二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

アリス振り回される(後編)

INDEX|1ページ/7ページ|

次のページ
 



☆ 5.アリスの白いドレスと赤いドレス


深呼吸をすると、シングルハングの窓を開ける。肩幅的にアリスがやっと通れるほどの大きさの窓だった。飛び降りれば3m少しほどの高さがあるが、これは何とかなりそうだった。裏には森が迫ってきている。もう一度室内を振り返った。
無残に切り落とされたウエディングドレスの残骸と、脱ぎ捨てたペチコート。鏡には、シスターの直してくれたベールを掛けると、口紅で「シスター騙してごめんなさい。」とだけ書いた。窓枠に手を掛け、先ずは脚から外に出る。丁度腰まで窓の外に出た所でドアの所で声がした。急いで上半身も窓枠の外に出してゆく。あと少しというところでブラッドが入ってくるのが見えた。此方を見た瞬間に目が合う。アリスは窓枠から手を離す。直ぐ目の前の空気を、ブラッドの手が攫って行った。着地すると直ぐに森に逃げ込む。此処からは時間と体力の勝負だ。

「は~、凄い物見ちゃった!」

着地して振り向くとエースが立っている。

「ごめん!急いでるから!」

アリスがエースの脇を通り抜ける時、腕を掴まれた。

「エース、お願い手を放して。今は急いでるんだってば!」

「君一人じゃ逃げ切れないよ? 相手は帽子屋さんでしょ?」

エースはアリスを抱き上げて森の中へ入っていく。

「舌を噛むから喋らないで。」

アリスの方を見て笑うと、森の奥へ向かう。アリスには全く土地勘がないので何処に向かっているのか見当も付かない。こうなったらエースに身を委ねるしかない。



「それで、これはどう言う事?エース、私に喧嘩売ってるの?それともブラッドの味方なの?」

今二人は森の中で、極近くに帽子屋屋敷が見えている。これはアリスも想定外だった。だが考えてみれば、エースの方向音痴は病的だったことを考慮しなかった自分に責任が無い訳ではない。それに、これで図らずも自分の位置は正確に知ることが出来た訳だ。

「俺、てっきり遊園地の方へ行ってるつもりだったんだよな~。」

悪びれない彼に、状況を忘れて笑いが出る。

「エース、お願いだからハートの城に連れて行ってよ。」



その後何度かエースの近道に泣かされたが、やっとハートの城に到着できた。

「どうする?ペーターさんのところに行く? それとも陛下のところ?」

「ん~、ビバルディにご挨拶はしなくちゃね。でも、その前に着替えたいな。メイドさんの服って借りてもいいかな。」

時間帯は変わり夕方になっている。裸足に無残なウエディングドレス姿のまま、メイド服を借りに城内の廊下を歩いていると、後ろから声をかけられる。

「エース! お前、誰を連れておるのじゃ?」

「ビバルディ!」

「アリス・・・お前か! なんじゃ、それは何かの仮装か? いったい何のまねじゃ。」



「はぁ・・・  だから言ったであろうが、ホワイトの方がましだと。」

シャワーを使い、ビバルディの服を借りた。彼女の部屋で紅茶をいただきながら、経緯を説明したのだが、案の定呆れ果てられての溜息と先の言葉だ。

「此処に居れば問題は無いのだが、近々舞踏会を開かねばならぬのじゃ。問題はそれじゃな。そこを乗り切れば滅多な事では帽子屋も手が出せぬ筈。」

「舞踏会。ブラッドも言っていたわ。私、部屋に一人で静かにしているから大丈夫よ。」

「アリス、それでは攫ってくださいと言っているようなもの。何故、帽子屋が追っ手を放たなかったか解らぬか? 迷走するエースを追うより、城で確実にお前を手に入れる方が労力を使わずに済むからじゃ。舞踏会当日は領地外の人で溢れかえり、警備も手薄になるからな。帽子屋は自分の部下を大勢引き連れて、堂々と此処へ乗り込んでくる口実が有るわけだ。警備の隙を突く事などあの者には容易いことだろうて。」

「ビバルディの部屋のクローゼットとかじゃ駄目?」

真剣に提案してくるアリスに、ビバルディは愛らしい存在を思わず抱き締める。何としてでも護りたいと思うのだった。

「一つだけお前を護れる場所があるやもしれぬが・・・ 」
「アリス!!」

ノックも無しに女王の私室のドアを開け放ち、ペーターが血相を変えて入ってきた。そのままアリスに縋り付く。

「アリス、アリス、大丈夫ですか?怪我はありませんか?帽子屋の奴、絶対に許せません。僕のアリスをこんな酷い目に遭わせるなんて。やはりこの前殺しておくべきでした。」

「ホワイト、お前のような礼儀知らずがこの城の宰相とは情けないわ。」

ビバルディは扇子で口元を隠し、吐いて捨てるように言う。

「アリスの一大事に礼儀など取るに足らぬ事でしょう。ああ、これからは僕が貴女をお護りしますから。」

「お前、何か具体策でもあるのか?」

ビバルディの眼光が鋭くなった。声も低くなる。ペーターは中指で眼鏡を上げながら女王の方を見る。

「木を隠すには森ですよ。」

ビバルディの赤い唇の両端が大きく持ち上がる。

「よし! ホワイト、お前がその指揮を執れ。それから、後で話がある。」





「ビバルディ・・・本当にこれドレス用の下着なの? 恥ずかし過ぎるんだけど・・」

鏡に映る自分の姿に赤面する。ビスチェで寄せて上げられた胸は半分も隠れていないし、用途の良くわからない付属品がある。

「何を言っておる。これなど可愛い方だぞ。出来るならもっと腰を締めて胸を強調させたいところじゃ。」

そう言いながら、ストッキングとベルトの繋ぎ方を教えてくれる。もう一度鏡を見て余りの似合わなさに苦笑する。紅い下着だけが異様に色っぽい。しかしそれも赤いパニエを着ければ隠れて気にならなくなった。数人のメイドに深紅のドレスを着せてもらう。全体にギャザーをたっぷりととった複雑な切り替えのあるプリンセスラインのドレス。二の腕の半ばから手首まではギャザーでぴったりフィットした袖が、その先は手の甲を隠すように広がる。
肩も鎖骨も胸の谷間まで余りに露骨に見えて驚く。胸から二の腕までの横一線のカットは余りに大胆で、少しでも胸が隠れるように自然に手で生地を引き上げてしまう。金色の髪は全体にウエーブがかかった状態で纏め上げられ、金の垂れ下がるタイプの髪留めを付ける。金の装飾の付いた真っ赤なハイヒールを履いて出来上がりだ。
メイドを下がらせた後、ビバルディは目の前で、まるで空気中から取り出したように見えた金色のマスケラをアリスに着ける。額の半分から鼻までを覆うマスケラは、ピタリとアリスの肌に吸い付く様に張り付いた。

「良いかアリス。今からお前を隠す魔法をかける。私が迎えに行くまでは一言も発してはならぬ。解ったか?この間教えた道を真っ直ぐに行くのじゃ。そこで何があっても、誰に会っても声を出すでないぞ。」

アリスは頷くと部屋を出た。此処からは自分ひとりで切り抜けていくしかない。何度も練習した通りに廊下を行く。舞踏会会場への階段を下りて、庭園に出る。迷路の端の秘密の通路、其処にたどり着ければ、後は一本道だ。

廊下を曲がると舞踏会会場への階段。丁度曲がり角でぶつかりそうになる。

「失礼。」