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放課後、彼女殺シ屋 私ノ世界

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私の知らない此の子がいる。此の子が知らない私がいる



放課後の教室で読書をする。校庭から聞こえる部活動の声をBGMに、読書に耽る此の時間は好きだ。あと、京子とたわいもない話をするのも。花、花っ、こないだツナ君がねぇ……。私の知らない話。楽しそうに京子が話を始めたので、私は読んでいた本を閉じる。最近沢田達の話ばっかだねぇ、と思いながら閉じた本を見つめる。黒地に紺のストライプのブックカバー。京子から初めて貰ったプレゼント。時々このブックカバーを見ながらこの子との出会いを思い出す。

大勢と連むのは好きじゃない。私は私を知った一握りの人間といられるだけで充分だ。そう思ってきたし、今も其れは変はらない。今となってはそうでもないけれど、小さい頃は背が大きかった。つまり成長が早かったのだ。幼稚園の頃、周りの子達よりも頭一つ分はみ出ていた私は、其の背同様、精神も皆よりもはみ出していたのかも知れない。兎に角周りの子達が「ガキ」に見えて仕方がなかった。恐らく其の時から私のカンチガイは始まったのだ。読み書きもリボン結びも、跳び箱も難なくできた。他人の何分の一の努力で人並み以上にやってのける私は、「自分はみんなと違うんだ」という幻想に取り憑かれたのか。「早く小学校へ行きたい」と駄々を捏ねては両親を困らせ、小学校に入るとすぐに「中学へ行く」と云い度々登校拒否を試みる。

此の様な過程を経て私はいつも離れた位置からモノを見る子供に育ち、始まっては終わる日々を退屈で詰まらないとバカにし続け小学校も4年間が過ぎようとしていた。そうした中、ある日事件が起こる。クラスで大事に世話していたハムスターが死んだのだ。此にはクラスの皆が泣いた、否、私を除いて。私は哀しいと思わなかった。其のハムスターは明らかに寿命だったからだ。生きている物はいずれ死ぬ、其れが自然の道理。天寿を全うして眠りについた此の小さなネズミを、私は寧ろ褒めてやるべきだと思う。先生から許可を貰い其の死骸を埋めた。其の日から数日経ち、クラスは平穏を取り戻しつつあったが、一人だけハムスターの死を引きずる者がいたのだ。学校に来てはぐずぐす、と啜り泣いては誰かに慰められている。私は腹立たしくて仕方なかった。たかが一匹ネズミが死んだ位でなんだというのだ。我慢できなくなった私は、其処で過ちを犯す。云ってしまったのだ、一言。

くだらない、と。

私の一言にクラスは静まりかえり、静寂が教室を支配して暫くした頃、花ちゃんヒドイよ、と誰かが云ったのが聞こえた。其処で初めて私は云ってはいけないタブーを口にしたのだと気付く。が、もう遅い。私の此の一言は、子供らしい子供である級友達にはとうてい受け入れられないものだったのだ。次の日から私は孤立していった。最初はそんな私を気遣ってくれた子もいたが、やがて集団の同調圧力に飲まれていき一番仲の良かった友人もただのクラスメイトになりさがった。

終了式が近づいてきてもなお、状況は変わらない。けれど別に哀しいとも思わない。私が悪かったのだから。強いて云えばこんな状況に、度々私を職員室に呼びつける担任を安心させる為の問答が面倒だった。教室にいても話す相手もおらず、する事もないので私は図書室に入り浸り本を読み漁ることにした。キュリー夫人やマザーテレサ、野口英世にエジソンなどの伝記や、赤毛のアンに小公女、若草物語など次々に読んでいった。そうすることで此の空虚な時間をやり過ごし、両親には何事もなかったように見せることに専念する。

ところが此の日々は早々終止符を打たれた。父親の転勤が急遽決まったのだ。私には都合のいい出来事だった。引っ越しの準備に忙しく残りの日々は瞬く間に過ぎていく。終了式の日、最後のホームルームで担任が私の引っ越しのコトを告げると、級友達は今までのことが嘘みたいに私に、群がり様々なことを口にした。私が前に出てクラスの皆に別れを告げると、皆が泣く。其の涙を、私はあのネズミみたいだ、とぼんやり眺めた。

新しい学校でも、私は確立したスタンスを変える気はなかった。あのクラスメートの変わり様に、人間関係がうんざりしてしまったのだ。転校初日のおきまりの儀式のように、新たなクラスメート達は私に群がる。前の学校はどうだったの? 誕生日はいつ? クラブは入るの? 皆好き勝手に質問を浴びせてくる。どうしてこうも他人に興味が湧くのだろう、私は冷めた目で彼、彼女たちを見回した。

……前の学校はどうってことない普通の学校、誕生日は4月20日、クラブは考えてない。

私は一気に応えた後、悪いけど放っておいてくれる? と付け足す。クラスメート達は離れていき、私は壁を作ることに成功し、これで一喜一憂することなく静かに学校生活が送れる、と安心した。しかし、そんな壁をいとも簡単に乗り越えてきたのが京子だった。引っ越してきたばかりの私は知らなかったが、京子は家が近くだったらしく一緒に帰ろうと私を誘う。やんわりと断ったのだが京子は気付かない。仕方なく一緒に帰った。次の日から京子はいつも私にくっついって回るようになる。図書館にも移動教室でも学校の行きも帰りも、クラスでは異端な私の隣でにっこり笑っていた。変な子、と思いはしたが不思議と嫌な感じはしない。なので私も無理に追い返したりはせずに放っておくことにした。

ある朝、家を出るといつもの様に居るはずの京子が、玄関の前にいなかった。少し待ってみたが来ないので、具合でも悪いのだろう、と思って一人で学校に向かう。途中通りかかる公園にランドセルを背負った女子が何人かいるのに気が付き、よく見るとその中に京子も混じっているではないか。何をしているのか、と近づいていくと急に甲高い声が聞こえてきた。

あんた何で黒川さんになんかつきまとってんの? そんなにイイ子になりたいわけ? 

私のことで京子が影で何かを云われているのを初めて知ったショックで、私は真っ青になりただ立ちつくした。だいたい学校に関係ないモノ持って来るなよっ! そう云った一人が京子から何かを取り上げようとした。……やだっ、やめてっ! 京子は必死にそれを取られまいとしたが、クラスでも身体の小さい京子は、いとも簡単に抱えていた包みを取り上げられてしまった。

そんなに此れ大事なの? 馬っ鹿じゃない? ムキになっちゃってさっ……。京子から包みを取り上げた子は、そういって其れを地面に投げると、踏みつけた。京子は其れを見ると、わぁ、と云ってその子に立ち向かっていく。けれど身体の小さな京子が敵うはずもなく、押しのけられて尻餅を付き泣きだしてしまう。京子の泣き声を聞いて初めて、私は意識を取り戻す。許せなかった。自分が悪く云われるのは構わない。けれど私に云えないからって私の周囲に当たる、そういう卑怯さが許せなかった。

うるさい、そう云って京子を蹴ろうとしたとした処に間一髪、私は滑り込んだ。頬に其の子の足がかすって血が出る。私は京子を取り囲んでいた子達を睨みつけると、今後も私の友達に手ぇ出したらあんた達許さないからっ……、気が付けばそう叫んでいて、連中は逃げていった。そんなコトを口走った自分自身に驚いたが、驚いたのは京子も同じだったようで、きょとんとしている。