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放課後、彼女殺シ屋 私ノ世界

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いつの間にか、京子は私の中で『トモダチ』だったのだ。あんた大丈夫? そう云って手をさしのべると京子は、うん、と云って私の手を取っておき上がり、踏みつけられてくちゃくちゃになった包み紙を拾い上げた。そんな大事なら仕舞っておけば良かったのに、そう云う私に京子は哀しそうな目をしてぽつりと云う。

此れ黒川さんにあげようと思って……。

なぁに其れ? と聞き返すと、また泣きそうになりながら京子は云った。今日、黒川さんお誕生日でしょ? 驚いた。まだ出会ってから大した時間も経ってない、しかも異端だった私を、此の子はこんなにも好意を持ってくれていたのだ。恐らく今日のような嫌がらせは、今回が初めてではないだろう。にもかかわず、かつてのクラスメートのように同調圧力に屈することなく、京子は私に好意を持っていてくれた。

ぼぅっとした私を余所に、京子は包み紙をしまおうとする。私は慌てて、此れ私にくれるんでしょ? じゃぁ頂戴、そう云って京子から其れを取り上げた。えっ!? こんなドロドロの、黒川さんにあげられないよ、返してっ。京子は慌てて私から取り返そうとする。そんな京子に私は云ってやったのだ。花・・・・・・、花でいい。私たち友達でしょ? 京子は一瞬驚いたけどすぐに満面の笑みで頷いた。


二人の思い出になるドロドロのブックカバーは、お母さんが洗ってくれた。


……なっ、花!? ねぇ花ってば! 聞いてる? 京子の呼びかけに我に返る。いけないいけない浸りすぎた。……花、大丈夫?、京子が心配そうに覗いてくる。ごめんごめん、何でもない、笑って応えると、京子は安心したようにニコリと微笑んだ。そうして振り返り時計を見るとこう云った。

あ、私コレからハルちゃんと一緒にランボ君たちのお洋服見に行くんだった! ごめんね花……。

はいよ! また明日ね……。そう云ってはみたものの急に複雑な気持ちになる。京子と出会ってから私と京子はいつも一緒で、別に他に友達が居ないわけでもないけれど、遊ぶのは決まって二人きりだった。私の生きている世界は、京子の存在によって色づき、瑞々しさを湛えていると云っても、過言じゃない。それがどうだろう。沢田達と仲良くなって、京子には、別の世界が出来てしまった様な気がする。私の世界は、私のモノであると同時に京子のモノでもある、と思っていた。だからこういった瞬間に、すごく取り残されたような気がしてしまう。今日はとりわけ。あの時のコトを思い出していたから……。

ねぇ、京子。私は京子にとって・・・。

ものすごい不安に駆られて、思わず口からぽろりと言葉が吐いて出てしまった。すぐに、何でもない! 早く行きな! 遅れちゃうよ? と誤魔化す。京子は、頭の回りにクエスチョンマークが飛び交いそうな顔をしたけど、すぐに、うんっ、バイバイ花! と笑って言って踵を返した。こんな時、京子が天然で良かったと思う。私は京子が教室から出ていくのを見送った。ぱたぱたと京子の足音が響いている。暫くすると、あ! と言う声が聞こえて足音が引き返してきた。忘れ物でもしたんだろう、とドアの方を見ると京子がひょこっと顔を出す。どした? と聞くと、京子はちょっとはにかんだ様に笑って斯う云ったのだ。


『           』


ばぁか。早く行きな、本当に遅れるよ! 頬が熱くなってきたのを誤魔化すように早口で促す。……ずるい、京子は本当にずるい。京子は悪戯っ子のように笑うと、今度こそ本当に走っていった。嬉しいやら恥ずかしいやら、誰かに見られていないかと辺りを見回してしまう。秘密だ、絶対に秘密だ! 京子の新しい世界に嫉妬しただなんて! 京子が私を忘れてしまうって心配になっただなんて! そんなこと考えた自分が居るなんて! 誰にも、京子にだって秘密だ。


私の知らないあの子がいる。あの子の知らない私がいる。


ただ其れだけのこと、其れでいいじゃないか。それにしても京子って凄腕。きっとこの先何回も、私はやられてしまうだろう。ニヤける顔を机に突っ伏して隠しながら、私はさっき彼女が放った殺し文句を反芻した。





「花、だぁ────い好きっ!」