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ナシプの癒しの術

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「癒しの術」
そんな術が存在するわけがない。
魔法の基本から外れている。魔法ではないのかもしれないが。
魔法というのはその力の源となる源魔力より術者自身の知力のほうによっぽど依存する。
天性の才能より効率的な化学反応式に基づいた法式のほうが断然強い魔法になる。
そんな性質のものが、体を癒すなんて科学的に複雑なことにそう簡単に使えるものか。
正直な感想としてそう思った。
…そう思ったのだが、底の知れない興味がわいてくるのも事実だった。
俺は癒しの術の話を聞いて「失われた要塞」と呼ばれる要塞の付近にやってきた。
この辺りに癒しの術を使うナシプ族という種族が現れるらしい。
羊を模してレピオス神によって作られたとか生み出されたとかな種族だとか。
タルタロス結界陣が張られてしまった今となっては、実感の沸かない話だが、
つい最近までこの世界のどこかに神がいたということらしい。
神などという存在と比べれば癒しの術のほうがよっぽど現実的なのかもしれない。
しかし、ナシプ族が行使するという癒しの術。どのようにできるものなのだろう?
細胞の活性化?それとも暗示のようなものだろうか?
もしかしたら、時間の操作という可能性もある。
しかし、体の一部の時間を局所的に操作したりしたらパラドックスなどの影響がでそうだ。
そもそも、時間という軸についての概念は科学ではほとんど対象にされないから
本当に時間の操作だったとしても検証しづらい。
時間軸の科学的解析や魔力との相関は要検討だ。
そもそも時間空間が歪んでいても感知なんてできるわけないのだから、
まずはその感知のための検証実験や装置を考案しなくてはならない。
……あれ?…えーと、こっちのほうにくればよかったのかな?
気がつけばずいぶん長いこと森をさまよっていた。
人が通るらしき道のようなものがあるが、周囲は木が生い茂り薄暗く多少気味悪い。
傾斜のきつい場所や谷など人が通るには難しい場所もあるが、ところどころつり橋があり、
こんな場所でも人通りがあるのだろうということは一応感じられる。
まあ、魔法さえあれば明かりや水などの心配は無いので、この程度の状況であれば別に問題はない。
考え事に没頭していたせいか気づかなかったが、
ふとあたりが騒がしいことに気づいた。
カラス…というにはずいぶん大きな生き物が群がっている様子が見えた。
カラスにつつかれているのは…人?
「…きゃ!」
悲鳴らしき声が聞こえたような気がする。
俺は反射的に魔力の集中を始めていた。
人の頭の数倍はあろうかという大きなカラスが人影に群がり、
鳥類が食べ物をついばむあの独特の仕草をカラス達は羽をばたつかせながら人影に繰り返していた。
人間を食べるつもりか?とんでもない化け物がいるもんだ。
俺は狙いを人影の周囲に定め、分子整列の法式を放った。
「熱遷(ヒートムーブ)!!」
空気中の分子の運動を整列し、空間上に熱反応を起こす、俺の十八番の法式だ。
その直後、カラスの周囲に小さな氷の結晶が舞い散る。
見た目はただそれだけの俺の不意打ちは効果があったのか、化け物カラス達がガーガーわめきならがらどこかへ飛んでいった。
今日も法式の出来は上出来だ。
カラスがいた場所には一人のナシプ族がうずくまっていた。
この状況を把握した俺はそこから立ち去ろうとした。
今までもこの辺りでナシプ族は数人見かけた。
が、誰も虚ろな目をしていて、とてもまともな状態でなかった。
不用意に近づいたところ、彼らの手にしているブーメランが俺の目の前をかすめるなんてこともあった。
そんなこともあり、ナシプ族というのは到底友好的な存在ではなさそうだということを経験的に思い知らされていた。
今回もそんなパターンだと思い、早いとこ立ち去ろうと思った。
「…あの」
俺はとっさに振り向いた。声をかけられた…?
彼女と目が合った。
「…あ……ありがとうございますっ…」
しゃべった。
「えっ?…あ……いえ、ど、どういたしまして」
想定外のことが起こって混乱していた。
彼女が立ち上がり、服についた汚れを払っていたが、うむ。
金髪で羊っぽい角がある。角は羊を模して作られたというナシプ族の象徴というべきものだろうか。
腰あたりまでの長い髪に緑色の瞳。
白と緑を基調としたにワンピース(ドレス?ローブ?服の呼び方がわからない)に、ペンダントをつけていた。
何より、スタイルがよく、そして綺麗な人だと思った。
「…あの、どうかしましたか?」
「…はいっ?…いえ…」
彼女は立ち上がり、遠慮がちだが不思議そうにこちらを見ていた。
どうかしたか、といえばどうかはしている。
とても素敵ですね。
いや、そんなことより、なぜまともにしゃべっているんですか?
疑問はこれ以上でもこれ以下でもないのだが、驚きで言葉が続かなかった。
「…あの、私、早く帰らなくてはいけないので、これで失礼します。
本当にありがとうございました。」
彼女は頭を下げてそう言った。
「えっ、いえ、別に…」
普通にすれちがうかのような振る舞いをしようとしている。
その雰囲気に押し流されそうになっているとき、気づいた。
何だこの感覚は?源魔力?
常人の何倍ものレベルの魔力を彼女から感じた。
それとともに、ここに来た目的を思い出した。
「あのっ!」
つまるところ、なんて言えばいいのだろうか?
「…魔法は使えますか?」
間違いない。
100%今の気持ちを率直に表しているだろう。
今の混沌としている(のは俺だけの)状況で言える精一杯の言葉だった。しかし、
「はい?魔法ですか?私、そういうのは使えません…」
「………え?」
彼女の返答は想定外のものだった。
その魔力で?魔法が使えない?そんな馬鹿な。
「…本当…ですか?」
「はい」
「火をつけるとか、雷をとばすとか…」
「できないです……よ…?」
いや、よく考えれば、もしこの源魔力で魔法を使えばたちどころにカラスなど一掃できるだろう。
だからカラスにつつかれていた。一応そこだけは辻褄は合っている、ことにはなるか。
考えてもわからないことばかりだが、現段階で間違いなく言うべきことはわかった。
「…じゃあついていきますよ」
放っておいてカラスの餌にでもなってたら後味が悪い。
それにやっと会えたまともに会話の出来るナシプ族だ。
そのナシプ族(でしかも綺麗な女性)に恩を売れば、癒しの術に関する情報などが頂戴できるかもしれない。
「そ、そんなことまでしてくれなくても大丈夫ですよ!」
とりあえず、彼女のいう大丈夫という言葉に全然説得力が無い。
これは今の状況だけでなく、彼女の雰囲気からもなんとなくそんな感じがする。
「またカラスに襲われたりしたらどうするんですかー?
断られても安心できるまで勝手についていっちゃいますよー」
やれやれといった感じで、とぼけつつ言ってみた。
「で、でも…」
彼女がじっとこっちを見てきた。な、何だ?この間は何だ?
「…じゃあ、お願いしますっ」
彼女が頭を下げる。
「わかりました」
つられてこっちも頭を下げる。
「えーと、私はマースといいます。宜しくお願いしますー」
「私はナギです」
ナギといった彼女も笑顔で返事をしてくれた。その仕草一つ一つが清楚で素敵だ。
作品名:ナシプの癒しの術 作家名:unidenti