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藤ノ宮 綾音
藤ノ宮 綾音
novelistID. 27764
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emotional 05

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 「1-Cの山本ってさもう初体験すませたらしいぜ!?」
 「マジかよ!?」
 「スゲー・・・」




 全ては昼休み、クラメートの男子が口にした話題からだった。



 それを聞いた瞬間、特に何かある訳でもないのにドキッとした。
 初体験、中一である自分達にはまだまだ早い話だと、どこか他人事のように考えていた、なのに、身近にしかも同級生に経験者が出てくると、急に考えてしまう。

 経験したと言う男子生徒はもちろん相手は女性たろう、だけど、自分の場合の初体験は誰になるのだろう?と考えた時、頭の中に浮かんだのは朝みた兄の顔。

 やはり、可笑しい事なのだろうか?

 とたんに兄弟で犯しているタブーと周囲に公言出来ない背徳感に襲われる。
 兄はどうなのだろう。

 自分よりも一つ先を生きている兄、ならばきっと考えない訳ではないだろう。

 兄は、僕とどうなりたいのかな?
 そして、僕は兄とどうなりたいのだろうか?


 「駆?」
 「うわっ!?」
 「どっどうした?」
 「なんだ、祐介か」
 「なんだってなんだよ、どうした?らしくもなく難しい顔して」

 同学年で友達でもある佐伯祐介は心配そうにこちらを見た。
 祐介も同学年の中でかなり女子に人気がある。
 サッカーも上手く、一年でレギュラー候補とまで言われている。
 女子に人気があるのは兄と同じ、ならば祐介に聞けば少しは何か参考になるだろうか?


 「ねぇ祐介」
 「ん?」
 「……もっもしさ?もしだよ?」
 「なんだよ?」
 「祐介が今、好きな人と両想いになったら……そのっ、あのさ」
 「駆?」
 「えっと……、やっぱり!やっぱり、1-Cの奴みたいにさ経験したいとか思う!?」
 「ブーーーッ!!なっなんだよ急に!?はぁ?」

 唐突な事に祐介は噴出すとこちらを凝視した。
 だって仕方ない。
 気になるんだ。
 兄がもしも、そう考えていたら。
 僕が子供すぎて、兄が困っていたら……そう考えるだけで不安になる。

 僕はまた、兄に避けられることになるのが、またらなく怖い。


 「どうしたんだよ駆?お前らしくもない」
 「いいから!いいから答えて!」
 「………そりゃあ……経験したい……のかな?」
 「!」
 「わっわかんねーよ!俺まだ彼女とかいねーし、それに気になるって奴は………」
 「そう……ありがとう祐介」

 やっぱり、兄もそうなのだろうか。
 だったら、僕はどうしたらいい?

 女の子みたいに可愛くもなければ柔らかくもない、当然胸もないし、そんな僕を兄はどう考えるのだろうか?
 やっぱり冷静になって僕を弟としてみる?
 別にそれが嫌なわけではない、むしろ、それが普通な事。
 そうだとわかっている、わかっているのに。

 僕は知ってしまった。

 兄に優しく見つられる幸せ、優しく触れられる感覚、キスする気恥ずかしさと幸福感そして抱きしめられる安堵感。

 僕は知ってしまったから、今更、放り投げられるのが怖い。

 「おい駆?お前真っ青だぞ?」
 「………ゃだ」
 「かける?おいっ!」

 頭が真っ白になった。
 薄れいく意識の中で祐介が必死に呼びかけている姿が目に入る。
 怖い、嫌だ、考えたくない。

 お願い兄ちゃん、こんな僕に気がつかないで。
 もう、前みたいに戻りたくない。
 兄ちゃんの傍にいたい。
 離れたくない。

 どうか兄ちゃん、僕に幻滅していなくならないで。
 僕はまだ自分の気持ちをちゃんと理解してないけど、だけど。

 兄ちゃんの傍から離れたくないんだ。
 
作品名:emotional 05 作家名:藤ノ宮 綾音