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へなちょこマ王とじょおうさま 「3、告白」

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「そ、そういうことは、男が言わなきゃダメだろ?!」
 裏返った声でそう言って、渋谷君は1,2度深呼吸をして、真剣な瞳に私を映した。普段の学校生活では見ることのできない貴重な彼の瞳に、胸が高鳴る。
 まっすぐに見つめられてここまで緊張するのは初めてだ。
今までどんなに怖いと評判の先生と1対1で話す機会があっても、お母さんに怒られている場面でも、怖いとか緊張なんてしたことはなかった。私は緊張とは無縁の図太い神経をしているのだと友達にも言われたが、どうやら違い、きちんと人間らしい、女の子らしい面も持っていたようで。
家に帰ったら親友に報告しよう。幼馴染でもある健ちゃんは、「君は本当に女の子らしくないよねぇ、ちょっとはオトモダチの華ちゃんを見習ったら?」と顔を合わせるたびに当時好きな子と私を比較してぼやく。
 私は好きな人の前ではきちんと緊張もすると知った時の健ちゃんの顔を思い浮かべて、楽しくなった。

 ひとり幼馴染の反応を想像していたら、渋谷君は落ち着いてきたようだ。
「お、おれさ?」
 跳ねる語尾がかわいい。
 クスッと笑ったら、彼はムッとした顔をして、勢いよく叫んだ。
「1年の時からずっと、太田が好きでした!」
 あまりに大きな声に本気で驚いて目を見開き、体の動きも思考もストップ。
 頭が真っ白になる。
 その言葉を体験することになるとは思ってもいなかった。常に冷静沈着、小学校の通信簿にも「とても落ち着いていて、時々先生にも注意をうながしてくれる頼りになる子です。」と書かれたりする私だ。きっとこの体験は生涯でもとても貴重なことだろう。
「ありがとう、渋谷君。…私も、好きだよ!」
「…太田…、有利でいいよ!」
「私も…、名前で呼んで?」
「うん…」
「…。」
 えへへ、あはは。
 ふたりして照れくさくなって笑い合う。こんな時間さえも愛しかった。
 渋谷君…、有利が手を差し出してくれて、「家までは送れないけど、休憩時間まだあるはずだから、ギリギリまで一緒に行くよ。」と言ってくれた。
 ふたり手をつないで歩きだす。
 同じ光景でも、心の距離とか立ち位置が違うだけで人はこうも気持ちが違ってくるものなのだろうか?
 視界に映る世界が、キラキラして見える。

 しかし、生まれたときからそうだったように、私の幸福な時間と言うのは長くは続かないのだ。これはもうきっと、運命とか定めと呼べるものに進化しているだろう。
幸せな新米カップルの背後にうごめく黒い影に、私も有利も気付かない。
「おいおい、渋谷ぁ、なにもそんな大きく愛の告白をしなくてもいいだろ?」
「おめでとうございます、先輩!」
「…ううっ!…渋谷、太田泣かすなよ!…ううっ!」
「あああああ!俺のすうぃーとはにぃぃぃぃ!」
「「まあまあ!」」
 門の向こうから聞こえて来た声は、私の背中を押してくれたそれと全く同じものだった。
 姿を認めると、慌てて手を放す。
 ぬくもりを失った手は、想像以上に冷たく感じた。と同時に、あのぬくもりと心理的に離れた時、私自身どうなってしまうのか考えられず、その事実に愕然とした。
 ああ、父親を知らずに育った私でも、異性を愛することや依存することはできるのだ。

「お前ら!」
 恥ずかしさもあって怒鳴る有利。でも真っ赤な顔では威力は限りなく小さいだろう。それを裏付けるかのように同級生と後輩ふたりがにやにやとよく解釈して楽しそうな笑みを浮かべて有利ににじり寄った。
 彼らの背後であとふたり、2メートルほど離れた門の影に隠れて、涙を滝のように流しながらこちらを見ている。…彼らの方が乙女っぽいな…。
「まあまあ!」
「落ち着いてくださいよ!」
 そう言って、ふたりは有利の肩を左右から組んだ。両肩をとられて、有利は動けない。
 挟まれた有利は居心地悪そうに、赤く染まったままの顔を下に向けてしまっている。その様子がふたりのエス魂に油を注いでいることに、有利は鈍感だから気付いていないのだろうな。思いながら、私は3人の様子を見守った。…あとのふたりは、もういいでしょう?
「おれたちは親切心で、休憩終わるぞ!って伝えに来たんだぜ?なぁ?」
「それとも先輩は、荷物を持ってきて「初日くらいデートしてください!」って言った方がよかったですか?ねぇ?」
「…うっ」
 お互いに最後は顔を見合わせて首をかしげる。動くたびに片方ずつ交互に押されて、間の有利はちょっと苦しそうだった。
 その様子に飽きたのか、ふたりは私を見つめて、笑った。けれど有利の時と違うのは、その目に謝罪の色があったことだろう。
 ふたりだって、私たちに普通の恋人同士のような日常を、春休みとはいえ初日くらい味わってほしいと願ってくれている。それだけで、私には十分だった。
 私たちは友人に恵まれている。そう思ったら表情は自然と穏やかなものになっていた。目線でありがとうと伝えて、私は膝に手をつき、自由を奪われた有利を下から覗き込むように見た。俯いている彼の表情を見るには、こうするしかない。
「有利、春休みが終わったら、登下校デートしようね!」
 今日は4月5日だ。
 始業式は10日で、今日まで数日は日を開けずに差し入れに来ていたからと言って、いつもは2日置きくらいで来ていた。だからこれからペースを戻すにしても、そう間が空くわけでもない。
 それに、今までとは決定的に違うことがある。
 互いの想いが通じたのだ。これはとてつもなく大きな差異だろう。想いがハッキリと通じている、そう思っただけで心に余裕とゆとりができるのだ。
 私が笑顔で提案すると、有利は嬉しそうな、恥ずかしそうな顔で愛らしく笑ってくれた。


私たちの初めての約束。
実現する時はすぐそこだと思って疑わなかった。
それが当然の環境だったし、そこから自分がいなくなるなどと考えられる異常も、この時はまだ現れていなかったので、叶えられる瞬間は、もう一生訪れないのだと、この時には思うはずもなかった。



「主上…」
 別離は、すぐそこまでやって来ていた。