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ワルプルギスの夜を越え  1・墜ちてきた暗闇

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横に並んだキュゥべえに警戒しながら、歩幅を狭めゆっくりと歩くアルマは聞く。
キュゥべえは体に不似合いな大きめの尻尾をふりながら続くと、何度か顔を上げ下げして回りを確認する。
ネコが気まぐれに、自分に届く音を聞き取ろうとする仕草にも似た動作の後

『結界は霧散化したね、もう魔女はいない』

自分の顔に意見を求めているアルマに淡々と答えた
アルマもうすうすそれを感じていたと頷くと一度歩みを止めた。
進もうとする歩調に合わせるように闇の霧は引いていた。
止まったアルマを置いて、闇は開けられた水を穴に流し込むようにドンドン東の方に向かって収束し小さな渦を一度現しそして消えた。
消滅した魔女の痕跡を見つめ、今一度回りの気配に耳を澄ませたアルマだったが、最早音も声も聞こえない静寂の森が続くだけになっている。

「消えたのね…」

苦く曇った顔でひとこと告げるとアルマは足を進ませ手の甲を飾る大きめの石に手をかざした

「グラスマレライ、光よ」

実行を唱える声と共に手元を隠す袖に着けられた石は輝き、暗闇だった街道を照らし出した。
輝きの下に映し出されたもの、アルマは目を細め眉をしかめた。
魔女の起こす惨劇はどれも奇抜で残酷なものだ。何度かそれらを見てきたアルマは声に出して恐怖におののく事はなかったが、顔を何度か横にふり立ち上がる嫌悪を払う仕草を見せた

「なんて事…」

凄惨な現場だった。断末魔の鳴き声を上げた馬は首がなく、駿馬の足は空に向けて転がっていた。
馬車であった荷室の方は大嵐に吹き飛ばされたかのように、屋根を剥がされ車輪をもがれ横転していた
積荷は無くなってしまったのか?魔女の起こした暴威によって四散したのか分からない状態だった。
アルマはキュゥべえを伴って静かに惨状の中を歩いて行く、茂みの前方に見える手…
手は肘から先しか残ってはいなかった。

「ごめんなさい…間に合わなくて」

アルマは自分の逸る動悸を押さえるように胸に手を当てると十字を切った。
慣れたくはない光景、魔女は人を殺す。
あったままの姿を飾るように殺す者もいれば、この闇の中からあふれ出した魔女のように四肢を引き千切る者もいる。
形をまったく無くしてしまった人の体は悲惨で、生ぬるい匂いは吐き気さえ憶える。
目を閉じせめてもの祈りを捧げる背にキュゥべえは声をかけた。

『アルマ、夜が明けるよ。早く戻ろう』
「ええ戻りましょう。きっと昼前には町の人が見つけるわ」

悲しく伏せていた目を山に向ける

「リーリエ…こんな近くに魔女が現れるなんて…」

東の方の上、大きな十字架を飾る石造りの尖塔が開ける太陽の光で少しずつ紫の根を見せ始めている
美しい夜明けのシルエットはあと少しで低めの太陽を連れて来る

「帰りましょう、キュゥべえ」

事件に区切りを着けたように荒れた街道に背を向けるアルマは大きく深呼吸をした
背筋を只した姿は貴婦人の姿勢を良く現し、彼女の決意をも見せていた

「私に…私に与えられた時間のあるうちに、必ず魔女を滅ぼすわ」

アルマとキュゥべえは来た道を来た時のように飛んだ。
風に乗り辺境に構える城塞都市に向かって。






注釈少し〜〜

*1 Gespenst
ドイツの伝承にでてくる幽霊、亡霊、お化け、妖怪の類。怖いもの、恐ろしいもの、迫る危険などを言う
とにかく怖い感じの「何か?」って事らしい
ただしゴーストシップなどに関しても使われたりもするので、確実に魔の者に当てはめたりもする
ちょっと面白いのはゴーストシップには出現時間が厳密に決められていたりする事w
「何時から何時までの間にでるのはゴーストシップ」ってのりですw
さすがゲルマン、かっちりしてるぜー
同じように幽霊をあらわす言葉にガイスト Geistもあるよ