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ラボ@ゆっくりのんびり
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君を偽りながら生きている

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 一角の隣に居ることは、同時に一角を騙し続けることだった。
 それが分からないほど僕は愚鈍ではなかったけれど、だからといって簡単に一角から距離を置けるほど物分りのいい男でもなかった。一角と周囲を偽りながら重ねてきた時間はもう指では数えられないどころか思いを馳せても思い出せないことの方が多いくらいのものだった。今のように縁側に座りながら雲ひとつない晴天を見上げていることだってきっと何千回、下手したら何万回と繰り返したことだろう。
 緩やかな風が東から流れてくる。さらさらと葉の擦れる音がした。そっと目を閉じてその音を聞いていると、葉を揺らした風がやがて僕の身体に巻かれた包帯をやんわりと揺らすように吹き付けてきた。閉じたときよりもゆっくりとした動作で瞼を持ち上げ、揺らされた包帯を見下ろす。きめ細やかな肌に巻きつけられた包帯は、僕の白い肌よりももっと白かった。病的なまでに白いその包帯に思わず舌打ちが漏れた。
 流魂街周辺に大虚が現れた、という報せを一番最初に受けたのは十一番隊だった。元々好戦的な人間しか集まらない十一番隊の面々は我先にといった感じで流魂街へ走っていったが、誰よりも一番早くその場にたどり着いたのは一角だった。最下大虚が流魂街の住居を蹂躙している様を見て奮い立つ、というわけでなく、ただ“「目の前に強そうな奴がいる」から戦う気になる”一角を見ながら僕は僅かに苦笑していた。大虚と言っても所詮は最下大虚だから苦戦はしないだろうと、僕は一角のフォローにまわりながら周囲の状況をじっと見ていた。一角と最下大虚の戦いを邪魔するものがないように。そうでなければ、一角の楽しみに横槍を入れるものがいないように。
 恐らくはそれが幸いしたのだろう。直後、最下大虚と対峙した一角の背後から虚閃が放たれた。至近距離で、しかも背後から放たれたそれに反応するのはいくら一角といえど難しかっただろうと思う。しかし少し横に動けば虚閃と一角の間を遮ることが出来る僕の立ち位置に思わず僕は感謝しかけた。そして惑うことなく一角と虚閃の間に立ち入り、無傷でとはいかなかったがどうにか虚閃の進路をずらすことに成功した。
 僕が負ったのは大した傷ではなかった。藤孔雀を使いさえすればすぐに傷痕ひとつ残さずに消えてしまうような。
 けれど目の前には一角が居た。彼の前でこんな斬魄刀を使えるわけがなかった。だらだらと指先まで滴る僕の血液を一角が一度だけ見たあと、彼の斬魄刀が最下大虚を一刀した。
 僕が「お疲れさま」を言うより一角の「大丈夫か」と負傷した僕を労わる言葉の方が早かった。大丈夫だよと頷いても血は止まらなかった。ぽたぽたと地面を濡らす血液は、一角の目の回りに施された紅のように鮮やかなものなどではなく、ただただどす黒いだけの、世辞でも美しいと言えるものではなかった。こんなものが僕の身体の中に入っているのかと思ったら顔が歪んだ。そんな僕を見て一角も顔を歪めた。そのまま一言だけ、「四番隊行くぞ」と小さく呟いた。
 大丈夫だと言った僕の言葉を信じなかっただろう一角は制止する僕の声を無視し荷物のように僕を肩に乗せて四番隊隊舎へ向かった。その道中、たまたま檜佐木とすれ違い、彼は僕の手から滴る血を見て瞠目していた様子だった。そして「綾瀬川」、と僕を呼んだあと、言葉にせず口唇の動きだけで「何でそのままにしてんだ」と聞いた。もし一角に見られたら、ということを一切考えていないその無神経っぷりに苛立ちが募る。一角の気が済んだらあいつの霊力を吸ってやろうと心の中で決めた。
 そして四番隊隊舎に押し込まれたあと、卯ノ花隊長に「今日は大人しくしていなさい」と名状しがたい雰囲気で半ば脅迫じみたまま言われてしまい、僕は檜佐木をぶん殴りに行くこともできず、いつの間にか一角が居なくなってしまったから一人とぼとぼと十一番隊隊舎へ戻り、そして手持ち無沙汰のまま縁側に座っているというわけだ。
 こうして静かなところに心が凪いだ状態で居ると、どうしても先ほどの一角の表情が脳裏に過ぎる。僕と同じように顔を歪めた一角。けれど僕らの心の中を占拠した想いはまったく違うものだろう。
 あの時一角はきっと心の底から僕を心配してくれたに違いない。僕はそれが嬉しくあり、そして申し訳なくもある。
 ──こんな傷、すぐに治せるよ、君に秘密にしているだけなんだ、だからどうかそんな顔をしないで。
 そう思ってもそれは決して伝えられない。一角を騙し続ける限り、ずっと。そして真実を伝えるということはそのまま一角との別離を指している。そんなこと欠片も望まない僕は一角を騙し続けるという選択肢にしか指をかけられないのだ。


「馬鹿みたいだ」


 ぽつりと呟く。一角が好きで、一角のために動きたいというのに、僕は一角を騙し続けているという事実を同じ手に持ち続けている。そんな僕を馬鹿と呼ばずに何と呼ぶのだろう。再度ため息を吐きながら俯くと、ふと僕を影が覆った。雲が太陽を隠したにしては小さな影の範囲に、もしかして一角かもしれないという淡い願いを持ったけれど、直後響いた「綾瀬川」と僕を呼ぶ声に僕は見上げることもしたくなくなった。