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「藤代、ちょっと良いか」
 入浴後、笠井と根岸の部屋で雑誌を読んでいた藤代を、その恋人が訪ねてきた。
「渋沢さん!」
 突然の愛しい人の来訪に、寝転がっていた藤代は飛び起きて喜びを全身で表す。
「どーしたんすか、突然。なんか用事っすか」
 別に用事なくても良いんすけど、と笑む。そんな藤代に渋沢は優しげな笑みを浮かべていて、ああこの顔だ、と藤代は嬉しくなった。このひとは自分が駆け寄ると、少し困った様に眉を下げて微笑むのだ。そしてその表情は自分だけに向けられるという。なんて幸せなことだろうか。
「……少し、話があるんだ」
 ちょっと部屋まで来てくれ、と手を引かれる。そこで、渋沢の瞳が真剣な色をしていることに気が付いた。
 何か注意を受ける様なことをしてしまっただろうか。普段通りに過ごしていたつもりだった藤代には、思い当たる節はない。
 手首を緩く掴む掌の温もりに鼓動が速まるのを感じながら、渋沢に連れられて歩く。彼の歩みは心なしか遅く、目的地である渋沢と辰巳の部屋に着くまで、思いの外時間が掛かった。

「辰巳には、少し出てもらってる。……あまり聞かれたくない話だから」
 同室者の不在に関する問いかけへの回答はその様なものだった。
 聞かれたくない話とは、一体何なのだろうか。
 部屋に入ってから、ずっと藤代の手首を掴んだまま黙って俯いている渋沢の背を見つめながら、声を掛けるべきか否か迷った。
 存在感のある後ろ姿を目にしてふと、この背中は自分が飛び付いても地に伏したことはないなと思った。手首を掴むこの大きな手も、いつだって自分の頭を優しく撫でてくれる。
 そこまで考えて、あることに気が付いて疑問を抱いた。渋沢の掌は少し汗ばむ程暖かい。なのに、指先だけがいやに冷たかった。
(……変だな)
 嫌な予感がした。
 心配になり、彼の手を包み込むつもりで、まず自身の指先を手の甲に触れさせる。その瞬間、びくりと大きく震えたと思うと、掴まれていた腕ごと振り払われた。そのままこちらに身体を向けた渋沢と目が合う。
 この様な反応はどこかで見たことがある。そうだ、映画で――ホラー映画で、霊やゾンビに腕などを掴まれたりした人間が、怯え驚いたときと、同じだ。
「……渋沢さん?」
 後悔、動揺、不安、悲哀、恐怖――全てをない交ぜにした表情と声で、彼はごめん、と足元に目をやった。大声で叫び続けた後のように、湿り気のかけらもない小さい音だった。ともすれば聞き逃してしまいそうな。
「……ねぇ、渋沢さん、どうしたの? 何かありました? なんでそんな顔してんすか? 話って何? …そんな顔してんのと、なんか関係あるんですか?」
 いくつも質問を並べて、けれどそれに対する返事はなく、暖房器具だけが室内で唯一音を発していた。吐息さえ聞こえない。不安ばかりが増幅する。
「…っ、渋沢さん!」
 半ば縋り付く様に肩を掴んで、震える声で名前を呼んだ。
 サッカーの試合中、酷い怪我をしてしまったときと似た感覚だ。焦り、そして不安、何も失いたくないという願い。
 きっといま、自分は泣きそうな顔をしている。渋沢が自分の顔を見たあと、すぐに顔を背けたから。
 そっと、壊れ物に触れる様な優しさで、大きな手がその肩から藤代の手をゆっくりと退けた。
(離さないで)
「藤代……」
 手が離れる。
 部屋の空気は充分に暖まっていて、それなのに彼が触れていた部分にだけ、その力が及ばない。
(手を握っててよ)
「もう、…」
 足先から段々と感覚がなくなってきている。テレビの砂嵐の様な音が、耳の奥で鳴っている。
(傍にいてください)
 茶色の毛先が眼前で揺れる。
「……別れよう」
(あなただけなのに)


 一瞬、やけに大きい耳鳴りがした。
 全ての外的感覚が消え、砂嵐もなくなる。

 そして、脳の奥に小さく赤い光が点った。