特にオチのないルリカゼお嬢様短編0
ルリカゼへの道
…そ、そうですね、話せば長くなります…
私が、あの方を愛させていただいた理由も。
あの方が、私を愛してくださった理由も。
その日々を、過ぎ去った昔日を、思い出してみましょうか。
天の祈りの調べに乗せて…古びた日誌を捲り（めくり）ながら。
かつて、私はとある職業に憧れました。
ポケモンを、自然を救いながら様々な場所を冒険する…そんな職業に。
「…制限時間以内に最初に辿り着けば、…の座は、わ、私の物です！」」
その職業に就く為の試練を、意気揚々と受けた私は……当然のように失敗しました。
「…っ、や、やめてっ！」
傷つき、試練の番人によってまさに摘みだされようとした時…
私は、己の無力を呪いました。
金満家でも、誰もが羨む名家でも、一皮剥けばただの無力なヤナッキー。
温室育ちと陰口を叩かれ、それを挽回したいと思っても…私には…
「…見捨てる、なんて…できますか！！」
諦めようとした時…まさに偶然、そんな声がしたのです。
「キノコのほうし！」
今よりもずっと幼く、今よりもずっと切迫したその声を、今でも覚えています。
……金の帽子に、青い印。
輝く瞳は、ニホンの国から来たニンゲン特有の黒。
そして、何もかもを飲み込むと言う、不思議な茶色の鞄。
「……『技を使ってはいけない』とは言われましたが…『他のポケモンの力を借りてはならない』なんて…言われて、ませんよねっ」
「………！！」
そして、無理して悪戯そうに微笑む、その笑顔。
…いいえ、言葉なんかでは、とてもあの方を表すには不足です。
私と同じ目的を持ちながら、「技を使ってはならない」と云う試練のルールを破ってまで…私を、救おうとして下さったのですから。
「さ、行って下さいな！僕は…そうですね、引き返すとしましょう、ふふっ」
傷の手当を済ませると、目的地とは全く逆の、あさっての方向に向き直り、キノガッサさんはそう云う。
「……は、はい！」
罠にかかった痛みも、戦いに怯えた心の痛みも、嘘の様に消えて。
私は、一路目的地を目指しました。
「……」
その、目的地。
とある崖の上に鎮座する、一つの宝箱。
その蓋はまだ、閉じていた。
「……もしか、して…」
いえ、私にそんないいことばかりが続くわけがありません。ただでさえ、先程のキノガッサさんに助けていただけただけでも、信じられない幸運ですのに。
この宝箱…中身を持って帰れば冒険家になれる宝箱は、きっと一度開けられて中身を取られた後、また閉められたに決まっているのです。
…そうに、決まって…
「……！！」
しかし、開けた箱は私の卑屈な期待を裏切る。
…中に入っていたのは、淡い桃色と、金色の金属で出来た、とあるチームの紋章。
―それを拾い上げると、ヤナッキーは崖から来る海風に吹かれた。
「……ええ、そう……そう、ですよね」
草タイプが弱点とする潮風をものともせず、胸には輝く紋章を抱き…彼女は、軽やかに道を引き返していった。
「いえ…これは、ケントさんの物です。…何故か、ですか？『技を使ってはいけない』とは言われましたが、『他のポケモンの、紋章を守る力を借りてはいけない』なんて言われていませんよね…ふふっ」
「……え、ええっ？！」
……私の結論は、こうでした。
私は、探検家になれなくなんて、いい。
私が私である限り、きっと誰かに救われ、誰かを救える。
その方法は、何も探検家だけではないのだと。それに執着しなくても良いのだと。
……そして、助けてくださったキノガッサさんに、何か恩返しがしたいと。
同じ意思を持ち、同じ理念に基づいて行動した、数人の参加者と一緒に…私は、静かに笑っていました。
………かくして、一つの関係が生まれました。
……異世界のとある探検隊に入ったキノガッサと。
そのキノガッサに救われ、また救ったヤナッキー。
……これで、物語は幸せに終わるかに、思えました。
……そうですね、ここから先は、お兄様にお話していただきましょうか。
……そうだな、どう話していいやら…
「（……ああもう、ルリカゼったらやんちゃなんだぜえ……へへ）」
……うん、これくらい昔から、かね。俺がブビィで、あいつがヤナップだった時代から…俺は、ずっとあいつが好きだった。
……聞き間違いじゃないぞ、好きだった、だ。
「（おにいちゃんといれて、しあわせっ！）」
そうやって俺のそばで微笑んでいてくれたのも、喧嘩を諌めてくれたのも、幼いユウヒの面倒を見てくれたのも、全部ルリカゼだった。
「お兄様、お父様、ユウヒ、私…そ、その、実力を付けたいんです！」
……だからこそ、あいつが探検隊の夢敗れた後、自分の家の宝石店ではなく他所の宝石店で一から修行したいという無茶な望みも叶えてやった…いや、許可しただけだな。実際に叶えたのはあいつだ。
