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アノンの父親捏造まとめ

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「あははは!」
 地上の喧騒が嘘のように静まり返った百貨店の屋上で、狂ったように嗤う男がいた。量が多い青紫の髪に、地獄人に共通する特徴である血の色の―――紅い色の、眼。
 先ほどマーガレットらとも接触したこの地獄人は、その視線だけで百貨店内から地上へ我先にと逃げ出す天界人たちを見下ろした。
「あんなにはしゃいで…お馬鹿さんだねえ、天界人というのは。私はただ今後の“計画”のために、ほんの少し下見に来ただけなのに」
 紅い眼を細めてニィと笑む。良く言えば愉しげに、悪く言えば猟奇的に。
「でもせっかくあれだけ必死に逃げてもらったんだから…」
 フェンスから離した左手を、きつく握る。
「ほんの少しだけ、壊して差し上げようかな。平和惚けしている天界人へ、10年以上後の“計画”に対する警告として」
 彼は左手の拳に、爪がくい込むほど力を込めた。細められた眼が、しだいに極地の氷のように冷たい気配を纏い始めた。
 紅い眼をした歳若い男は、その左腕を勢い良く振り下ろした。自分がじっと見下ろす先、コンクリートを抉るようにして。
  ガガガガガガッ
 水に沈めるかのように容易く、その左手はコンクリートと鉄筋の中に沈んでいった。百貨店の外壁の一部は、天井から文字通り抉られて落ちた。

「…ロベルト!?」
 耳を覆いたくなるほどの怒号と叫び声が飛び交う喧騒の中、妻が突然上げた悲鳴にマーガレットは振り返った。彼らは今百貨店内からようやく出たところで、同じような買い物客が周りを必死の様子で駆け抜けていく。
「どうしたんだ」
「ロベルトが…カートから出たみたいなの」
 妻は息を呑むようにしてそう言った。
「―――何だって!?」
 こんな騒ぎと人ごみの中逸れたらと思うと顔から血の気が引くのを感じながら、彼は妻と共に辺りを見回す。
「あっ…いた! ロベルトがいたわ、まーちゃん!」
「本当かい!」
 安心感から来るため息をついて後ろを振り向く。百貨店のドアから5メートルと離れていないところに、妻に抱き寄せられる息子がいた。
「良かった、ロベルト…っ!!?」
 彼がもう一度息を吐いたとき、今度は周囲の人々から血の気が引いた。

  ズドオォォォ…ン

 人々が聞いたのは百貨店の一部が崩れ落ちてゆく音、振り向いたマーガレットの目にしたものは、真っ逆さまに落下してくる瓦礫―――青紫の髪の地獄人が抉った、コンクリートの塊。
 幸い買い物客たちは百貨店から十数メートルは離れたところに避難していて、瓦礫の下敷きになる恐れはなかった。
 マーガレットの妻と息子を除いては。
「ふたりともすぐにこっちに――」
「まーちゃんっ!!」
 間に合わないと悟った彼が次に見たのは、自分に向かって突き飛ばされたロベルトの円い瞳と、妻のいつもとは違う微笑みだった。
 それだけしか見えなかった。
「ロベルトをお願いね。…マーガレット、」

 ――愛してる。

 それだけしか、聞こえなかった。