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へなちょこマ王とじょおうさま 「2、中学」

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 申し訳なさそうに後頭部をかいた右手をそのままに、八の字にしていた眉を両方とも虹のように上げて驚いたように男の子にしては大きな目を見開いて、同じように声を漏らす彼が、とにかく可愛かった。
ふと、彼が青年となって、完璧に男性となった時のことを思う。
きっとかっこよくて、人を思いやる素晴らしい人に成長しているのだろうな。もしかしたら、その隣には同じように女性へと成長した私がいたりなんかして!
幸福な未来図を描いていると、彼が私の手に触れた。
「これって、…その…、お、おれに?」
 自信なさげに、けれどそうだったらいいと思ってくれているのか、少しだけ恥ずかしそうに口角を上げて、彼はそう言った。
 恥じらう姿が同性のように愛らしい。
「うん。渋谷君って、ああいう場所に進んで行きそうにないなって思ったから…。」
 あとは私からの気持ちです。
「サンキュ!やっぱあれ見たら行きにくいよな!」
 想いは口に出せず、建前だけを伝えた。
 彼から返って来たのは、お礼と声をかけるまでに見ていた表情そのままを音にした言葉、そして夏の陽光にも負けない眩しい笑顔だった。

「いっただきます!」
 群れに背中を向けて、すでに練習で黒く汚れていたので気にすることなく地面に直接腰を下ろす。私はそんな彼の隣に膝をついて、タッパーの蓋を開けて丁寧に手を合わせて食べようとしている彼を見つめた。
 これなら味の心配をしている作り主として見られるため、不審ではない。
「はい、どうぞ。」
 私は笑顔で頷いた。
 彼もまた輝く太陽のような眩しい満面の笑みで答えてくれたから、これ以上ないほどの大きな笑みだったのに、自身でもわからないほどまだまだ伸び白はあったらしい。彼の笑顔に照らされて、私の輝きも大きくなっていく。
 これもまた、渋谷君効果だろうか。

 まさか…。
 まさかこれが、生まれ育ったこの世界で彼の笑顔を見る最後になるなんて、その時の私は当然考えても見なかった。

 私はその瞬間、確かにあたたかな幸福を感じていた。
 一度失われたこの幸福を、永い時を経て再び巡り合うまで、私は懸命に忘れ去ろうとしていたような気がする。彼が与えてくれた何物にも代えがたい幸福とは違ったとしても、また違う種類の幸福を彼の下から連れ去った彼女が、彼女たちが与えてくれたのだと思うと、私はなんと恵まれているのだろうか。
 私はどこにいても、どんな世界に存在していたとしても。
 幸福なことには変わりないのだ。

 どんな世界にいても、人は生きていれば、幸福になろうと思えば、幸せになることができる。