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伝説の裏舞台! 炎を呼び覚ませ!

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ゲームの始まりだ。

携帯から響くように聞こえた低い声に、ヒデアキが噛み付く。
「ゲームって、どういうことや!?」
手の中に納まった携帯はそれきり沈黙して答えない。
代わりに口を開いたのは、戸惑ったような顔をした小鬼だった。

「未来を決める、ゲーム」

「未来を……? どういうことや?」
「わ、わからない。でも、俺、知ってる……。あの時と、同じ、YESを押して、だから俺は……!」
「お、おい?」
切れ切れに言葉を紡ぐ小鬼にヒデアキが戸惑いがちに手を伸ばす。
その手をぱしりと掴んで、焦ったように小鬼は言う。
「俺、行かなくちゃ……渋谷駅に!」
何で分かるんだとか、デジモンの癖に渋谷なんて地名を知っているのかとか、聞けることはいくらでもあった。けれど、曇りのない萌葱色の瞳にそれ以上何かを問うのも馬鹿らしくなって、ヒデアキは強く頷いた。
「おう!」

「……しっかし、お前の姿、人に見られたら困るよなあ……」
「大丈夫、みんなに俺、見えてないから」
「それはまた、都合ええなあ」
苦笑するヒデアキに名もないデジモンも笑って、そうして二人、少しずつ中天から滑り降りてくる太陽を尻目に渋谷駅へ向かって駆けだした



――来る。もうすぐ、あれが。
渋谷駅の地下、奥深く……そこで、獣が予感に目を細める。
餌につられて、もうすぐあれはやってくる。

さあ、早く、早く……。




橙に染まりながら伸びていく影法師を追うようにして帰路につく人が増える街中をすり抜けるようにヒデアキと小鬼は走って、走って、電車に乗って、そうしてついに渋谷駅のホームへと足を踏み入れた。

「しかし本当に誰にも見えてないんやなあ……俺には見えとんのに」
いっそ感心したようにヒデアキが小鬼へ話しかける。
「多分……俺じゃ、足りないから」
「足りない?」
どういうことだ、と聞こうとして、けれど小鬼がヒデアキの腕を引っ張って歩き出したせいでそれは叶わなかった。
「な、なんやいきなり?」
「こっち」
迷いなく小鬼は改札を通り抜け一直線に歩いて行く。

かちん、と雑踏の中で時計の針が5時59分を指す音が聞こえた。


「こっちって……エレベーター?」
「行こう」
下行きのボタンを押して、あまりに都合よくスムーズに開いたドアの向こうに躊躇いもなく小鬼は踏み入れる。
「お、おう」
慌ててヒデアキもエレベーターに乗り込み、閉ボタンを押す。
二人きりのまま、扉が静かに閉まった。

独特の浮遊感を伴って、エレベーターが下降を始める。
「めずらしなあ、この混む時間帯にエレベーター乗るのが俺らだけやなんて」
とん、とエレベーターの壁に背を預けてヒデアキが言う。
小鬼はヒデアキの返事を返すこともせず、ただ緊張した面持ちで扉の上部にある階数表示を見詰めていた。
つられるようになんとなくヒデアキもそれを見詰める。

地下一階、地下二階と光が移っていき、エレベーターの下降が、「んん?」止まらない。

階数を表示する光は最下層であるはずの地下二階を越えても尚止まらず、左に左にと明滅しながらどんどん移動していく。
ばっと扉とは反対側のガラス張りになっている壁面の方を振り返って、ヒデアキは目を丸くした。

「こ、これ、どこまで下がるんや!?」

ごうごうと外の景色はスピードを上げて、ヒデアキが混乱している間もそ知らぬ顔で上へ上へと過ぎ去っていく。
つまりエレベーターは下降し続けているということだ。
「……やっぱり」
小鬼が僅かにその萌葱色の双眸を伏せて小さく呟く。