「…いって、きます！」
当時のルリカゼは…いや、今もそうか。輝いていたぜ……
……最も、輝いていた理由を考えると俺にはちょっと複雑な気分だが、な。
「お兄様、内緒ですわよ…わ、私ね、好きな方がいらっしゃるのです！」
「？！」
思わず飲んでいた紅茶をこぼしそうになりながら、嬉々として語る彼女の声を聞く。
曰く、探検隊の夢を持っていた時代に、試練で自分を救ってくれたポケモンだと。
曰く、探検隊となった彼は今でも、働いている宝石店に良く来てくれるのだ、と。
……ああ。
悔しかったし、何度も枕を涙で濡らした。
……昔、兄妹が結ばれることは不可能と知ったときと、どっこいどっこいくらいにな…
……だがな、俺は気がついたんだよ。
……そいつの幸せを願ってやる奴は、そいつが最も幸せだと思うことをしなければならない、と云う当たり前のことをな。
それからは吹っ切れたよ。そいつの特徴、そいつの出身、何から何まで調べ上げて、どうやって引き合わせようかと迷ったものだ。
……そんなある日……夜の散歩に出かけたルリカゼが、戻ってきた。
……これ以上ないほどまでに、頬を濡らして。
「……お兄様……お兄様ッ！！」
俺に頼って来たのは、単なる兄弟関係の延長線上だったのだろう。
……そこに特別な感情がないと知っても、腕の中で泣いているルリカゼを見ると、心が痛む。
……一体何が彼女を泣かせたのか。
……それは…
…いや、一時的に、ルリカゼが話したほうが、いいか？
恋焦がれる思いに眠れず彷徨い出てきた、とある町の夜の海岸で。
「…！あ、ケントさ……」
「（リーダー……いえ、スノア様、僕は、あなたの－）」
…二匹のポケモンが、真剣な瞳のキノガッサとグレイシアが、
「（……ばかばかばかばか、ケントのばか！）」
「（……そして…ケントも、勿論大好きよ！）」
「（……リーダー……うわあああん！）」
……お互いの想いを確かめ合い、しっかりと抱き合うのを。
……私は、見てしまいました。
「………つっ！」
声は途切れ途切れながら……それが何を意味するか、私には分からないわけもありません。
……何度も転び、何度も木に衝突しながら、それでも無我夢中で、逃げ出す。
この、どうしようもない世界から。
本当は、逃げられないのに。
…ありがとな、辛いだろうに…
……ああ、それは、こういう事だ。
ケントの奴が、恋人と先に結ばれちまったんだよ。
…そ、そうですね、話せば長くなります…
私が、あの方を愛させていただいた理由も。
あの方が、私を愛してくださった理由も。
その日々を、過ぎ去った昔日を、思い出してみましょうか。
天の祈りの調べに乗せて…古びた日誌を捲り（めくり）ながら。
かつて、私はとある職業に憧れました。
ポケモンを、自然を救いながら様々な場所を冒険する…そんな職業に。
「…制限時間以内に最初に辿り着けば、…の座は、わ、私の物です！」」
その職業に就く為の試練を、意気揚々と受けた私は……当然のように失敗しました。
「…っ、や、やめてっ！」
傷つき、試練の番人によってまさに摘みだされようとした時…
私は、己の無力を呪いました。
金満家でも、誰もが羨む名家でも、一皮剥けばただの無力なヤナッキー。
温室育ちと陰口を叩かれ、それを挽回したいと思っても…私には…
「…見捨てる、なんて…できますか！！」
諦めようとした時…まさに偶然、そんな声がしたのです。
「キノコのほうし！」
今よりもずっと幼く、今よりもずっと切迫したその声を、今でも覚えています。
……金の帽子に、青い印。
輝く瞳は、ニホンの国から来たニンゲン特有の黒。
そして、何もかもを飲み込むと言う、不思議な茶色の鞄。
「……『技を使ってはいけない』とは言われましたが…『他のポケモンの力を借りてはならない』なんて…言われて、ませんよねっ」
「………！！」
そして、無理して悪戯そうに微笑む、その笑顔。
…いいえ、言葉なんかでは、とてもあの方を表すには不足です。
私と同じ目的を持ちながら、「技を使ってはならない」と云う試練のルールを破ってまで…私を、救おうとして下さったのですから。
「さ、行って下さいな！僕は…そうですね、引き返すとしましょう、ふふっ」
傷の手当を済ませると、目的地とは全く逆の、あさっての方向に向き直り、キノガッサさんはそう云う。
「……は、はい！」
罠にかかった痛みも、戦いに怯えた心の痛みも、嘘の様に消えて。
私は、一路目的地を目指しました。
「……」
その、目的地。
とある崖の上に鎮座する、一つの宝箱。
その蓋はまだ、閉じていた。
「……もしか、して…」
いえ、私にそんないいことばかりが続くわけがありません。ただでさえ、先程のキノガッサさんに助けていただけただけでも、信じられない幸運ですのに。
