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あやめ@原稿中
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【サンプル】accele rando【新刊】

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あらすじ


 シャイニング早乙女の気まぐれで急遽決まった同室者でのアンサンブル発表会。差し迫る時間の中懸命に課題曲を練習する那月と翔だったが、日頃の無理がたたったのか那月が練習中に倒れてしまう。
 那月を休ませる為代わりにヴィオラを手に取った砂月、今まで長く同じ時間を過ごしてはこなかった二人が、初めて正面から向き合ううちに、翔は普段は見えない砂月の本質に気づいていく、同時に苦手意識の強かった砂月への想いも徐々に変化していき―――。

 頑なに那月の影であろうとする砂月と、那月の影ではなく砂月を一人の人間として見る翔との間で繰り広げられる葛藤。
 果たして翔が見て感じた砂月の本質とはいったい何だったのか。精神的カニバリズムをテーマに書かれた物語。少々アブノーマルな内容を含みます。







 「いい加減にしろよお前!」
 感情が剥き出された悲痛な言葉は、静かな部屋に僅かな反響を残しながら、やがて厚い壁に吸収されて行く。珍しく声を荒げた翔は、激情に上がる息を抑えながらも、未だヴィオラを構えたままの砂月を強く睨みつけるのだが、対する砂月は激怒する翔を気にとめる様子もなく、そればかりか口元に嘲笑を浮かべる。嘲笑う砂月の態度に、更なる怒りを隠せない翔は、湧き上がる怒りから震える拳を握りしめ、殴りかかりそうになる自分を必死に律する。
「俺がお前より下手なのは分かってる、足引っ張ってるのも理解してるつもりだ! でもな、だからってお前に貶される覚えはねぇよ!」
 普段は物を大切に扱う翔だったが、今回ばかりは怒りを抑えきる事が出来ず、手に持っていたヴァイオリンを乱暴に机の上に置いてしまう。鈍い音を立てたヴァイオリンは、不安定な天秤の様に左右に揺れ動く。それはまるで現在の翔の内心を表しているかの様に。
 一連の様子を楽しそうに眺めていた砂月は、馬鹿にした様に一度鼻を鳴らす。
 これ程に翔が怒るのには勿論理由があった。




 事の発端はシャイニング早乙女が気まぐれで始めた、SクラスとAクラスの合同の楽器レッスン。同室の二人でアンサンブルをすることになり、当然得意楽器を用いた演奏をしようと翔はヴァイオリン、那月はヴィオラを使い課題で出された曲を独自にアレンジして練習していたのだが、ついつい練習に夢中になってしまい、気づかぬ内に那月が無理を重ね、練習の最中意識を失った。
「那月!」
 倒れたきり一日中目を覚ます事のなかった那月が、次に目蓋を開けた時、心配して覗きこんだ翔に向けられた視線は厳しかった。那月ではありえない鋭い視線に、裏の人格である砂月が表に出てきたのだと気づいた翔は条件反射のごとく勢いよく身を引いた。
「…………」
 動揺した様子の翔を横目で追いながら、砂月は悠々とベッドから上体を起こす。
 そして再び鋭い視線を翔に向けると、挨拶もそこそこに那月が倒れるまで練習をさせた事を持ちうる限りの言葉で罵倒した。罵倒されている内容が的外れな物であれば翔とて黙って聞いてはいないのだが、言葉巧みに真実を織り交ぜて罵倒するものだから、無理をさせた事が事実である以上、翔は強く何も言い返す事が出来ず、ただ謝り続け言葉を受け入れるしかない。
「暫く那月は休ませた方がいい、練習の相手は俺がやる。いいな」
 こうして拒否権の与えられないまま、砂月との練習が決まり早速次の日から練習が始まったのだが、そもそも価値観が違う二人であり、普段から接する機会のない相手の砂月に対してどういう対応をしたらいいのか、翔は悩む事になる。更にどうしても練習が進んでいくと力量の差が目立ってしまい、負けず嫌いな翔はあれこれと厳しい砂月を納得させようと出来うる限りの努力をするが、心のまま奏で、翔の音と合わせる気のない砂月の音色に負け、二人の音楽はアンサンブルとしてのバランスを保てないでいた。
 これではいけない、このままだと評価で最低点を叩きだすどころか、曲として成立しない為、評価対象にすらならないかもしれない。
「くそっ!」
 なんとかしなければと、砂月の音の大きさに負けないよう、翔が大きく音を出せば、音色が荒いと言われ、楽譜通り弾いて見せれば個性がないと非難される。確かにどの発言も的を射るもので、一つ一つ意識して直していけば、よりレベルの高い演奏ができるだろう。しかし、そもそも砂月の方が翔に少しでも音を合わせてくれさえすれば解決できる問題が多く、翔のミスを指摘するにしても毎回言葉が汚いのだ。これは指摘や注意ではなく罵倒で、いくら翔とて日に何度も罵倒され続ければいつか不満が爆発する。
 そして、今日何度目かも分からない砂月の罵声に、遂に面倒見がいい筈の翔の堪忍袋の緒がキレた。が、砂月は素知らぬ顔で平然と言ってのける。
「本当の事を言われたら怒鳴るのか? そんな事をしているから那月にも勝てないし、俺の音にも負ける。吠えるくらいならもっと努力したらどうだ。煩わしい」
 自分なりの努力はしている、それが砂月には足りないと映っているのかもしれないが、力の差を自覚しているのなら少しくらい歩み寄る姿勢を見せてもいいのではないだろうか。それともこんな考えは他人任せだと批判されるのか。
「そう思うなら少しは俺に合わせろよ! この小節なんかはヴィオラよりヴァイオリンが前に出るべきだろう、俺の音が弱いって分かってるならもっと加減したらいい」
 自分の腕に爪を立てたい程怒りを感じながらも、理性を総動員させ懸命に理論的な言葉を使い、なんとか考えを改めさせようとするのだが、相手は翔など関係ないとばかりに鼻で笑い、まるでできそこないの人間を見る様な目で蔑む。人を人と思わないこの扱いには、絶句するしかない。
「自分の力をセーブして演奏しろって? 馬鹿を言うのも程々にしろ。なんで俺がお前と同じレベルで弾かなきゃならない」
 本当なら格下相手とアンサンブルなどやりたくはない、那月の為だから、那月の課題だから代わりに仕方なく付き合っているだけ。暗にそう捉えさせるような言葉を砂月はわざと翔にぶつける。まるで言葉遊びの要領で発せられる罵倒の数々に流石に頭を抱える。
「なんでわざわざ汚い言葉を使って暴言を吐くんだ? 俺の努力が足りなくて、お前を苛立たせているのは分かってる、だから今まで罵られようと我慢してきた、でもな、それにも限度ってもんがあんだよ!」
「はぁ?」
 怒りが爆発した翔は、これまでの学園生活を振り返る。短く、たまにではあるが同室であり何かと一緒になることの多い二人は、以前から何度か顔を合わせていた。その中でもとある出来事が翔の中で色濃く心に刻まれている。
今回と同じように学園長の気まぐれで同室の二人で原曲となる音源に作詞をして一曲完成させろという課題が出たことがある。
「作詞の課題をした時、俺はお前がどんな言葉を好んで使うのか、どんな言い回しをするのか、ずっと見てた。これでもお前の一番の理解者だと思ってる! 俺が知ってる砂月は確かに口が悪いし厳しい事ばかり言うかもしれねえけど、根はすげぇ優しくて……」