「この先に、いる」

次の瞬間、どおっと鈍い、ほとんど激突音のような音を響かせてエレベーターは、止まった。
「そ、そうか……なんやよう分からんけど、探し物が見つかるならええやないか」
突然のことにガラスに頭をぶつけたヒデアキが痛む箇所をさすりながらへらりと笑う。
がこん、と音がして 、扉が開き始める。
「……ごめん」
開いていく扉を見詰めながら、小鬼はくしゃりと顔をゆがめて小さく呟いた。
「へ? 何で謝る……」
言いながら、開いた扉の先にあった光景を見たヒデアキは、息を呑んだ。

――なにか、いる。




――来た。
にたりと笑みの形に口を歪めて、牙を剥き出した獣は低く唸った。
「来たな、炎のスピリット」
ぎらり、濁った黄色い瞳が震えながら尚も立つ小さなデジモンを見据えていた。



ぞく、と背筋を悪寒が掻き毟っていく。
なんや、これ、こいつは。
炎のスピリットとは、この小さなデジモンのことだろうか、そうであるならばこの怖気は、ぎらついた殺気は決して己に向けられたものではないはずなのに、それでもヒデアキは震えを止められなかった。

エレベーターの外はぬめるような闇で、その只中に浮かぶ獣型のデジモンの黒い身体はともすればその闇に融けてしまいそうだった。
闇そのものにぎらついた金の瞳と牙を剥き出した口がついているかの、ような。
その闇の咢が開いて絡みつくように低い声が響く。

「アグニモン……いや、違うな。貴様、なんだそのちっぽけな姿は!」
獣の哄笑がどこまでも広がる闇の中を木霊する。

「まあ、いい。その身に宿したスピリットの力さえ手に入るなら俺は何だって構わん」

寧ろ好都合だと、獣が低く笑いを零す。
ぞっとして、ヒデアキは隣に立つ小鬼を見遣った。
前を、黒い獣を見据えたまま、小鬼は「巻き込んで、ごめん」と言った。
「今なら、お前は逃げられる」
強張った喉から出る声は低く、小鬼は逃げろとヒデアキに告げる。

「逃げろって、言うんか」
「ごめん」
「ごめんって」
半ば呆然と小鬼を見下ろすヒデアキに、小鬼は頓着しない。
すいと、今まで固まりきっていた足を動かし、エレベーターの向こうへと歩み出す。
「おいっ」

「ケルベロモン、お前に負けるわけにはいかない」

子供のヒデアキよりもなお小さな体躯で、けれど小鬼は凛として獣を見上げていた。

なんで、なんで、こんなに、こいつは。
怖くないんか、この、この、

「……っ大ボケが!」

吐き捨てて、ヒデアキはだっとエレベーターの外へ駈け出した。
そうして、小鬼を庇うようにして獣の前に立つ。
「ヒデア、」
「こんのアホ! ボケナス! ここまで引っ張り回しといてその言い草なんっやねん! 納得できるかタコ! たこ焼きの具にすんぞ!」
小鬼の呼びかけも聞かず、拳を握りしめてヒデアキは絶叫した。

「確かにこんなおっかないのがいるとは聞いてへんけどな、それでこの俺がきゃんきゃん鳴いて尻尾巻いて逃げるとおもたら大間違いや! 大体、そのちっさい体で何ができんねん! ちったあ考えんかいこのアホ!」

震えそうになる膝を叱咤しながら、ヒデアキは尚も叫ぶ。

今まで視界にも入れていなかった人間の子供の突然の叫びにケルベロモンと呼ばれた黒い獣は僅かに目を細める。
それを見て我に返った小鬼がようやっと口を開く。
「でも、ヒデアキは関係な」
「関係ないとか言うたらこの犬公より先に俺がしばくぞ!」
ぐっと押し黙った小鬼にヒデアキは畳み掛ける。
「袖触れ合うも多生の縁やって言うたやろ。大体、」
言葉を切って、ほとんど睨みつけるようにしてヒデアキは小鬼の方を振り返った。