ポスト
今年の誕生日パーティーは例年よりも華々しい。俺だけでなくカービィとの合同、そして、この星を虚言の魔術師という脅威から救ったことを祝福するための祝いの席だ。
様々な連中が現れて祝辞を述べて行く。
料理も飲み物もたっぷりと用意した。もちろんいつぞやのように強引に奪ったものなんかじゃない。きちんと国庫から賄ったのだ。
無邪気にケーキを頬張るピンク玉を見てなんとなく嬉しくなった。フラッフをはじめ毛糸の国の連中も来てくれたようで、懐かしい話に花を咲かせている。この会が笑顔を作ることが、幸せを呼ぶことがそうさせたのかもしれない。
流石に四つ首のままでは動きにくいのか、4つに分かれたランディアたちはバンダナのワドルディと話し込んでいる。
さらに見渡すとメタナイトとその部下がいた。
メタナイトはともかくメタナイツたちはかなり酒がはいっているようで陽気に何かを話している。いつもなら制すだろうが、彼らの長は注意もせずグラスを傾けていた。
慶事だ。こういうときまで四角定規に苦言をいうのは野暮だと、騎士さまも思ったのかもしれない。
オレがそんなことをつらつら考えているとメタナイトが皿を持ちそこをはなれた。
追うようにそちらの方へオレも歩み寄る。
「ああ、大王」
肩に手を置くとやつが振り返る。今日は客人として招いているからか、敬称抜きで気安く返事を返してきた。
「楽しんでいるようだな」
「ああ、部下共々招いてくれて感謝する」
「今日はゆっくり飲んで食って……、食うのはあれだな、カービィに全部食われちまう前にな。うん食う方はバクバクやらんと。酒はあいつは飲まんが」
笑いながらそう促す。眺めてみればあのピンク玉は今度は久しぶりにあったリボンと話をしながら料理を口に運んでいる。リボンとはさっきすれ違ったが元気そうで何よりだった。その後ろでリップルスターの王女の接待をポピーがしている。相手は王族だし、……そういや挨拶しにまだ行ってなかったな。
ポピーと目を合わせると面倒だ、と視線をメタナイトへと戻す。
「とは言うおまえはさほど飲んでいないように見えるな」
呼気に混じるほどの量でないことを指摘された。
「オレは、あれだ、なんだそのあの、ポストってやつだから、酔っ払っちまうわけにはいかないんだよ。ポピーのやつがうるさくてな」
「なるほど。だがそれを言うならホスト、だろう。ポストでは顔が赤いから酔人ではないか」
メタナイトは自分の冗句に喉を震わせる。仮面にふさがれ気づかなかったが、案外こいつも酔っているのかもしれない。前後不覚になるほどではなくとも、気分が高揚する程度には。
こちらの酒量を言い当てる程度には理性があるようだ、とはいえ元来酒は強いほうだし、気にはかかる。
「なあ、メタナイト。今夜お前ら泊まっていけ」
「一体何だ? まさか客人に片付けをさせる気か」
まぁ大王さまのご命令ならば受けるが、とつぶやいているメタナイトに肩をすくめる。
「あれだあれ」
オレがさした指の方向を見てメタナイトも呆れたのかため息つく。グラグラとしたトライデントナイトを必死に水兵帽をかぶったワドルディが支えているのだ。
「あれ連れて帰るのは大変だろう」
「……気遣い痛み入る」
頭を抱えている様子のメタナイトに、ま気にすんな無礼講だ、と言ってやる。真ん丸の騎士は口を滑らせ好意に皮肉で返したことへ少々罪悪感があるらしい。
「代わりに寝酒に付き合え、一緒に飲み直しといこうじゃないか。それともなんだ、オレ様の酒が飲めないってぇのか」
ニヤニヤおどけた口調で誘いをかけているが、本題はこっちだ。不用意な発言といい今夜の彼は少々おかしい。酔いは気鬱のときほど早く回るらしい。
彼の了承を取り付けたあと、会に来てくれた連中に声をかけてくっから、と言い残しオレはメタナイトの元から、打ち解け話している毛糸の王子と妖精王女のいる テーブルへと足を運んだ。来賓の中には宿泊して行くものも数名いたが、とりあえずパーティはお開きになった。
バンダナワドルディがテーブルのシーツをたたむのをメタナイトが手を貸そうとしているのを見つけた。
「メタナイトさん、また稽古つけてください。あなたがメタナイツさんと一緒に見てくれたおかげで、ちょっとは強くなれたんですよ。あの旅に出る頃には」
バンダナが揺れる。それをメタナイトは困ったように見つめていた。
「おいメタナイト」
オレは白いテーブルクロスを差しながら声をかけ割り込んだ。
「いやしかし」
勘がいいのか俺の言わんとしていることを読み取りすぐさま反論する。
「おまえが手伝えば後でメタナイツが落ち込むだろう。主人が働いてるのに自分たちは寝こけてました、なんて」
