ポスト
「……私はマホロアの最期を見たとき、私もああなっていたのかもしれないと、感じた。強さを欲し憎しみに心奪われ回りが見えなくなれば行き着く先は同じだ」
メタナイトはマホロアにシンパシーを抱いていた、と薄々感じてはいた。壊れいく船の主として、そして狂気の淵に触れたものとして。
『あのときは、ほんとに怖かったよ』
へらりとカービィが教えてくれた。戦艦が落ちる間際、鬼気迫る気配から必死に逃げたんだ、なんて以前聞いたのだ。
けれど……。
「おまえはああならないさ」
「なぜそう言える」
「おまえはひとりじゃない。帰る場所がある。引き留めてくれるやつかいる。守りたいものがある。だから落っこちかけても、また戻れるさ」
メタナイトが仮面のしたで目を閉じる。オレは続けた。
「マホロアはひとりだった。オレたちはあいつとは友達で、だからマホロアはひとりじゃないって思ってたけどよ、あの魔術師は違ったんだ。オレたちを道具としか見てなかった。船のパーツをスフィアを集める道具、ランディアを倒す道具、そしてクラウンを手に入れる道具。おもちゃの兵隊並べたところで結局はひとりだ」
「大王」
「おまえはおまえの部下を、ともに闘う仲間を都合のいい道具だなんて思わないだろう。幸せを祈るだろう。だからこそカービィは手をさしのべる。守りたいものがあるならまたやり直せるから」
頭がいいからメタナイトはわかってるのだろう、逆を言えばカービィもまたその強さで身を滅ぼすことなんかないってことが。
「大王……。ありがとう……」
他にも何か言いたげだが、仮面の隙間からのぞく口は透明なグラスで塞がれた。
「おう」
空になったメタナイトのグラスはテーブルに戻される。
「そろそろお開きにしようか」
「ああ」
立ち上がろうとしたメタナイトがふらつく。足元がおぼつかない。
「よしよし、オレさまが背負ってやるか」
オレは椅子から降りるとメタナイトに背中を貸した。断りかけるこいつに、
「いいじゃねえか、旅したときはしょっちゅう乗せあってたしな」
その言葉に促されメタナイトは体を俺に預けた。
「また、明日からにでも鍛錬をしなくてはな……。大王、ありがとう」
そうまた彼はつぶやいたあと小さく寝息をて始めた。
「おう」
もう夢の中であろう彼にオレは応じた。あとはスターロッドが守る眠りに任せればいい。
背負うひとつの命をオレはゆっくり運び出した。
騎士たちに用意した部屋へとメタナイトを運び込んだあと、オレもそろそろ寝るかとあくび一つし戸を開けたときゴツンと何かとぶつかった。
「大王さま」
「ポピー!」
夜更かししたことを叱られるのではとうっかり首をすくめる。
「申し訳ありません大王さま。私の監督不届行きで、大皿が一枚紛失いたしました」
「は、皿?」
あんだけひとがごって返しちゃモノの一つや二つなくなったりしててもおかしくはないが、大皿とは盗んだにしろ壊したにしろなかなかの奴だなと、喉で笑う。
「ま、気にすんな」
歩き出そうとしたときポケットから何か落ちた。
「私が拾います」
ポピーがさっと腕を伸ばし拾い上げる。先ほどのメッセージカードだ。がポピーはため息をひとつつく。
「どうした」
「お読みになられてないのですね」
差し出されたカードを見て首をかしげる。
「んと、親愛なる大王、生誕おめでとう。返礼は既に受け取り済みより気遣い不要……ほう」
「どうやらネズミが皿をかじったのでしょうね」
「ワインボトル担いでか」
やられたなぁ、など言いながらもなかなかの美酒であったしなと考えていた。きっとカービィにはケーキとかの食い物でもおいてったのだろうな、と盗賊団たちの姿を思い出す。パーティということもありいつもにも増して入り込み安かっただろうしな。ドロッチェ団は悠々とやってきたに違いない。皿をとってったのは愛嬌だろか。
「いろんな連中がオレやピンク玉を祝ってくれた。それに免じて許してやれ」
分かりました、とポピーは頷く。お前も寝ろよと言い残して今度こそ寝室へと向かう。
本当に今日はいろんな連中が来てくれた。祝福の言葉で溢れた時間を振り返る。
「やっぱ、この世界はいいとこだよな本当に」
ポストはたくさんいろんな言葉を詰め込んで、いつかそれを送り主へと届けなくちゃな。メタナイトの迷いという名の祈りも、それだけライバルを思う心故。
祝いの言葉もやっぱまた返していきたいしな。
さて仕分け作業は大変そうだ、なんて言いながらベッドへと体を投げ込み、ゆっくりとまぶたを下ろしていった。