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君の傍へ

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 神様がいなければ、天国がなければ、ウォルターが苦しむことはない。
 だけど、そうしたら、ウォルターの中のエミリーは救われない。
 ……何かと引き換えに、何かを得る人がいる。
 だけどウォルターは、自分と引き換えに、大切な人を守る人。
 ……不器用な、ヒト。
 神様しか、ウォルターを許すことができない。
 だけど、ウォルターの神様は、ウォルターの神様だからこそ、ウォルターを許すことがない。
 ……そんな神様いなければ、ウォルターは許されるのに。
 苦しまなくて済むのに。楽になれるのに。
 だけどエミリーのために、ウォルターの神様は居続ける。
 そしてウォルターを許すことがない。
 二度と会えない彼女のために。
 この男は、すべてを捨てたのだ。
 なんとやさしく、悲しい男。
 『もう彼女は死んでいないんだよ』とか『生きている人の幸せの方が大事だ』とか『前を向いて今を生きなよ』とか……そんなこと。
 どれも違う。そんなことを言いたくはない。そうじゃないんだ。
 そんなことじゃなくて。
「……ボクも、天国には行けないよ」
 思うと同時に声が出ていた。
 ウォルターが驚きに目を見開いて振り返る。
 アンディはもう一度きっぱりと言った。
「ボクは天国には行けない」
 自分にも罪がある。だから行けない。行くことができない。だから……。
 ゆっくりとウォルターの方に歩み寄る。
 どうしても、何故だかどうしても、そうしたかった。
「ウォルターと、堕ちる先は一緒だ」
 だから、ひとりじゃない。
 神様とか、天国とか、はっきり言って自分にはどうでもいいことだけれど。
 自分は神様を知らない。当然、自分の中に天国も存在しない。地獄のような現実を知っている。ただそれだけだ。
 だけど……。
「死んだら、ウォルターと同じところに行く」
 罪がある人が行く場所へ。
 どんなところだか知らないし、どうでもいいけれど。
 大事なのは……。
 ふと首を傾げる。
(なんだろう、この気持ち……)
 ウォルターの前に立ち、少しためらう。
 相変わらず、なんだかぽかんとした顔で、自分を見ているウォルターに。
 そっと手をのばして、髪の毛に触れた。
「……魂だけになっても、ウォルターに会いに行くから」
 自分は天国に行ったりしない。ウォルターをひとりにしたりしない。
 ……だから、自分からひとりになんてならないで。
 『天国へ行った』、なんて言って、突き放さないで。
「ボクは男だ。……強いから、大丈夫」
 祈らなくていい。気に病まなくていい。心配しなくてもいい。何ひとつ、ウォルターのせいなんかじゃない。自分を責めなくてもいい。大丈夫。
「大丈夫だから……」
 ……大事なのは、きっと、この男を孤独にしないこと。


作品名:君の傍へ 作家名:野村弥広