言葉に詰まったのかちらりと会場にメタナイトは目をやる。同じように見渡せば、壁に持たれているメタナイツの横でワドルディたちはテキパキと皿を戻したり、花を片付けたりしている。
残飯がないぶん処理は楽だろう。カービィが終わる間際に余ってるなら食べつくすと言わんばかりの早さで胃袋に収めてしまったのだから。あのときの様子というより、ポピーの顔といったら見物だった。ありゃしばらく出入り禁止かもな。
その上グーイまでも長い舌で皿をなめんばかりの勢いで次々と料理を制覇していった様を思い出す。正直あれに混ざりたかったのだが、ポピーの圧力に屈してただ見ていただけだった。
次のグルメレースで覚えてろよ。食いもんの恨みは恐ろしいんだ。
なにはともあれ、食欲モンスター二匹はリックたちに引きづられて帰っていったが、ありゃあまだ食材を蹂躙する気でいたに違いない。もっと食べたかった、なんて宣っていたらしい。カービィのあまりのスピードに灰色の残像が見えたとかなんとかいう噂まであるのに、だ。
アドレーヌがあのピンクの悪魔に、ごちそうの絵を描いてあげるから、と取りなしてくれなきゃ本当にまだ胃袋に詰め込む気だったのかもしれない。
酔いつぶれている部下たちが客室へと運ばれているのをメタナイトが眺めているのに気づき、
「まぁ、手も足りてるようだし、約束通り付き合ってもらおうか」
くいっと指を唇に付けかしげて酒を飲む手真似をする。
それを見てメタナイトはこくりと頷いた。
プレイベートルームに台車が運び込まれる。それにはボトルワインとグラス、ツマミが乗せられテーブルの脇に置かれた。注ごうとする給仕役のワドルディに、勝手にやるからと制す。
一礼して部下は出て行った。
「ま、手酌でいいよな」
ワインボトルのネックに下がったカードを無造作に外し、ガウンのポケットに入れ込んだ。誕生祝いのメッセージカードか何かだろう。こういうセンスを持ち合わせてるとは思いもよらなんだ。
とくとくと自分のグラスにワインを満たし、ビンをメタナイトに渡す。
受け取ったメタナイトも同じように盃に酒を注いだ。
「まずは改めて誕生の祝福を記念して」
「おう、今日は来てくれてありがとな」
グラス同士が澄んだ音を立てる。喉に液体が流し込まれた。
それなりに楽しいとはいえ当たり障りない応酬が円卓の間で踊る。ボトルが半分になろうかという頃メタナイトの口から溢れる舞が縺れた。
様々な連中が現れて祝辞を述べて行く。
料理も飲み物もたっぷりと用意した。もちろんいつぞやのように強引に奪ったものなんかじゃない。きちんと国庫から賄ったのだ。
無邪気にケーキを頬張るピンク玉を見てなんとなく嬉しくなった。フラッフをはじめ毛糸の国の連中も来てくれたようで、懐かしい話に花を咲かせている。この会が笑顔を作ることが、幸せを呼ぶことがそうさせたのかもしれない。
流石に四つ首のままでは動きにくいのか、4つに分かれたランディアたちはバンダナのワドルディと話し込んでいる。
さらに見渡すとメタナイトとその部下がいた。
メタナイトはともかくメタナイツたちはかなり酒がはいっているようで陽気に何かを話している。いつもなら制すだろうが、彼らの長は注意もせずグラスを傾けていた。
慶事だ。こういうときまで四角定規に苦言をいうのは野暮だと、騎士さまも思ったのかもしれない。
オレがそんなことをつらつら考えているとメタナイトが皿を持ちそこをはなれた。
追うようにそちらの方へオレも歩み寄る。
「ああ、大王」
肩に手を置くとやつが振り返る。今日は客人として招いているからか、敬称抜きで気安く返事を返してきた。
「楽しんでいるようだな」
「ああ、部下共々招いてくれて感謝する」
「今日はゆっくり飲んで食って……、食うのはあれだな、カービィに全部食われちまう前にな。うん食う方はバクバクやらんと。酒はあいつは飲まんが」
笑いながらそう促す。眺めてみればあのピンク玉は今度は久しぶりにあったリボンと話をしながら料理を口に運んでいる。リボンとはさっきすれ違ったが元気そうで何よりだった。その後ろでリップルスターの王女の接待をポピーがしている。相手は王族だし、……そういや挨拶しにまだ行ってなかったな。
ポピーと目を合わせると面倒だ、と視線をメタナイトへと戻す。
「とは言うおまえはさほど飲んでいないように見えるな」
呼気に混じるほどの量でないことを指摘された。
「オレは、あれだ、なんだそのあの、ポストってやつだから、酔っ払っちまうわけにはいかないんだよ。ポピーのやつがうるさくてな」
「なるほど。だがそれを言うならホスト、だろう。ポストでは顔が赤いから酔人ではないか」
