あんなに一緒だったのに
縋るように鏡に触れているキラの手に重ねるように、アスランも手を置いた。こんなに近くにいても決して触れられない。それがいまのふたりであるなら、これほど皮肉にあつらえたものはない。
アスランが目を閉じる。それに従ってキラも目を閉じた。キラが上を向く。アスランの整った顔がゆっくりと近付いてくる。
だが、その先にあったのはぬくもりではなく、冷たい鏡の感触だけだった。
ふたりはお互いに背を向けて歩き出していた。
アスランはザフトへ。
キラはアークエンジェルへ。
ふたりとも振り返ったりしなかった。そうしたって、どうにもならないことを悟っていたから。
あの接吻は、お互いへの免罪符のようなものだから。
「…トリィ?」
トリイの鳴き声で目覚めた。
きっとないだろうと思われた終わりはこんなにも唐突に訪れた。白い金属が構成している部屋は、
もう見慣れた光景だった。ここはアークエンジェルの中のキラに与えられた一室。どこにも鏡なんてない。
ベッドで横になったところまでは覚えている。だがそのあとの記憶が鏡越しの接吻だけだということは、
やはりあれは夢だったのだろう。冷静になって考えてみたら、アスランがあんなふうに自分の隣にいるわけがない。
むっくり起き上がってみたら、頬が濡れていた。
――――夢でいい。あんな自問自答したくない。自分たちがどんなにあがこうとももはやどうにもならないところまで
運命は突き進んでいる。後戻りなんて今更できない。
「トリイ?」
心配そうに聞いてくる…思えばこれも彼からの贈り物なのだ…トリイにキラは優しく微笑みかけた。
「なんでもないよ。大丈夫」
キラはベッドを抜け出し、しっかりとした足取りで歩き出した。
部屋を出るときの彼の目は乾き、涙はなかった。
作品名:あんなに一緒だったのに 作家名:ジェストーナ