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砂糖菓子のきらめき【静帝】

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翌朝とか。



「大変聞きにくいんですけれど」
「どうした? 気にすんな、俺とお前の仲だろ」
「……僕なにか失礼したり」
「失礼なことされた覚えはねえんだが、何か不安か?」

上半身裸の静雄から目をそらしながら帝人は咳払いする。
花見の帰り道に静雄を見つけて嬉しくて色々と話したような気もする。
おぼろげな記憶の中で告白のようなやりとりをした覚えもかすかにあった。

(嘘? 本当? あれ? 夢?)

現実感のないふわふわとした、上手くいきすぎている砂糖菓子の空間。
そういえばと思って持っていたはずの金平糖を探してみる。

「何が欲しい? ココアなら冷めちまったけどあるぞ」
「えっと……金平糖って」
「二人で一緒に全部食べただろ。……あぁ、歯磨き忘れてたな。悪い」
「え、いや。一緒に……?」
「もしかして昨夜のこと覚えてねえのか?」

気まずくなったものの帝人は頷く。
頭が少しだけ痛む。

「僕、吐いたりとか……」
「あぁ、したな」
「静雄さんの服を汚したり……」
「したな」
「そのままベッドに」
「雪崩れ込んだな」
「すみません」

土下座する帝人に静雄は「気にすんな」と笑う。

「口直しに二人で金平糖食ったし」
「すみません」
「気にすんな。お前は責任取るんだろ。いちいち謝るなよ」

首を傾げる帝人に静雄は「一生責任取るって言ったよな」と微笑まれた。
邪気など一切ない嬉しそうな静雄の顔に帝人の背筋がざわっとした。
ときめきというには悪寒が強い。

「小さいことは気にすんな。俺は何も迷惑してねえ」
「えっと、僕はいつの間にそんな恐ろしい契約を……」
「何か泣きながら『しずおさんといっしょにたべたかったのに』って」
「ああぁぁ」
「俺の上に伸し掛かって『ちゃんとせきにんとりますから』って脱い」
「ひぃぃぃ」

フラッシュバックする記憶に帝人はのた打ち回った。
恥ずかしすぎる。
恐れを知らない自分の行動に居た堪れない。
帝人から迫ったのだ。
静雄の口の中に金平糖を入れて自分の舌を絡ませたのを確かに覚えている。
甘かった。

「あ? そうか……。指輪は三カ月後だが、結婚すっか?」
「いえ……あの。すみません!!」
「大丈夫だ。卒業までは内緒だ。内縁の妻ってやつか?」
「あ、あの……静雄さんはそれで……その……」
「恋人の期間も必要だったな。分かった。卒業してから結婚だな!」

言わんとすることを汲み取らない静雄につい怒鳴りつけるように帝人は叫ぶ。

「僕のこと好きなんですか!?」

双方の同意で肉体関係になったのか記憶が曖昧な帝人にはいまいち分からない。
静雄に嫌われていると思ったことはなかったが、
恋愛的な意味で好かれていると考えたことはない。
雲の上の人だと思っていた。
だが、からかってこんなことを言ってくるタイプではないことも知っている。
それでも――。

「好きに決まってるだろ」

照れ臭いと思っていた静雄の裸の胸板に飛び込む。
あたたかな胸。聞こえてきた鼓動は帝人と同じように早くなっていた。

「どうした」
「いえ……」

滲んでしまった涙を隠したかったが上手くはいきそうになかった。
不安、不満、これから先の話を帝人はどうやって静雄に伝えればいいのか分からない。

「嬉しいんです」

ただ今の自分の気持ちだけを口にすることにした。
昨日の夜にも言ったのかもしれない言葉。

「静雄さんのことは僕が一生面倒見ます。ちゃんと責任取ります」
「おう。とりあえず朝飯にするか?」

その前にシャワーがいいと思いながら、帝人は昨夜の月に感謝する。
あんまりにも大きな月が静雄のを思わせて会いたい気持ちは加速していた。
だからこそ振り払うように羽目を外してしまった。
まさか会ってそしてこんなことになるとは思っていなかった。

ベッドに転がった食べ損じた金平糖を見つけて口に入れる。
怒られるかもしれないと思ったら自然と静雄を引き寄せて金平糖を口伝いに譲り渡す。
何か言いたそうな顔をしていたが「甘いから許してやる」と唇に触れるだけのキスをした。
甘いのは金平糖か静雄なのか。
両方なのだろうと帝人は笑った。