桜舞う、夢に舞う
視界に映るのはひたすら黒と金。その愛しい闇色の目に灯る金色の焔が己の瞳だと気づいた瞬間の感動をきっと忘れることはできないだろう。
我に返ると目の前から寄せていた身体が離れていこうとしていて、必死で彼を掴まえる。
「違う・・・あの時は―」そうだ、あの時は。自分の方からしたんだ。今みたいに。
「―オレの方からしたんだ」
今度は視線を逸らさずに、すがるように引き寄せて顔を近づける。
噛みつくように唇を触れさた瞬間、強く身体を掻き抱かれた。
その痛いほどの強さの分が彼の愛情だと今なら信じることができて。
この腕をずっと離さないでいて欲しいと思った。手を離さずにいたいと願った。
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桜の木の下には―抑え込んだ感情と愛情と飲み込んだ言葉達が埋まっているのかもしれない。
それらを吸い上げて開いた淡い薄紅の花びらは、儚くともはっとするほど人の目を奪い魅力する。
そして春の嵐に乗せて一瞬で舞い散るその様に人は一夜の夢を見る。
東の果ての島国ではその花のことを「夢見草」とも呼ぶのだという。
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――いつかオレが死んだら桜の木の下に埋めて欲しいって言ったらロイは怒るかな。
一人寂しくこの世を去るのなら、せめて綺麗な花びらになって人の目に映ればいいと思ってたんだ。
だけど今は・・・許されるなら。二人共に埋もれたいと願ってる。
桜の花びらに二人して埋もれて眠りたいって・・・
了