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へなちょこマ王とじょおうさま 「2、中学」

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中学の校庭、…グラウンドの方が、なんか響きがかっこいいなぁ…。
 ここでは今、野球部の練習が行われている。フェンス越しに見る彼らは汗がキラキラとはじけ飛んで輝いている。
 私はこの光景を見るのが好きだったりするのだ。タダだし。

 少し日陰で眺めていると、野太い声が休憩を告げる。
 いつの間にか私の存在に気がついてくれたキャッチャーの防具を身に付けた、現在進行形で私からの恋の片道運行の終着点である彼が走り寄って来て、笑顔を見せてくれた。
 彼の笑顔は、周りの人を元気にしてくれる効果があると思う。私も、何度かこの効果で元気づけられた者のひとりだ。
「おっす、太田!今日も差し入れしに来てくれたのか?」
 そして、もう1つの効果を持ち、それは彼の笑顔を見ると『助けたい』と思わせるのだ。
「うん、今日はレモンの蜂蜜漬けだよ!」
「おおっ!お前の作るあれ、美味いよな!俺好きだよ」
 思いもよらない告白ともとれる単語に、思わず顔に熱が集まる。
 でも、鈍感な彼は気付かない。男らしくなくとも、愛らしい顔と野球で長年鍛えられた成長途中の身体と明るくて正義感あふれる彼に好感を抱いている女子は少なくはない。それでも彼は「彼女いない歴イコール年齢!」と嘆いている。それがまた「可愛い!」と女子に人気だったりするが、同じく彼は気付かない。
 そんな彼だから、私の顔が赤く染まっても、熱中症とかを心配するのだろう。
「……あれ、太田。お前顔赤いぞ、熱中症か?」
 ほら。鈍チンで王道を突き進む彼。
 同じくらいの身長を持つ私の顔を、覗き込むように見る心配そうな彼。だから私は言うの。
「大丈夫!みんなの熱気に当てられちゃっただけよ!今日も頑張ってるもんね、野球小僧!」
「そっかぁ~…って、納得できるかよ!?ほら、休憩に入ったからさ、みんなに差し入れって渡しに行こうぜ!」
 そう言って、手を引いて部員の集まって休んでいる木陰に案内してくれる。
 繋がった彼の手は練習して汗をかいていたから、少し粘ついていた。でも、それが不快に思わないくらい、どうやら私は彼が好きらしい。
 気付いてしまったら、この状況に顔から火が出るかと思うほど恥ずかしくて、真っ赤になっているだろう熱い顔を見られたくなくて俯いた。
 前を見据える彼は、気付いていない。
 やっぱりね。
 そう思いながらも、こちらを、私の方を見てほしいとも思う、欲張りで、矛盾している私。
 話しかけたいけど、彼は話すときには相手の顔を見ながら話す人だから、この日光の熱のせいではない、自分自身の思いで染まった赤い顔を見られることになる。それは避けたくて、話したいのに話せない。
 もどかしくて、繋いだ手に少し、気付かれないくらいほんの少しだけ力を込めた。
 チラリと顔だけ振り返った彼に、問い詰められたりすることなく歩き続ける。それが嬉しくて、数十年前の少女マンガの主人公のように空いている手を軽く握り、口元を隠すように顔の前に置く。
 恋心とは形がなくて、不安定なものだ。けれど、こうしていかにも「こうする少女やってます!」と目に見える姿としてあらわすことで、自分自身も「ああ、自分恋してるのね!」と自覚することができる。
 そう考えて、私はまた小さな幸せを噛み締めた。

 けれど、生まれおちた瞬間から知っていたように、私の幸せはなかなかどうして、長続きしないようなのだ。
 すぐに他の野球部員たちが休憩している木陰に到着してしまった。
 確かに繋がれていた手はからかわれることを避けるために10メートルほど手前に来た時点で無情にも放されてしまったし、着いたら着いたで、手に持っていた差し入れ目当ての部員たちに囲まれて、彼とは大きな距離が空いてしまった。
 片思いの相手との間にずかずかと入られて「くそう」と思わないでもなかったが、彼らとてきつい、あつい、顧問うざい、の三拍子を堪えているのだ。短い時間でも癒しの時となれるのなら、私の恋を邪魔するくらい、どうってこともない!
 それに、彼にも私の手作り料理を食べてもらえるチャンスなのだ。中学生で好きな人に手作りをふるまうということはなかなかできない。
 できたとしても家庭科の調理実習がいい機会だが、残念なことに出席番号で班分けされるので「お」と「し」では同じ班に組み込まれることはない。そのため、私は彼と同じクラスになり、この想いを自覚した瞬間から他の子と仲良く楽しそうに調理する彼の姿を見ることとなった。
 家庭科だけではない。他にも体育の合同授業だったり、理科の実験だったりと、とにかく一緒に同じことをする機会はことごとく潰されてきた。悔しくて涙したことも少なくはないし、あまりに報われない私に、彼と同じ班になって数回の友達がいい加減機会を作ってあげようとしてくれたこともあるが、「そんなズルはできない!」と断った自分。
 だからそれだけ、春休みの短いけれど一緒にいられて、お手製のものをふるまえる絶好の機会をきっちりものにするべく心を決め、ついでに男子たちも協力者とできたらいいなぁ、なんて思っていたりしたのだ。
 けれど、この蜂蜜レモンに集る男どもには頼れそうにない。

 誰もかれもが家を出る直前まで冷蔵庫に入っていた大きめのタッパーに群がり、涼にあずかろうとしている。
 距離を置いて地面に置いた3つあるタッパーにそれぞれ黒い人だかりができるのが、なんだか面白い。しかしそのどれにも、この場で1番食べてもらいたい彼がいないことを確認すると、私はまたキョロキョロ見回した。彼は勢いよくオレンジがかったレモンに手を伸ばすチームメイトに引いたように、頬を引きつらせて群れから5メートルほど離れた場所で立ち尽くしていた。
 …同性でも、やっぱりこの光景は引くものなんだ…。
 そうは思ったが、彼に食べてもらわなければ差し入れした意味がない。
 私はそう思い、行動に移した。けれどだからといってあの群れに特攻をかます度胸も力もない。それをあらかじめ知っていた私は、一か八かの賭けとして持ってきた小さめのタッパーをエコバックの奥から取り出す。両手で持ち、春の柔らかいとはいえ運動した後では浴びているのがつらいだろう、光の中で立ち尽くす彼に歩み寄った。
 私の行動を見張る者なんていない、みんなの視線は彼含めてすべて生贄に向かっている。

「渋谷君。」
「あ、太田…。」
 一声かければ、彼はすぐに気がついて後ろに回った私を身体ごと振り向いた。その黒曜石の瞳には、群れと化したチームメイトに驚き、そして引いている色が残っていた。
 けれど次の瞬間には、その色を消し、私をまっすぐに見つめてくれる。直前まで瞳に宿っていた色を隠し、私だけを見つめようとしてくれるその瞬間が、私は好きだった。
 この切り替えの早さが、また私を彼へと惹きこんだ。
「ごめんな、せっかく持ってきてくれたのに…、あんなんで…」
「ううん、いいの!あれだけ夢中になって食べてくれたら、私も嬉しいよ。…それより、これ…」
「え、…これって…」
 恋する乙女を形とした声音、声量とともに彼へ手を差し出す。