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「カービィは変わらない、な」
「ん」
「大王おまえはそう思わないか」
 オレとあのピンク玉がこの星で誕生日を祝うのは幾度目だろうか
その数が曖昧になるほど、丸っこい星の戦士がそばにいるのが当たり前になっていた。いつの間にかあの春風のたびびとが。
「私はカービィと出会い、カービィと戦い、変わったと思う。もちろんカービィとだけではない。おまえやメタナイツ、それに多くのものに触れ、変わったと感じる。出逢いによってひとは変わる、変わり続ける」
 おまえもそう思うだろう? 仮面の騎士は訊ね、オレは肯定で返す。
 あいつとやりあって、オレは誰かを守るっていうことの意味を知った。自分のことだけでなく、ほかの連中が悲しい顔をすれば、やがて嫌な気分になる。
 けど相手が笑えば嬉しくなった。
 ならどうすれば笑顔を守れるだろう。あのときまで、そのための強さでオレは傷つけてきた。誰かを殴れば拳が痛い。それが気に入らなくてまた叩く。地位も力もあるからこそ、はちゃめちゃやってその重みから逃げようとした、無意識に。
けれどめっぽう強い春の風が教えてくれた、生き方の道標。
 誰にも何も影響を与えなやつはいない。そして誰にも影響を与えないやつもいない、はずなのに。
 桃色の丸い背中を思い出す。あいつはどうなんだろう。
「カービィは迷わない。まっすぐに自分を貫く」
 そしてこの星に害なすならそれをも貫く。その力をもって。
 そこまで言うとメタナイトは言葉を切った。
 彼が言わんとすることは分かる。きっと彼の心に影を落とす存在は今まさにオレの心を過ったものだ。
 天駆ける船とともに墜落した、そしてともに旅をして、そして……オレらを騙し、そしてカービィに倒されたマホロア。
「私はこの星を守りたいと思う。おまえもこの国を大切にしたいだろう。カービィもポップスターを愛している。だから彼の行動は正しいし、私もそうすべきだと考える……そうしただろう、昔の私なら」
 頭でっかちの蒼の騎士はまあるくなった。善悪だけでなく情に動かされるのも悪くない、と思えるようになったとみえる。
 強さだけでなく、そんな弱さもまた大切なのだと。
 なのにそのきっかけたるライバルはいち早く、かつての友を倒す決心をした。
『だいおー、メタナイト。ワドちゃんのこと守ってあげてね』
 一番仲がよかっただろうに、一番重い部分を引き受た、オレ達に“返り血”がいかぬよう。そして小さい背中で背負ったこの星の命運を。
「大王よ、カービィは変わらない。けれど周りは変わる。私も変わればおまえも変わる。やがてこの星も変わるだろう」
 自然豊かなポップスター。しかし、やがてはほかの星、例えばハルカンドラのように進んではいてもどこか寂しい国へとなってしまうのかもしれない。
 昔カービィと多くの星をいっしょに冒険したことを思い出す。ホロビタスター、ブルブルスター……。
 あの青い瞳にはどんな世界が映ったのだろう。
「カービィにとって正義とは皆の幸せを守ることだ。それは彼にとって、のんびりとした時間を過ごすことで、楽しい夢を見ることで、美味しい料理を食べることで、笑顔の絶えないことだ。そして今の世界ではそれが最大公約数の幸せだ」
 仮面の騎士の言葉は酒を潤滑油として、口からどくどくと流れ出す。
「けれど、それが壊れてしまえば? 強くあること、負けぬこと、富を守り、奪うこと、それが喜びとなったとき星のヒーローはどうなるのだ」
 メタナイトは煽るように杯を傾け、テーブルに叩きおいた。
 彼の述べた未来はある意味彼が『逆襲』を成し遂げてあたら、なっていたかもしれない世界。
 より正確に言えば彼の理想が歪められたら、の。
 のんびりとした平和は堕落だと断罪されるならば、弱いことが糺されるべきならば、強さこそが正義になる。なんのためにそれを求めるのか意味を失い、ぎすぎすとした世の中になる。
 カービィはそうなる前に凝り固まった妄執とともに騎士を打ち落とした。
 けれど緩やかに世論の大意としてそれが選択されたら、星の戦士として彼はどんな決断を下すのだろうか。
 誰も望まぬ正義を振りかざし、星を殺すのか。それとも……。
「カービィは強い。だからもし彼が“誤った”とき、誰がそれを止められるだろうか」
 私たちのときにはカービィがいた、メタナイトはそう続けた。
「“誤った”か……。そんなもんいったい誰が決めるんだ」
オレはワインボトルを持ち上げ自分とメタナイトのグラスに継ぎ足す。
「……それは」
「何が正しいかなんて、そんなの誰がわかるもんか。それこそ、わけのわからんのが押し寄せてこの星が闇に包まれでもして、ちまっこいピンク玉ひとりじゃどうしようもなくなっちまってよ、『こんなことなら、あのときだらけたことはやめて、富国強兵な世界にしとくんだった』なんてよ」
 仮面で覆われた顔で何を思うか知る由もない。少し紫の雫で湿らせてからまた口をオレは開いた。
「それぞれが信じることをやるしかねぇ。答えあわせは除きこんでくる連中に任せて」
オレたちが本や物語のなかの存在にそうするように、いつか自分たちもそうされる。
「……ギャラクティックナイトは圧倒的な力を持っていた。それを畏れられ偉大な騎士は封印された。誰も彼も彼を止めることができず、あの戦士の時間を止めた。そんな、本来なら伝説のなかで微睡んでいた彼を揺り起こしたのは私だ」
「だから」
「だから、先のことだと送り投げても、また手元に跳ね返ってくるかもしれない」
 力を加えてしなり続けた板から手を離せば、蓄えた力で跳ね上がる。しっぺ返しを喰らう。受けて流しきれない力、感情はいつかは溢れ出す。
 騎士は今まさに、心に溜め込んだごちゃごちゃしたもんを抑えてた栓が抜けて、それに押し流されてる。
 なら、抜いちまったオレが受け止めてやんねえとな。
「私はわからなくなった。私は弱い。そう自覚していてもなお、強くなければ守れない。とも思う。カービィのように。けれど強さはまた滅びの力にもなる」
「おまえは、カービィじゃないだろう」
「それは分かっている。私はカービィではないし、ましてやおまえでもない。ポップスターの騎士、メタナイトだ」
 酒で濁る瞳にさっと煌きが過ぎる。
「私は私の強さと弱さでこの星を守りたい。それでおまえやカービィと道を違えることにもなるだろう。それでいいのだと考えていた。けれど私の弱さは、強さを求めすぎることなのだと、気づいた」
「弱さが強さを求めすぎること……」
 酒会の席でメタナイツの乱れていた、いやメタナイトを前にしては乱れすぎていたさまを思い出す。あのときには単に祝い事だからハメを外していただけかと思っていたのだが、存外、根はここなのかもしれない。身も心もきっちと引き締め修行に明け暮れていたであろう主人が迷えば不安になる。強さに対し恐れを持てば剣を取り、鍛錬することも避けようとしてもおかしくない。そこで緩みが出たのだ。バンダナのが稽古の申し入れをしたときの困惑した様子を思い出す。あれは訓練をしていなかったからだろう、意図的におそらくは帰ってきてから。
作品名:ポスト 作家名:まなみ