emotional 05
「1-Cの山本ってさもう初体験すませたらしいぜ!?」
「マジかよ!?」
「スゲー・・・」
全ては昼休み、クラメートの男子が口にした話題からだった。
それを聞いた瞬間、特に何かある訳でもないのにドキッとした。
初体験、中一である自分達にはまだまだ早い話だと、どこか他人事のように考えていた、なのに、身近にしかも同級生に経験者が出てくると、急に考えてしまう。
経験したと言う男子生徒はもちろん相手は女性たろう、だけど、自分の場合の初体験は誰になるのだろう?と考えた時、頭の中に浮かんだのは朝みた兄の顔。
やはり、可笑しい事なのだろうか?
とたんに兄弟で犯しているタブーと周囲に公言出来ない背徳感に襲われる。
兄はどうなのだろう。
自分よりも一つ先を生きている兄、ならばきっと考えない訳ではないだろう。
兄は、僕とどうなりたいのかな?
そして、僕は兄とどうなりたいのだろうか?
「駆?」
「うわっ!?」
「どっどうした?」
「なんだ、祐介か」
「なんだってなんだよ、どうした?らしくもなく難しい顔して」
同学年で友達でもある佐伯祐介は心配そうにこちらを見た。
祐介も同学年の中でかなり女子に人気がある。
サッカーも上手く、一年でレギュラー候補とまで言われている。
女子に人気があるのは兄と同じ、ならば祐介に聞けば少しは何か参考になるだろうか?
「ねぇ祐介」
「ん?」
「……もっもしさ?もしだよ?」
「なんだよ?」
「祐介が今、好きな人と両想いになったら……そのっ、あのさ」
「駆?」
「えっと……、やっぱり!やっぱり、1-Cの奴みたいにさ経験したいとか思う!?」
「ブーーーッ!!なっなんだよ急に!?はぁ?」
唐突な事に祐介は噴出すとこちらを凝視した。
だって仕方ない。
気になるんだ。
兄がもしも、そう考えていたら。
僕が子供すぎて、兄が困っていたら……そう考えるだけで不安になる。
僕はまた、兄に避けられることになるのが、またらなく怖い。
「どうしたんだよ駆?お前らしくもない」
「いいから!いいから答えて!」
「………そりゃあ……経験したい……のかな?」
「!」
「わっわかんねーよ!俺まだ彼女とかいねーし、それに気になるって奴は………」
「そう……ありがとう祐介」
やっぱり、兄もそうなのだろうか。
だったら、僕はどうしたらいい?
女の子みたいに可愛くもなければ柔らかくもない、当然胸もないし、そんな僕を兄はどう考えるのだろうか?
やっぱり冷静になって僕を弟としてみる?
別にそれが嫌なわけではない、むしろ、それが普通な事。
そうだとわかっている、わかっているのに。
僕は知ってしまった。
兄に優しく見つられる幸せ、優しく触れられる感覚、キスする気恥ずかしさと幸福感そして抱きしめられる安堵感。
僕は知ってしまったから、今更、放り投げられるのが怖い。
「おい駆?お前真っ青だぞ?」
「………ゃだ」
「かける?おいっ!」
頭が真っ白になった。
薄れいく意識の中で祐介が必死に呼びかけている姿が目に入る。
怖い、嫌だ、考えたくない。
お願い兄ちゃん、こんな僕に気がつかないで。
もう、前みたいに戻りたくない。
兄ちゃんの傍にいたい。
離れたくない。
どうか兄ちゃん、僕に幻滅していなくならないで。
僕はまだ自分の気持ちをちゃんと理解してないけど、だけど。
兄ちゃんの傍から離れたくないんだ。
作品名:emotional 05 作家名:藤ノ宮 綾音