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すずきたなか
すずきたなか
novelistID. 3201
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きみのそのあの

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ああもうこの野郎職人をイラつかせることにしては天才的だ。私は掴んでいる腕が「ソウルという人間の腕」ではなく「ソウルという名前の鎌の柄」ということにしてどんどん階段を上がっていく。後ろでもたつく足音。私はもたつかない。ギョッとして端に寄る住人をすり抜けて、自分達の部屋に入る。玄関を開けてすぐ背負い投げに放り投げようとしたが、体勢と身長差が悪かったのかソウルの体は傾くだけで全然投げられない。仕方なく私は手を離して(気色悪いことに汗ばんでいた)とにかく自分の部屋に戻る。後ろで立ち尽くしているソウルの気配があるけど振り向きたくもなかった。明日からはジュウドウの練習も嫌がらないできちんとやることにしよう。とにかく手を洗う必要がある。





マカは変なところで、というかこの際ぶっちゃけるが常にあらゆるところがガキくさくて本当に参る。さっきだって何だ、俺はそんなにキレられるようなことを言ったのか?そこに気付けない辺り俺だって相当こどもなんだろうけどそれにしたってマカのあれはないだろう?アパートの前で散々暴れたあげく帰ったら一時間部屋にこもりきり。やっと出てきたと思ったらけろっとした顔で居間で本を読んでいる。俺は食事当番だから台所でカタカタ包丁を動かしてるとそういうわけだ。もう意味分かんねー。まだ頬がヒリヒリするし。
それにしても、さっきまで俺は何で手を繋ごうなんて思ったんだろう。考えの変化が唐突すぎてまるで自分の中にもうひとりいるような感じだ。ありえない。だから俺があれこれ考えたあげくの行動なんだろうが、そう思うとやはり意味が分からない。死武専から帰る途中の長い石畳の通路で、マカの頭に夕日が当たってただでさえ明るい髪の毛がオレンジ色に染まって、べらべら話す内容が右から左に抜けていって、それで俺は右から左に首を動かしたのだろう。で、そこに手を繋いでいる誰かを見付けたのかもしれない。それが羨ましかったのだろうか、まあ完全なる想像だけど。でもアパートに着くまでずっと手を繋ぐ方法を考えていたのは確かである。
マカと手を繋いだことなんて何回もある。当たり前だ。握ってもらわなきゃ俺を振るってもらえない。そうなったらマカは悪人に殺されて死ぬ、もしくは大怪我をする。だから俺は知恵を働かせてでもマカに触ってもらわなきゃいけない。しかしその知恵の振るいどころは今じゃない、別の場所、別の時間だ。そう、今じゃ、ない。ストン、サクン。包丁のリズムが妙に一定で気持ちがいい。
「あああああーーー!!」
後ろから大声。俺は大袈裟にギョッとして肩が持ち上がり危うく指を切断するところだった。洒落じゃない、この包丁は最近研いだばかりで切れ味が抜群なのだ。遅れてやってきた心臓のバクバクを押さえて振り向くと、マカがソファーから立ち上がって晴れ晴れとした笑顔を見せていた。その首がぐるんと回り俺の方に向く。首の回り方が化け物じみていて俺はゾクリとする。
「思い出した!」
「何をだよ」
「昼間話してた内容!」
何がそんなに嬉しいのかさっぱり分からないはしゃぎっぷりで、マカは飛び跳ねそうになりながら俺を手招いた。飯を作らせないつもりか。腹減ったから何か食いたいのに。
最高にどうでもいい話題だった。武器にとってどうでもいい話題を提供することにかけてはほんと天才的だなこいつは。
「武器が体の中にためられる魂の話をしていたのよ!」
マカは自分が忘れていた話を思い出してよっぽど気分がいいらしい。俺が右から左だったことも気付いていたらしく招き寄せて正面に座らせる。俺は自分が全く聞いていなかったということはつまり気にとめるような内容じゃないと結論付けているのでこの時点で既に心ここにあらずだ。エプロンも着けっ放しでもう聞く気がないのがひと目で分かる。
「ソウルは食べた魂をためてるわけでしょ。じゃあその魂ってどうなってんのかって思ってさ。パパ解剖してみれば分かるのかなーって思って博士に聞いたけど本棚みたいなものはなかったって言ってたし、つまりはソウルにもないって結論付けるのが妥当よね。でも魂が溶けて混ざり合っちゃったりしたら数が分からなくなるでしょ?けど武器はきちんと数えられてるし日数が経過することによる魂の劣化もない。そもそも外から取り出すことが可能だわ。つまり、魂はきちんと蓄えられていて、その機関が体の中にあると考えるのが普通よね。そこで仮説がひとつ。人間の状態の武器を解剖しても意味がない、ということは、武器の時の武器を調べれば何か分かるんじゃない?ということよ。ま、残念ながら、武器形態中は傷付けるのが酷く困難だから、適当な好奇心だけじゃできない問題だけどね。それでも決意をもってやればできないことじゃないと思うわ。だって魂だし、武器だし、それは職人が知っていてもいい構造でしょ?その方法をずっと考えてたのよ、確か。ソウルにも聞いたでしょ?うまい方法がないかって。全部無視されたからさっきまで忘れてたけどさ。聞いてんの?」
あーあー聞こえない聞こえない。この馬鹿自分が何をくっちゃべったのか分かってんのか?俺の食欲を根こそぎ持っていくような真似をしやがって。おかげでエプロンを着けている意味が消えてしまった。腹の減り方が体に痛みと気持ち悪さを訴えている。でも職人が酷いことを言うからものを食べられない。俺は首を振って、最高に気持ちいいですという表情の職人から離れることにする。
「ちょっと、また無視かよ!」
うっせー撤退だ。お前の話なんて聞きたくない。解剖がどうのというグロい話ならなおさら絶対に耳に入れたくない。そういうのが好きそうな人間にだけ話していればいい。差別をするわけじゃないが、例えばブレアなんかが好みそうな話題だろう。話す相手を間違えている。武器に言うな、武器に。
「俺がその話を知ったところで何の得もないだろ」
「損得の問題じゃないわ、知識を増やすという意味で知った方がいいんじゃないの、てことよ」
「そんなこと聞いたらもう魂うまくない」
「まだ食べなきゃいけないし、デスサイズになってからもきっといくつか魂は食べると思うわよ」
マカが急に未来の話をし始めたので俺はギョッとして立ち止まる。今日はどうしてかビビってばっかりだ。そうしてこのビビりが騒動の原因になるのだ。勘弁して欲しい、俺何も悪いことしてねえだろ?





ソウルのギクッがまた始まって私のイライラにスイッチを入れる。でも今度のは大分ゆっくりでさっきみたいに唐突じゃない。少なくともソウルを殴ろう蹴ろうという暴力的な衝動はまだ来ていない。ただその「何で自分なんだ」という赤い目玉と視線が合った瞬間、会話を思い出した喜びが全部吹っ飛んで数時間前のイライラが帰ってきたということは分かった。駄目だ、話を切り上げないと。一日に何回も「パートナー」を殴るなんて笑い話にもならない。面白くもないし手も痛い。
このイライラのせいでまた何を喋っていたのか忘れてしまう。そもそもソウルがどうして体を強張らせているのか見当も付かない。私は何を言ったんだろう、思い出してみよう。落ち着け、それが寛容だ、手を、そうだ手をまずはテーブルに付けて、できるだろう?
「た、魂、魂の味なんて分からないって、前に言ってたじゃない」
作品名:きみのそのあの 作家名:すずきたなか