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【腐向け】光【15歳以上推奨】

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 光 1

 冬の寒気の入る余地がないほど、騒がしく浮足立った空気が教室を満たしていた。椅子を引きずる耳障りな音や、一仕事終えた様な疲れの滲んだ、けれど爽快さを含んだ溜息、遊びの誘いや校長の長話への愚痴の声などがいくつも重なって聞こえる。
 その中で、藤代も他の者と同じように清々しい気分で寮へ帰る準備をしていた。
 そして準備を終え、部活がないために普段より軽い鞄を肩にかけて級友たちと冬休み前独特の騒がしさの中を連れ立って歩く。
 途切れない会話に笑い声をあげながら校門に向かって歩いていくと、幾人かの女子学生がこちらを伺っているのが確認出来た。中心にいる少女と目が合い、彼女の頬がぱっと赤くなる。
 何度か経験しているこの状況は、恐らく誰もが予想する通りのものだ。
 校門を通らずして寮に帰るなど、わざわざ裏門まで回らない限り不可能だ。自分一人であれば、いつも使っている近道から帰ることも出来るのだが。面倒臭さを感じつつも、仕方なしに歩を進める。
 親友の笠井を除き、思春期真っ只中、女の子に興味津々ですというオーラを全身から溢れさせている友人たちは、彼女たちの用事は自分にある、いや自分だなどと言い合っている。誰に対する用事であろうと、面倒臭いことに変わりはない。
「あの、藤代さん……」
 中心の少女が自分の名を呼ぶと、騒いでいた連中からなんだ藤代か、という落胆の空気が流れてくる。
「……なに?」
 いくら面倒臭いとはいえ、あからさまに態度に出す訳にもいかない。適当に笑顔を作ってみせる。
「あの、えっと……」
 頬を染め口篭る少女を、周りにいる女子が励まし、急かし、肩を叩く。反動で揺れた豊かな胸は、近頃の中学生の発育の良さを如実に表している。そして小柄な背丈、年相応に幼く愛らしい顔。童顔巨乳という言葉がこれほど似合う者はそうそういないだろう。
 そんな風に彼女の容姿を評していると、少女は思い切った様に小さなメモを差し出した。
「あの、これ、わたしのメルアドと番号です。良ければ連絡下さい」
 公衆の面前でのこの様な行為は、女と男でなければ出来ないことだなと考える。男が男に、或いは女が女に、同じ様な状況で同じ様な行動をしようものならば、好奇の目で見られるばかりであろう。肯定的な意見もないとは限らないが。
「あー……ごめんね、受け取れない。いまはサッカーに夢中だし」
 いつか渋沢が告白されている現場に居合わせたときに聞いたのも似たような言葉だったなと思いながら、申し出を断る。
 何より、サッカーと同じくらいに夢中になっているひとがいるのだ。他の人間は眼中にない。
 少女は今にも泣いてしまいそうな顔をしている。罪悪感を覚えないでもないが、受け取ってしまえばまた別の人物に対する罪悪感を感じることになるのが分かりきっている。そもそも連絡する気など毛頭ないのだ。受け取る方が酷であろう。
「どうしても駄目ですか?」
「うん、ごめんね」
 潤んだ瞳で見つめられるが、考えは変わらない。
 背後から、呪詛が聞こえない方がおかしいと思えるほど黒い空気が漂ってくる。――何故自分が。藤代は溜息を吐いてしまいそうになるのを寸でのところで堪えた。
「それじゃ、そういうことだから。ありがとね」
 その空気に辟易して、作り笑いで手を振ってその場から逃げる。
 校門から姿が見えなくなる位置までくると、それまで大人しく凹んでいた友人らが突然肩やら腕やらを掴んできた。
「なあ、藤代くん」
「いってぇ、なんだよ」
「なんだよじゃねぇよ。あんな可愛い子のアドレス受け取らないなんて、何考えてんだ」
「胸はでけぇし顔は可愛いし、マジ勿体ねぇ」
「なんでお前みたいなサッカー馬鹿ばっかりモテるんだよ! 顔か、顔なのか!」
 怒っているのか悔しがっているのか、果たして後者であろう彼らは口々に藤代を批難する。その後ろで笠井が一人、同情的な視線を送っていた。その対象が責められている自分なのか、童貞故の嫉妬をぶつける友人らなのか、はたまた両方なのか、判断することは出来なかったが。
「知らねぇよ。良いじゃん、おれが誰にモテようとそれを拒否ろうと、おれの勝手だろ」
 顔をしかめながら反論すれば、笠井を除いた全員が一斉にこちらを睨みつけてきた。
「確かにお前の勝手だ。だがな……」
 そこで一旦言葉を区切り、藤代の肩に手を置く。
「あんな可愛い子を振る理由が解らん。居るんだろ、好きな子。吐け」
「好きな子って…言っただろ、今はサッカーに夢中なんだよ。恋しちゃってんの、サッカーにー」
 問いに対して冗談めかして答える。しかし嘘は吐いていない。
「有り得ん……女の子よりもサッカーなんて…」
「まあ、誠二なら有り得るんじゃないの。サッカーと結婚しそうな勢いだし」
 それまで呆れ顔で事態を見守っていた笠井が、仕方ないといった顔で助け舟を出した。心の中で感謝をしながら、ほらな、と親友の肩に手を掛ける。
「……確かに、サッカーのためならなんでもやりそうなとこ見ると、有り得なくもないか」
「サッカー好きにも程があるもんな、藤代って」
「でしょ?」
 顔を見合わせながら頷く彼らを見て胸を撫で下ろす。
 藤代の横で鞄を掛け直す笠井を除いて、友人らは先程の少女の器量やグラビアアイドルの話題で早速盛り上がり始めていた。彼らと少しだけ距離を取ってから、笠井に小声で話し掛ける。
「竹巳、ありがとな」
「良いよ。だって誠二の好きな人って、キャプテンでしょ」
 猫目がきろりとこちらに向く。ぎくりとして、思わず乾いた笑いが漏れた。
「あー、はは……ばれてた?」
「あんなに好き好きオーラ出しておいて、『ばれてた?』ときたよ。自覚がないのに驚きだ」
 呆れた様に、彼は気持ち大袈裟に肩を竦めてみせた。
「……ていうか、付き合ってるでしょ」
「それもばれてんの!?」
「……誠二、うるさい、声大きい。二人見てれば分かるよ。誠二が突然飛び付いても嫌な顔一つしないどころか、優しく微笑んだりしてるじゃん。キャプテンがあんな顔するの、誠二の前だけだよ」
 もっとも、あいつらはそもそも男同士っていう発想自体がないだろうし、気付いてないと思うけどね。笠井は言い、前を歩く『あいつら』に視線を向けながら短い溜息を吐いた。
「……渋沢さんをああいう顔に出来るの、おれだけなのか……」
 その呟きを耳にした笠井の顔が、藤代を見た直後に心底呆れたと言いたげに歪んだ。
「……本当、誠二ってキャプテンにしか興味ないんだね。あとサッカーか」
 笠井がそんな表情をするのも無理はない。藤代の頬はこの上なく幸せそうに緩んでいた。