二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

前世 【忍たま】

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 
人というのは不思議なもので、稀に前世の記憶を持ったまま産み落とされる者がいるのだという。
 そして大抵の者は、赤子の時にその記憶を忘れ新たな生を謳歌するのだが、なんの因果か幸運か、その記憶が消えずに残ったままで成長を続ける者もいるのだという。

 斯く言う時友四郎兵衛も、そうした前世の記憶を持つ者の一人なのだった……



「よし! 次は裏々々山までマラソンだ!」
「だから七松先輩! せめて後輩たちを休ませてあげてくださいと、何度も言っているじゃありませんか! それでなくても先ほどの塹壕堀で、皆疲れきっているというのに……!」

 ある日の体育委員会でのこと。いつもと変わらず無茶なことばかり言う委員長の七松小平太を、四年生の平滝夜叉丸が諫め始める。こうした様は体育委員会の恒例行事となっており、四郎兵衛を含めた後輩たちは、この隙に乱れた呼吸を整えたり、体を休ませたりすることになっていた。

「四郎兵衛先輩、お水飲みますか?」

 そうして七松たちが言い争いをしている場所から少し離れたところで、地面に大の字になって休んでいたところ、一年生の皆本金吾が水筒を手に四郎兵衛の方へと駆け寄ってきた。

「貰っても良いの?」
「はい!」

 水筒を差し出してくる金吾に問いかけると、金吾が笑顔でそう答えてくる。その姿に、四郎兵衛も顔に笑みを浮かべると、水筒を受け取ったのとは反対側の手で金吾の頭を撫でてやりつつ、有難うと礼の言葉を口にした。

 実はこの金吾。前世では四郎兵衛の弟だったのだ。

「僕の顔に何かついてますか?」
「ううん。何でもないよ?」

 笑いかけてくる金吾が可愛くて、顔をじっと眺めていたら、金吾が不思議そうな顔をしながらそう問いかけてくるではないか。
 こうした仕草は昔とまるで変わらなくて、その度になんだか昔を思い出してしまう。
 けれども金吾はそのことを覚えていないので、四郎兵衛はいつも何でも無いように振舞うことしか出来ないのだった。

「全く七松先輩ときたら……お前たち! なんとか休憩時間を取ったから、今のうちに休んでおけ!」

 暫くして、七松との言い争いを終えた滝夜叉丸が、ぶつくさと文句を言いながらも四郎兵衛たちの所へと歩み寄ってきた。

 そしてこの滝夜叉丸も、前世では四郎兵衛の姉だったりしたのだ。

「大丈夫か? 体調が悪いなどがあったら、遠慮なく言うんだぞ?」
「大丈夫です! ぼく、まだ頑張れます!」
「ぼくもなんだなぁ!」
「そうか……だが、無理だけはするな。わかったな?」

 そう言って、滝夜叉丸が金吾と四郎兵衛の頭を、ぽん、ぽんと軽く撫でてくれた。これも前世での滝夜叉丸が良く行ってくれた動作の一つで、四郎兵衛と金吾が何かを見つけたり良い行いをしたときに、微笑みながらこうして頭を撫でてくれたものだ。

 こんな具合で、何故かこの忍術学園には、四郎兵衛の前世の記憶の中に出てくる人たちが、不思議なことに多く在籍しているのだった。

 例えば六年生の七松小平太は、前世では山賊の副頭領をしており、頭領の中在家長次や山賊仲間たちと一緒になって、日夜暴れまわっていたのだ。
 滝夜叉丸とは恋仲で、いつか二人は結婚するものだと四郎兵衛は思っていたのだが、ある日突然、小平太が滝夜叉丸の前に姿を現さなくなった。風の噂では、山狩りに遭ったとかで命を落としたのだという。
 そして滝夜叉丸もそんな小平太の後を追ってか、ある夜家を飛び出したまま帰らぬ人となってしまった。

