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すずきたなか
すずきたなか
novelistID. 3201
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きみのそのあの

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死武専を出てからずっとソウルの挙動がおかしい。ずっと言っても学校から私達のアパートまで十分程度なのだが、その道中の半分くらい、前を見たり横を見たり私が睨むと顔をそらしたり、今更ながらお上りさんみたいな真似をしている。何がしたいのかさっぱり分からなくて、おかげで今まで自分が喋っていた話の内容も忘れてしまった。あれ、ソウル相手にどんなこと喋ってたんだっけ?凄くどうでもいいことのような大切なことのような。さっぱり思い出せない時点で口が開かなくなってしまい、私とソウルの間には沈黙が漂う。かといって夕方のデスシティは人通りも多い方で、喋らなくても辺りは充分うるさかった。ソウルの頭に夕日が当たり、何かを考え込むような微妙な表情を演出している。けどこちらに向かって話しかけることはない。私は今まで話していた内容をどうにか思い出そうとしていた。忘れていたってことはどうでもいい内容に違いないけど、確か物凄く早口で喋っていた気がするから、帰り道の十分間で話したい事柄だったに違いない。何だっけ、何だっけ、うーこうゆうのってイライラする。イライラするので、アパートの入り口前で足を踏み締めて振り
返りソウルの移動を止めてやる。鎌はギクッとした表情を作ってビタッとその場に制止する。
「あんた鬱陶しいのよ!さっきからキョロキョロキョロキョロ何見てんのよ!不審な真似を、」
するなっ!と完璧に八つ当たりの平手打ち。ソウルの頭がぱこーんと左側に傾いた。避けるでもなく反撃するでもなく、ソウルは殴られた頭に手をやると口の中でもごもご。何だその動作。ちょっとだけ残っていた「理由もなく殴ってごめん」的な気持ちがどっかに消え失せ、私は手を握り締める。
「言いたいことがあるならはっきり言えよ!」
アパートの前には誰も来ない。来たら私達のこれはどう映るだろう、痴話喧嘩ってやつか?職人と武器だと分かっていたなら、パートナー間の揉めごとはよくある話だとしてやり過ごしてくれるだろうか。私はソウルが変なことを言ったら迷わずもう一発くれてやるつもりで(何も言わずに黙っていても殴るつもりなので結局ソウルは痛い思いをするだろうけど)肩をいからせた。これ以上待たせたら何をするのか分からない。今の私は随分おっかない職人のはずだった。でも職人って皆そういうものだろう?優しい職人なんてすぐ死んでるはずだ。私だって例外じゃない。死にたくないから怖くなる。少なくとも、武器に気を抜くなんてありえない。
告白を躊躇う女の子みたいにいつまでも頭に手を当てたままのソウル。もしかしてどっか壊れたのかと思うけど(私は時折武器は武器であってホモサピエンスの身体構造をしていないと妄想する時がある)、固まってるだけできっとうまい言い口でも考えているんだろう。いちいちうまいこと言わなきゃ気が済まないのかと腹が立つが、本人の好きでやっていることみたいだし、それを矯正する資格も私にはない。とりあえず、待ってやる。
「…………や、ああ、うーん、言いにくいんだけど」
ようやく口を開く。もう最初の「や」の時点でぶん殴りたくなるが、後ろにずりずり退却してリーチ外にソウルを出す。睨んで先を促した。ソウルは頭から手を離して続きをぼそぼそ喋る。
「…………マカと」
いちいち最初に間をためるな。
「手でも」
ぶつぶつ単語を区切るな。
「繋ぐか、と思って」
変なところで話を止めるな。
「………………」
て、おいおい。ソウルはまじで話を止めてしまう。私の突っ込みは全部口に出していないのに全て聞こえていたような停止っぷりだ。あとついでに言うとソウルの喋った言語の意味が分からない。意味の裏が分からないんじゃなくて本当に本気で真なる意味においてソウルのセリフが理解できない。本当に英語か?世界の裏側で話されてる言語じゃないのか?その地域では「マカトテヲツナグカトオモッテ」が「今日も随分暑いですね」みたいな意味になるとかそうなんじゃないのか?聞き取れない私は「は?」と声を漏らして、「はああ?」ともう一回理解不能を主張する。
「意味が分からない」
「意味が分からないってどういう意味だよ」
「あんたはジャングルの奥に住んでる部族の言語を覚えるのが趣味なの?」
「俺は今この国の共通語で綺麗に発音しました」
「ごめん聞き取れない。もっかい言って」
「手繋いでいいマカ?」
答える代わりに大股で近付いて思いっ切り頭をぶっ叩いた。ソウルは少し怯んで多少頭をそらしたが完璧に避けたことにはなっていない。むしろ避けたことで側頭部を狙った平手が頬と目の中間辺りにぶつかり、バチーンとそれは気持ちのいい音を立てた。私の心臓はバクバク物凄い勢いで高鳴っていてどうしようもない。別に可愛らしい意味のドキドキじゃなくて暴力を振るったことによる興奮の現れだ。今なら魂だって取れそうだ。それ以上自分が暴力の解放感に犯されるのが怖くて殴った手を体の横にまで引っ込める。代わりに口で文句を言おうとしたがパクパクなるだけで声が出ない。体の体勢を整えて深呼吸までしてようやく声が出る。怒りで我を忘れるとはこのことだ。こんなん久し振りだ。
「死ね!」
ソウルの顔がぐにゃりと歪んで泣き出す一歩手前になった、ように見えた。実際は泣いてないしそこまで悲しそうにも見えない。今のは私の願望だ。「死ね!」これが酷いのかどうか分からない。とっさに言える言葉なんて限られてる。あとが続かない。
「崖から落ちて死ね!」
「何でそこまで言われなきゃいけねえんだよ!」
「カラスに食われて死ね!鎌折られて死ね!滅べ!」
そこまで言ってようやく自分の中のこどもを理解する。何だ今のは。今私の中で何があったんだ。ソウルに言った言葉を後悔したというより自分が外で恥ずかしげもなく怒鳴ったという事実に打ちのめされそうだ。しかも殴られてぽかんとしている武器相手に。
気付くと辺りの夕日は大分濃くなっていて、橙というより焦げ茶色みたいになっていた。二回目の自問。何やってんだ?折角早く帰ってきたのにこんな下らないことで時間を費やしたのか?費やしてしまったのか?ああもう馬鹿みたい、というか馬鹿そのものだ。自分の中の暴力嗜好が嘘みたいに引いていくのが分かる。ここら辺でどうしてこんなにイラついたのか自己分析を初めて恥ずかしくなるのも手だろう。落ち着け落ち着け。あー恥ずかしい。
ソウルはまだぽかんとしている。頬に手は添えていないが体の横でぶらついていた。その手首を引っ掴んで鞄からアパートの鍵を探る。引きずられているソウルが哀れな声を出した。
「何だよお前もう意味分かんねえよ」
「こっちのセリフだよッ!」
作品名:きみのそのあの 作家名:すずきたなか