きみのそのあの
頭に呼吸を置かない声がうずくまっている私の上から降ってくる。こちらの返事を期待しているわけでもない冷めた声だ。顔を見たくない、けど声で誰かなんて簡単に分かる。
ソウル。
「怖くないから、握らない」
暗号みたいなこと言うな。
「今のマカは、怖くないから、手を握ろうとは、思わない」
……分かりやすく言い直したって無駄なんだよ。
答えたくないから何も言わない。ソウルだって多分私に何か答えて欲しいなんて思っていないだろう。それできっとこの言葉で、今日のごたごたをなかったことにするつもりなのだ。別に嫌じゃない。それで気が治まるなら好きにすればいい。私だって、好き好んで殴ったりイラついたりしているわけじゃない。そうならないならそれに超したことはないし、面倒な状況を引き起こしたいとも思ってない。
怖くないから、手を握らないだと?あの馬鹿、職人を見下すのもいい加減にしろっていうんだ。ついでに人の心に勝手に説明をつけるな。思い込みでものを話すな。勝った気になるな。油断するな。
油断、させんな。
次の朝ニコニコ顔で帰ってきたブレアは平気な顔でマカの腫れた頬の手当てをしていた。一体誰にやられたの〜?との台詞付き。いい度胸しているというか、この猫は本当にマカが好きすぎて困ったものだ。ちなみにマカの返事は、
「可哀想な魔女がいたので頬を貸してやったのよ」
とのことで、これまた実に可愛くない。ま、職人に可愛らしさを求める方が不自然だろう。失敗しても落ち込まない。間違っても謝らない。武器には弱さを見せない。この辺り、ぜひ守ってもらいたい規則に入れて欲しいね。
そんなことを考えているとまたマカに睨まれた。横にブレアを従えて足を組んで座っている様子はまさに職人様だ。
「言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ」
おや、どっかで聞いた台詞のリピートだ。じゃあ俺も、リピートアフターミーの精神で。
「怖さが足りない。答えない」
殴られた。