 他にも、四年生の田村三木ヱ門と綾部喜八郎は前世でも滝夜叉丸と仲が良く、家にも遊びに来ていたのを覚えている。
 そして面白いことに、三木ヱ門の兄が六年生の潮江文次郎で、喜八郎の兄が同じく六年生の立花仙蔵だったりするのだ。
 どちらも現在は、委員会の先輩と後輩という立場にあるのだが、前世で関わりのある人というのは、今世でも何かしら近しい関係になるのだろうか?
 思えば四郎兵衛と滝夜叉丸、金吾も同じ委員会なのだから、前世での関わりというのが今世にも知らずと影響を及ぼしているというのも不思議ではないのかもしれない。

 他にも何人か前世で見知った顔の者がいるのだが、中でも驚きを隠せなかったのは、一年生の加藤団蔵だろうか。
 何故なら団蔵は、前世では四郎兵衛よりも年上だったからだ。
 年齢までをはっきりと覚えているわけではないが、確か滝夜叉丸たちと同じくらいで、小平太と同じ山賊として暴れまわっていた。そのことだけははっきりと覚えているので、間違いは無いはずだ。
 四郎兵衛を含め、前世で見知った顔の者たちは皆年齢など当時のままなのだが、団蔵だけが何故か若くなっており、今世で初めて出会ったときは思わず、小さくなった! と口走ってしまい、不審気な顔をされたものだ。

 もしかしたら他にも前世で関わりのある人が居るかもしれないが、今の四郎兵衛が覚えているのはこれだけ。そしてその全員が、四郎兵衛とは違い、前世の記憶を持ってはいなかった。
 普段は平気な顔をしているが、前世のことを誰も覚えていないと言うのは、実を言うとすごく寂しい。
 誰か一人でも覚えている人が居てくれたら、一緒に当時を懐かしんだりしてくれるかもしれない。でも、誰も覚えていない今は、見知った顔が居たとしてもすごく離れたところに居るようで、まるで四郎兵衛だけが一人ぼっちになってしまったように感じることがあるのだ。
 だから、寂しい。
 でも、あの頃と今の自分が違うように、他のみんなだって生まれ変わっているから。全く違う人になってしまっているのだから仕方が無い。そう思って、この寂しさを紛らわせるのだ。

 でも時々、願ってしまう。誰か一人で良いから、当時のことを思い出してくれる人が出てこないだろうか……と。

「まあ、無理な話なんだろうけどなぁ……」
「何が無理なんだ?」

 昔のことを思い出し、ため息とともにそう呟いてしまった四郎兵衛。すると、そうした四郎兵衛の呟きが聞こえてしまったのか、滝夜叉丸が不思議そうに言葉を掛けてきた。

「なっ……なんでもないんだなぁ!」
「そうか? 何か悩みがあるのなら、溜め込まずにすぐに言えよ?」

 そう言って滝夜叉丸が四郎兵衛から視線を逸らしたのを確認すると、四郎兵衛が胸の辺りを押さえながら大きく息を吐き出した。

(あっ……危なかったんだなぁ……)

 どうやら、無意識の内に声が出てしまっていたらしい。そのことを反省しながら息を整えると、四郎兵衛は隣に立っている滝夜叉丸へと視線を向けた。
 男でありながら、女性のように美しい容姿をした滝夜叉丸。四郎兵衛や金吾のことを気遣い、優しく接してくれるところなどは昔と一切変わらず、こうして側にいるとなんだかあの頃に戻ったかのように思えてしまい、四郎兵衛は滝夜叉丸の側に居ることが実はとても好きなのだった。

「んっ……? またか……」

 そんなとき、ふと滝夜叉丸が口を開いたかと思いきや、ため息とともに小さく言葉を呟いた。

「どうかしたんですか?」
「ああ、いや……実はな、ここ最近おかしくてな……」
作品名:前世 【忍たま】 作家名:みー