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伝説の裏舞台! 炎を呼び覚ませ!

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――夜。欠けた月と街灯の光の間を縫うようにして、小さな影が走っていた。
子供ほどの体躯に、ぼうと暗闇に淡く浮かぶ炎のような髪、額から突き出た二本の角に似た突起、尖った耳、三本爪の足、そして尻の辺りから生えたふさふさとした尻尾。

それは、異形だった。

異形の影は、風を切り薄暗い路地を奥へ奥へと駆けていく。
汗が頬を伝っても、足がもつれて転びかけても、ただひたすらに逃げるように、――否、事実それは、逃げていた。
逃げる小さな影の脳裏に浮かぶのは、黒い獣の影。
暗闇に馴染む黒い四足の体躯と、闇に浮かぶ三対の瞳……。
己と同じ、けれど己よりももっと強く強大な、あの、獣。

あれに捕まってはいけない。

本能が叫ぶままに、小さな影は必死に駆ける。

路地の奥へ。奥へ。


同じ頃、どこかの、というより“どこでもない”暗闇の中で、黒い獣はすん、と鼻を鳴らした。

――近くに、いる。求めるものが、かつて狂おしいほどに求めたものが、この、人間の街の、どこかに。
獣は暗闇の中に浮かぶ小さな影を見遣って目を細めた。
子供は手に入れた。
あとは、これを餌にあれをおびき寄せるのみ。
「あの力を、我が手に……」
うっそりと獣は呟く。

――もうすぐ、だ。






――〈俺は明石タギル。……ってうおわああなにすんっ

〈今日は俺が主役や! お前には引っ込んどいてもらうでえタギル!〉
〈ごほん! 俺は、真下ヒデアキ。冒険の舞台は……なんやよー分からん。とりあえずデジクオーツじゃあ、ない。〉
〈けど、デジモンあるところデジモンハンターありってな。舞台がどこやろうと関係あれへん。〉
〈デジモンが起こす事件を、俺達は解決していくだけの話や。〉

――〈さあ、デジモンハントが始まるで!〉






≪伝説の裏舞台! 炎を呼び覚ませ!≫






とある街の商店街。
夕飯時を前に買い物客で賑わう通りを歩きながら、桑茶の髪の少年――ヒデアキは、溜息を吐いた。
「はあー……最近はなーんもないなあ」
平和なのはいいことかもしれないが、面白いことも儲け話もない日常はいささか退屈だ。
「なんやおもろいことでもあればいいんやけどなあ……ん?」
ぼやきながらなんとなくふらふらと商店街の大通りから狭い路地に入ったヒデアキは、建物の陰になった薄闇に何かの影を認めて、目を瞬かせた。

誰か……子供くらいの影が、路地の片隅に身を隠すようにしてうずくまっている。

迷子か、それとも具合でも悪いのだろうか?
どちらにせよ気にかかる。
そうっと小さな影に近付いて、ヒデアキは声を掛けてみることにした。

「――お前、どないしてん?」
「っ!」

その瞬間、バッと影が顔を上げて、驚いたように目を丸くした。
しかし驚いたのは影ばかりでなく、ヒデアキもだ。

人のものにしては明るい色合いの髪に、額から生えた二本の角に似た突起、面妖な衣装に尻尾。

「……人間や、ない……? お前、デジモンか?」

「あ、やっ……」
じり、と一風変わった小鬼のような姿のデジモンが後じさる。
酷く怯えた風情に、ヒデアキは慌てて一歩退いた。
「あっ、いやその、俺は確かにデジモンハンターやけど、別に誰彼構わずハントしようなんて思ってへんで!?」
両手をぶんぶんと振って害意がないことを精一杯アピールすると、小鬼のようなデジモンは安心したのか大人しくまた座り込んだ。
「俺を、捕まえない?」
「捕まえん捕まえん。びっくりさせて悪かったな、……えーっと、あ、俺は真下ヒデアキって言うんやけど、お前、なんていうデジモンなんや?」
名前を知らないことに気付いたヒデアキが訊ねると、小鬼は眉を下げて一言、「……わからない」と呟いた。
「わからない?」

「俺、俺……探さなきゃいけないんだ」
ゆらゆらと不安げに視線を揺らしながらも、きゅうっと拳を握って名もないデジモンは言う。
「探すって……自分の名前か?」
名前が分からないということは記憶喪失だろうか、などと考えながらヒデアキが首を傾げると、ふるふると首を振って小さなデジモンはヒデアキを見上げた。

「俺は、俺を探さなくちゃいけないんだ」

「自分で自分を探すって、何言っとるんや?」
訳が分からないといった風情のヒデアキに構わず、すっくと小さなデジモンは立ち上がる。
陰から出てきたその姿は褐色の肌も炎色の髪と尻尾もやはり人間には有り得ず、それがデジモンであることを改めて示していた。
「わからない、けど、探さなきゃいけないんだ」
萌葱色の瞳がきらめく。
「……当ては?」
「ない、でも探す」
凛とした声は迷いを一切孕まずただまっすぐで、これ以上どうやって、だとか聞いたところで建設的な答えは返ってこないだろうと悟って、ヒデアキは呻いた。
がりがりと桑茶色の髪を掻き乱して、巨大な溜息を一つ。
それからふっと居直り、翡翠の瞳を名もなきデジモンに向けた。
にっと笑ってヒデアキは口を開く。

「よっしゃ、これも何かの縁や!手伝おたる!」

「えっ……いい、の?」
ぱちぱちと、名もないデジモンは目を瞬かせる。
幼げな仕種にヒデアキは小さく笑って、自分より僅かに低い位置にある炎色の髪をぽんぽんと撫でた。
「ええってええって、袖振り合うも多生の縁、や」
「……ありがとう」
おう、と頷いたヒデアキに小さなデジモンもつられるように笑った。


――その時、ヒデアキのズボンのポケットから短い電子音が響いた。
「ん? メール……おかしいな、マナーモードにしといたはずやのに……」
言いながら、ヒデアキがポケットから携帯を取り出す。
カチカチと携帯を操作するヒデアキを名もないデジモンが僅か首を傾げて見詰める。
「えーと、――なんやこれ?」
メールを見たヒデアキが怪訝な声を上げる。
「“スタートしますか? しませんか?”……って、どういうこっちゃ?」 

ゲームの始まりだと、誰かが囁いた。