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FORCE of LOVE

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05-1 再出発


 目を覚ましたら寝室まで珈琲のにおいが漂ってきて、フライパンの上で油が跳ねる微かな音が聞こえる。枕に額を押し付けて、ぼんやりと覚醒した頭でまず思ったのは、からだ痛い。それから幸せだなってことだった。重い体を起こして床に落ちたパジャマを羽織ると、自分で見える範囲にも昨夜の痕が残っていて、今さら恥ずかしいとは思わないけれどなんだかくすぐったくて、胸元の隠れそうなパーカーに着替えた。
「おはよう豪炎寺くん」
「おはよう。朝飯できてるぞ」
「うん」
 顔を洗って席につくと、焼きたてのトーストに目玉焼きとベーコンとサラダとヨーグルトと牛乳たっぷりのカフェオレが並んでいる。これぞ定番の朝食だ。足をぶらつかせて待っていると、両手にスープカップを持った豪炎寺くんが台所から出てきて目の前に座った。
「ありがとう。美味しそうだねー」
「珍しいな自分で起きてくるなんて」
「そうかな」
「そうだろ」
 冗談のつもりでキスをねだるように身を乗り出したら、触れるだけ僅かに唇が重なった。本当に冗談のつもりだったので思わず目をぱちぱち。珍しいのは豪炎寺くんの方じゃないか。動揺を誤魔化して口をつけたカフェオレはいつもより少し甘い気がする。
「…豪炎寺くんなんかあった?」
「別に」
 トーストを頬張りながらコーヒーを片手にテレビのチャンネルを変える豪炎寺くんを黙って見つめていると、ソファーに放っぽり出したままになっていた僕の携帯がけたたましく鳴った。パンを持ったまま立ち上がって電話に出る。背後で豪炎寺くんが行儀の悪さを咎める声が聞こえたがスルーした。ごめんねと思いながらも僕に反省はない。
「もしもし」
『おお、吹雪か?』
「染岡くん!」
 僕が叫ぶようにはしゃいだ声を上げると、豪炎寺くんも立ち上がって傍に来る。でも申し訳ないことに僕は電話に夢中で大してそれに気を留めることもなかった。
『テレビで見たぜ。吹雪、今年のMVPに選ばれたんだってな』
「うんそうみたい。え、それでわざわざ電話くれたの?ありがとう嬉しい」
『相変わらずだなお前…なあ…久し振りだし祝賀会でもしねえか?』
「本当に!?わあ、いつにしようか」
『俺はいつでも。お前忙しいんだろ?』
「そうでもないよ今日も休みだし」
『じゃあ、今日にすっか』
「うん!良いよ」
『あ、悪い電車来たわ。後でまた時間と場所メールするな』
「うん、待ってるね」
 通話時間15分。おそるおそる振り返ると、極めて機嫌が悪いオーラを放って冷めたベーコンを黙って口に押し込んだ豪炎寺くんが新聞を開いて顔を隠した。やばい。あれは確実に怒っている。やっと察する。どうやら朝から豪炎寺くんがちょっと変だったのは、僕がMVPをとったことを喜んでくれていたかららしい。まずい。悪いことした。精一杯のフォローのつもりで冷めた朝食をかっ込むように完食して、努めて明るい笑顔で新聞越しに話し掛けた。
「豪炎寺くんも行く?染岡くんが祝賀会してくれるんだって」
 長い沈黙と無言の重圧に耐えかねて僕の作り笑顔が微妙に崩れてきた頃になって、新聞を机にぴしゃりと置いた豪炎寺くんが、行かないと言い切って食器を下げ出した。