この宝箱…中身を持って帰れば冒険家になれる宝箱は、きっと一度開けられて中身を取られた後、また閉められたに決まっているのです。
…そうに、決まって…
「……！！」
しかし、開けた箱は私の卑屈な期待を裏切る。
…中に入っていたのは、淡い桃色と、金色の金属で出来た、とあるチームの紋章。
―それを拾い上げると、ヤナッキーは崖から来る海風に吹かれた。
「……ええ、そう……そう、ですよね」
草タイプが弱点とする潮風をものともせず、胸には輝く紋章を抱き…彼女は、軽やかに道を引き返していった。
「いえ…これは、ケントさんの物です。…何故か、ですか？『技を使ってはいけない』とは言われましたが、『他のポケモンの、紋章を守る力を借りてはいけない』なんて言われていませんよね…ふふっ」
「……え、ええっ？！」
……私の結論は、こうでした。
私は、探検家になれなくなんて、いい。
私が私である限り、きっと誰かに救われ、誰かを救える。
その方法は、何も探検家だけではないのだと。それに執着しなくても良いのだと。
……そして、助けてくださったキノガッサさんに、何か恩返しがしたいと。
同じ意思を持ち、同じ理念に基づいて行動した、数人の参加者と一緒に…私は、静かに笑っていました。
………かくして、一つの関係が生まれました。
……異世界のとある探検隊に入ったキノガッサと。
そのキノガッサに救われ、また救ったヤナッキー。
……これで、物語は幸せに終わるかに、思えました。
……そうですね、ここから先は、お兄様にお話していただきましょうか。
……そうだな、どう話していいやら…
「（……ああもう、ルリカゼったらやんちゃなんだぜえ……へへ）」
……うん、これくらい昔から、かね。俺がブビィで、あいつがヤナップだった時代から…俺は、ずっとあいつが好きだった。
……聞き間違いじゃないぞ、好きだった、だ。
「（おにいちゃんといれて、しあわせっ！）」
そうやって俺のそばで微笑んでいてくれたのも、喧嘩を諌めてくれたのも、幼いユウヒの面倒を見てくれたのも、全部ルリカゼだった。
「お兄様、お父様、ユウヒ、私…そ、その、実力を付けたいんです！」
……だからこそ、あいつが探検隊の夢敗れた後、自分の家の宝石店ではなく他所の宝石店で一から修行したいという無茶な望みも叶えてやった…いや、許可しただけだな。実際に叶えたのはあいつだ。
「…いって、きます！」
当時のルリカゼは…いや、今もそうか。輝いていたぜ……
……最も、輝いていた理由を考えると俺にはちょっと複雑な気分だが、な。
「お兄様、内緒ですわよ…わ、私ね、好きな方がいらっしゃるのです！」
「？！」
思わず飲んでいた紅茶をこぼしそうになりながら、嬉々として語る彼女の声を聞く。
曰く、探検隊の夢を持っていた時代に、試練で自分を救ってくれたポケモンだと。
曰く、探検隊となった彼は今でも、働いている宝石店に良く来てくれるのだ、と。
……ああ。
悔しかったし、何度も枕を涙で濡らした。
……昔、兄妹が結ばれることは不可能と知ったときと、どっこいどっこいくらいにな…
……だがな、俺は気がついたんだよ。
……そいつの幸せを願ってやる奴は、そいつが最も幸せだと思うことをしなければならない、と云う当たり前のことをな。
それからは吹っ切れたよ。そいつの特徴、そいつの出身、何から何まで調べ上げて、どうやって引き合わせようかと迷ったものだ。
……そんなある日……夜の散歩に出かけたルリカゼが、戻ってきた。
……これ以上ないほどまでに、頬を濡らして。
「……お兄様……お兄様ッ！！」
俺に頼って来たのは、単なる兄弟関係の延長線上だったのだろう。
……そこに特別な感情がないと知っても、腕の中で泣いているルリカゼを見ると、心が痛む。
……一体何が彼女を泣かせたのか。
……それは…
…いや、一時的に、ルリカゼが話したほうが、いいか？
恋焦がれる思いに眠れず彷徨い出てきた、とある町の夜の海岸で。
「…！あ、ケントさ……」
「（リーダー……いえ、スノア様、僕は、あなたの－）」
…二匹のポケモンが、真剣な瞳のキノガッサとグレイシアが、
「（……ばかばかばかばか、ケントのばか！）」
「（……そして…ケントも、勿論大好きよ！）」
「（……リーダー……うわあああん！）」
……お互いの想いを確かめ合い、しっかりと抱き合うのを。
……私は、見てしまいました。
「………つっ！」
声は途切れ途切れながら……それが何を意味するか、私には分からないわけもありません。
……何度も転び、何度も木に衝突しながら、それでも無我夢中で、逃げ出す。
この、どうしようもない世界から。
本当は、逃げられないのに。
…ありがとな、辛いだろうに…
……ああ、それは、こういう事だ。
ケントの奴が、恋人と先に結ばれちまったんだよ。
作品名：特にオチのないルリカゼお嬢様短編0 作家名：ケント@特ルリ