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君の傍へ

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 神様を殺せない男。


 ポーの『大鴉』。
 恋人を失くした男のもとに大鴉が現れ、
 何を訊かれても<Never more>と答える。

 Never more・・・もはやない。


 授業の課題で、世界中の作家の中からひとり選んで、その生涯をまとめたレポートを書くことになって。
 選んだのは『エドガー・アラン・ポー』だった。
 それを聞いたウォルターが、その時ひどく顔を歪めて、吐き捨てるように『大鴉』という詩を知っているか、と訊いてきた。
 その時は、『知らない』という答えで、その話はおしまいになってしまったけれど。


 ……ズダンッ! ダンッ!!
 ダーツの矢が的に突き刺さる。
 ウォルターは新しく矢を手に持ち、それを的に投げつける。
 ヒュッ……ダンッ!!
 音が部屋に響く。
(うるさいな……)
 机の前に座っていたアンディは振り向いて、先ほどからダーツに向かって矢を投げているウォルターをにらみつける。
 寮の食堂で夕食をとり、ふたりの部屋に戻ってからずっと、ウォルターはダーツを投げている。
 アンディの方は宿題をしていて、その大きな音ははっきり言って迷惑だ。気が散る。落ち着かない。
 だが、アンディは注意することをしなかった。
 ウォルターがこれをしている時はたいてい何かあった時だ。機嫌が悪い。苛々している。
 趣味といえばそうなのだろうが、憂さを晴らすためにしているという感じがする。
 それをすることが楽しくてしているという様子ではない。
 そうではなく、たとえば手に刺さったトゲを引き抜いて放り出すように、胸に刺さったトゲを力任せに引き抜いて、それが刺さっていた痛みや苦しみや憎しみ、苛立ち、そんなものを全部こめて、一本一本ぶつけるべき相手……的……に向かって投げつけているという感じがする。
 ダーツの点数とかを気にしているふうでもない。
 ただ投げて、また戻して、また投げる。それだけだ。
 ひたすらに的に向けて矢を放っている。
 それだけ。
 思い返せば、今日は寮に帰った時から様子がおかしかった。……いや、正しくは、手紙を見てからだろうか。
 めずらしく郵便受けに手紙が入っていて、それを部屋に戻ってから開けて無表情に見ていたウォルターは、その後ふたりで夕食を取りに行った際も無言で、なんだか暗い雰囲気だった。
 よほど良くない知らせだったのだろうか。
(……まぁ、いいけどさ)
 詮索する気はない。自分には関係がない。
 騒々しいのも我慢する。自分だって、迷惑をかけることはあるんだから。
 ……というのが建前で、本当は、自分も踏み込まれたくない場所があるからだろうな、と思う。
 適度な距離を保たないと、寮の同室で生活はしにくい。
 いつのまにか首を傾げてそんなことをぼんやり考えていたアンディは、ウォルターがダーツを投げることを止めてじっと自分を見ていることに気付いてハッとした。
「うるさいか?」
「……別に」
 まだ苛立ちを残した険しい顔で訊ねられて、ゆっくりと首を横に振る。
「ただ、見てただけ」
 その答えをどうとらえたのか、ウォルターが『はあっ……』と大きなため息を吐いて、ダーツの矢を抜きに行く。
 数本を手にして、振り返った時には、いつもの人懐っこいやんちゃなこどものような笑みを顔に浮かべていた。
「そうだ、ダーツ教えてやろうか、アンディ」
 いい思いつきといったふうに明るく言う。
 明るすぎるほどに。
 アンディもそれに付き合うことにした。
「リンゴを頭に乗せて壁に立ってみて、ウォルター」
「OK、わかった。できるんだな。俺が悪かった!!」
 ウォルターが片手を前に突き出してぶんぶんと首を横に振る。
 いつもの調子だ。
 ウォルターは自分の机の方に歩いてきて、専用のケースにダーツの矢をしまう。
 ふう……と息を吐いて。
 その口元には小さな笑み。
 そんなウォルターに向かって、アンディは真顔で言う。
「でも、ウォルターの頭もリンゴも赤いから、間違えるかも」
「何さらっと怖いこと言ってんの!?」
 驚き目をつりあげて騒ぐウォルター。
 もうすっかりいつも通りだ。
 空気が、戻った。
 アンディはスッとする。同時に、ホッとする。
 これでいい。
「ウォルター。先にお風呂入ったら?」
「そうだな。そうする。汗流したい」
 『ダリぃけど』と口癖を言って、ウォルターは着替えを手にし、洗面所続きの浴室へ向かう。
 その背中をアンディは見送った。


作品名:君の傍へ 作家名:野村弥広