メタナイトは自分の冗句に喉を震わせる。仮面にふさがれ気づかなかったが、案外こいつも酔っているのかもしれない。前後不覚になるほどではなくとも、気分が高揚する程度には。
こちらの酒量を言い当てる程度には理性があるようだ、とはいえ元来酒は強いほうだし、気にはかかる。
「なあ、メタナイト。今夜お前ら泊まっていけ」
「一体何だ? まさか客人に片付けをさせる気か」
まぁ大王さまのご命令ならば受けるが、とつぶやいているメタナイトに肩をすくめる。
「あれだあれ」
オレがさした指の方向を見てメタナイトも呆れたのかため息つく。グラグラとしたトライデントナイトを必死に水兵帽をかぶったワドルディが支えているのだ。
「あれ連れて帰るのは大変だろう」
「……気遣い痛み入る」
頭を抱えている様子のメタナイトに、ま気にすんな無礼講だ、と言ってやる。真ん丸の騎士は口を滑らせ好意に皮肉で返したことへ少々罪悪感があるらしい。
「代わりに寝酒に付き合え、一緒に飲み直しといこうじゃないか。それともなんだ、オレ様の酒が飲めないってぇのか」
ニヤニヤおどけた口調で誘いをかけているが、本題はこっちだ。不用意な発言といい今夜の彼は少々おかしい。酔いは気鬱のときほど早く回るらしい。
彼の了承を取り付けたあと、会に来てくれた連中に声をかけてくっから、と言い残しオレはメタナイトの元から、打ち解け話している毛糸の王子と妖精王女のいる テーブルへと足を運んだ。来賓の中には宿泊して行くものも数名いたが、とりあえずパーティはお開きになった。
バンダナワドルディがテーブルのシーツをたたむのをメタナイトが手を貸そうとしているのを見つけた。
「メタナイトさん、また稽古つけてください。あなたがメタナイツさんと一緒に見てくれたおかげで、ちょっとは強くなれたんですよ。あの旅に出る頃には」
バンダナが揺れる。それをメタナイトは困ったように見つめていた。
「おいメタナイト」
オレは白いテーブルクロスを差しながら声をかけ割り込んだ。
「いやしかし」
勘がいいのか俺の言わんとしていることを読み取りすぐさま反論する。
「おまえが手伝えば後でメタナイツが落ち込むだろう。主人が働いてるのに自分たちは寝こけてました、なんて」
言葉に詰まったのかちらりと会場にメタナイトは目をやる。同じように見渡せば、壁に持たれているメタナイツの横でワドルディたちはテキパキと皿を戻したり、花を片付けたりしている。
残飯がないぶん処理は楽だろう。カービィが終わる間際に余ってるなら食べつくすと言わんばかりの早さで胃袋に収めてしまったのだから。あのときの様子というより、ポピーの顔といったら見物だった。ありゃしばらく出入り禁止かもな。
その上グーイまでも長い舌で皿をなめんばかりの勢いで次々と料理を制覇していった様を思い出す。正直あれに混ざりたかったのだが、ポピーの圧力に屈してただ見ていただけだった。
次のグルメレースで覚えてろよ。食いもんの恨みは恐ろしいんだ。
なにはともあれ、食欲モンスター二匹はリックたちに引きづられて帰っていったが、ありゃあまだ食材を蹂躙する気でいたに違いない。もっと食べたかった、なんて宣っていたらしい。カービィのあまりのスピードに灰色の残像が見えたとかなんとかいう噂まであるのに、だ。
アドレーヌがあのピンクの悪魔に、ごちそうの絵を描いてあげるから、と取りなしてくれなきゃ本当にまだ胃袋に詰め込む気だったのかもしれない。
酔いつぶれている部下たちが客室へと運ばれているのをメタナイトが眺めているのに気づき、
「まぁ、手も足りてるようだし、約束通り付き合ってもらおうか」
くいっと指を唇に付けかしげて酒を飲む手真似をする。
それを見てメタナイトはこくりと頷いた。
プレイベートルームに台車が運び込まれる。それにはボトルワインとグラス、ツマミが乗せられテーブルの脇に置かれた。注ごうとする給仕役のワドルディに、勝手にやるからと制す。
一礼して部下は出て行った。
「ま、手酌でいいよな」
ワインボトルのネックに下がったカードを無造作に外し、ガウンのポケットに入れ込んだ。誕生祝いのメッセージカードか何かだろう。こういうセンスを持ち合わせてるとは思いもよらなんだ。
とくとくと自分のグラスにワインを満たし、ビンをメタナイトに渡す。
受け取ったメタナイトも同じように盃に酒を注いだ。
「まずは改めて誕生の祝福を記念して」
「おう、今日は来てくれてありがとな」
グラス同士が澄んだ音を立てる。喉に液体が流し込まれた。
それなりに楽しいとはいえ当たり障りない応酬が円卓の間で踊る。ボトルが半分になろうかという頃メタナイトの口から溢れる舞が縺れた。