。口元に浮かぶ笑いが怖い。

「このままベッドに直行か、教会に行くか選べばいい。」

「ど、どっちも無理。」

それを選択肢と言えるのだろうか。アリスは頭の中がくらくらする。婚約解消のはずがどうして先に進む事になるのか、何処で間違ってしまったのか、考えても解らない。とにかく紅茶専門店にあのまま居た方が、現状より百万倍マシな状況だったという事だ。

「君はどうしてそう我が儘なんだ。」

「いえ、私が我が儘なわけじゃ無いんじゃ・・・」

あんたが横暴なだけだとは言えずに言葉を飲み込む。
スタッフ総出でお幸せにコールを受けながら店を出る。メインの通りにいきなり出現した花嫁と花婿にまたしても通りすがりの視線が痛い。アリスはお姫様抱っこをされたまま度何処かへ連れて行かれる不安に尋ねずにはいられない。

「何処へ行くの?」

「何故今更そんな事を聞くんだ。お嬢さんは先程から酷く帰りたがっていただろう? だから一刻も早く屋敷へ戻る。」

「へぁぁぁ? まっ待って! きょ教会、教会に行って!」

屋敷に戻って狼に頭から食べられる子羊の図が頭に浮かぶ。冗談ではない。取り敢えずの時間稼ぎが必要だ。

「領地内の教会で良いか?」

「駄目っ、街外れの教会じゃないと嫌っ!」




神父は目の前の新婦にほとほと困り果てていた。全てを拒否し泣き続けている。シスターがなだめても泣き止もうとしない。結婚なんてしたくないの一点張りだ。それならそれで、新郎に日を改めてはと言ってみたが、此方も頑として意見を変えない。

「シスター、一度控え室で落ち着いていただきましょう。花嫁が落ち着かないことにはどうしようもありませんからね。」

神父もこんな珍事は初めてだ。新郎にも別室で花嫁が落ち着くのを待ってもらうという事で了解を得る。
アリスは泣きながら花嫁控え室に入る。シスターが肩を抱いて子供をあやす様に優しく、無理はしなくていいのよと言うと抱きついてきて暫くは泣き止まなかった。

涙が落ち着き始めた花嫁に、シスターはどうして結婚を拒否するのかと優しく問う。アリスは自分が此方に来てからの経過を掻い摘んで話すと、自分の世界に帰りたいのだと訴えた。シスターは黙って聞いてくれる。

「きっとご両親もご姉妹も、貴女の望まない結婚には反対なさるでしょうね。もう一度考えて、それでも貴女の意思が変わらないのなら、私も一緒に新郎にお話してみましょう。」

何処までも優しいシスターに心癒される。母が生きていたら・・そう思う。

「あらあら、せっかくの綺麗なベールが。」

シスターがベールを整えていると、長過ぎるベールは彼方此方に引っ掛かり、糸が飛び出してしまっている。その一つ一つを、生地を丁寧に引っ張りながら糸を元に収めようとするシスター。

「これ以上は無理かしらねぇ。」

そう言うと、引き出しから眼鏡と布切り鋏を取り出して糸を切り落としていく。そこに母のような姉のような面影を見たように思う。この人達にこれ以上の迷惑は掛けたくないと強く思うと、アリスは両手を握り締めた。

「シスター、お願い。少しの時間だけでいいの、一人にしてください。気持ちを落ち着けたら式を挙げます。」

「そう。此処に来た時よりも随分落ち着いてきたようね。私はドアの直ぐ向こうにいますから、御用があれば声を掛けてくださいね。」

優しく微笑むと、シスターはドアを出て行った。
一人になると、アリスは鏡台に向かう。深呼吸をして目の前にある口紅のキャップを外した。



続きます。