lost
大男は警戒して身構える男に、まるで昔からの友達ででもあるかのように話しかけた。
「なにやってんだ?こんな時間に、こんなところで。名前は?どっからきた?一人じゃああぶねぇぜ?」
それにも関わらず、男は突き刺すような声でかえす。
「黙れ不審者。それに名乗らせる前に貴様が名乗るべきだ。」
大男は男の意外にきつい話し方に驚き、少したじろいだが、こんなところで喧嘩しても仕方がないので素直に話始めた。
「あんた意外にキツいな……。いや、なんでもねぇ。
俺は元親。長曽我部元親だ。あんたは?」
「……毛利…元就。」
毛利か!と、長曽我部が満足気に笑った。
「今度こそ俺の番だ。ここで何してた?」
「……貴様には関係ない」
「あるんだよなぁ、これが。」
長曽我部の右手が後ろに回った。さらに身構える毛利。
「正直に言いな」
長曽我部の手に握られていたのは、1丁の拳銃。
銃口は、まっすぐ毛利にむけられている。
「何してた。ここで。」
長曽我部の青い隻眼が鋭く光る。まるで獣のそれのように毛利を捉え離そうとしない。
「何度も言わせるな。貴様には関係のないことぞ」
隙を突かれないよう、気を張る毛利。
「とぼけてんじゃねぇぞ。」
拳銃の安全装置が外される音がした。
「あんた、徳川の一門だろ?」
「……貴様、ファミリーの者か」
近頃、日本では企業や組合間での抗争が多発していた。
それは、自己の企業の存続為には非合法な攻撃的組織と手を組む企業が現れ始め、しかもそれに対抗して今やほとんどの大企業はお抱えのそのような組織を持つようになってしまった。
そのような組織をマフィアに似せて一般に“ファミリー”といい、簡単に創設出来るため、今確認されているだけでも1,000のファミリーが日本に存在している。大多数のファミリーは有力ないくつかのグループ(一門)に別れていて、そのなかでも長曽我部の言う徳川一門は近頃力をつけてきている一門だ。
「そうだ。
俺は長曽我部ファミリーの当主、長曽我部元親。
俺にはファミリーを守る義務がある。徳川にくだるつもりはねぇよ」
「長曽我部……聞いたことがある。ずっとどの一門にも入らず、企業の為に働かず、土木工事など慈善事業を活動を主とする不思議なファミリー……」
よく知ってるじゃねぇか、と長曽我部の口角が上がり、白い歯が覗いた。
「俺達は金持ちに尽くすなんてまっぴらごめんだ。
本当に困ってる人のために必要とされることをやる。人間の本来の姿だろ?」
誇らし気に語る長曽我部に、毛利は鼻で笑い、容赦なく言い放った。
「そんなもの、綺麗事にすぎんわ。貴様らのただの自己満足ぞ。」
「自己満だろうが、役に立ってることにゃ変わりねぇ。
それより、本来の質問に答えな。
ここで何してた。」
地を這うような声で問う長曽我部。引き金に指がかけられた。