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へなちょこマ王とじょおうさま 「4、別れの予感」

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「それじゃあね!」
「ああ、気をつけて帰れよ!」
 そう言って、私たちは別れた。
 あまりにも呆気ない別れだったが、明日以降も変わることなく過ごせると思っていた私たちには、十分、というか自然な挨拶だったのだ。
 大きく手を振る有利と、その背後に立つ4人。

 なんだか離れてしまうことがとても恐ろしいことのような気がして、私は5人が不思議そうな顔をするまで足を踏み出すことができなかった。
「また明日来るから!」
 自分に言い聞かせ、言葉にすることで明確に実現させると意思を見せてから、大切な人たちに背中を向けた。

 私の背中を見送る5人の中でただ一人、有利だけが不安そうに瞳を揺らしていたことを知らなかった。
 初夏のような生温かい風が吹いた。


帰り道、角を曲がり学校が見えなくなったところで私は立ち止まった。
 何か嫌な予感がしたとか、めでたく付き合えることとなった有利と離れるのが嫌だったからというわけではない。
「あら?」
 私の行く道を遮るように、住宅に挟まれた細い道の真ん中に薄い金色の髪を腰まで伸ばした女の子が立っていたのだ。
 彼女の異様な雰囲気を表すかのように、身に付けている衣服は私たちの住む日本では見られない、古代中国など、テレビで放送されるドラマ内で観られる服装で、茫然と前に立つ私を見つめていた。ワンピースと言ってもいいのだろうか、一つなぎの服の裾は地面についてしまっている。
 …昨日とか今日が雨じゃなくて、本当に良かった!なんか彼女の服、無駄に高価そうなんだもの!それを汚しちゃいけないでしょ!?
 ぼんやりとした表情は、うっすらとにじみ出るように、これまた日本人ではありえない薄紫の瞳に宿る色だけがキラキラと輝いて見える。
「えーっと…。」
 まっすぐに見つめられると、悪意ある視線というわけではないし、逆に根拠のない(会ったことないし?)熱烈な好意が込められているだけにむやみやたらに逸らしては、7歳ほどの少女の純粋な心に小さな傷を生むこととなってしまうので、できればしたくない。
 さて、どうしたものか。
 考えているのが、音として口から出てしまった。
「……」
 気まずげに、毎日見つめていた彼の癖が映ったのか後頭部に手をやる私を気にかける様子もなく、少女は私を見続ける。
 どうしろというの!?
「…あなた、迷子?お家はどこ?」
「……」
 誰か助けて!?
 天に祈ろうかというほど、私を見つめ続ける少女から何も反応がない。反応と言えば、私が声を出した瞬間、それまでのぼんやりとした表情がとても嬉しそうなものになったということだろう。
 瞳が輝いているだけだった先ほど以上に顔に嬉しさを宿した今、瞳はさらに輝いている。まさに宝石のアメジストのようだった。
 何も言わない彼女に、もしかして言葉が通じていないのかもしれないと、よくよく考えてみれば外国の出身だとわかる。さっき散々日本には見られない容姿に服装をしていると言っていたのに、結論付けるのにこれだけの時間をかけた自分を恥じ、頬に熱が集まる。
 どれだけテンパっていたの、私は!?
「…え、えーっと…。…You can speak English?」
「…何を仰っていらっしゃるのですか?」
 めっちゃ日本語で返ってきました。しかも、現代日本人でも滅多に使わないような、子供とは思えないほどとても丁寧な言葉が。正直彼女には似合わない。
 顔が歪んでいるのがわかる。
 自分でも口元と眉間が引くついている。
 ひくひくと小刻みに動いている器用な私の顔面はそのままに、私はできるだけ微笑みに見えるように表情を動かした。
「…とにかく、言葉はわかるのね?」
「はい!」
 素朴な疑問に、元気な、いいお返事が返ってきた。
 同時に嬉しそうに微笑みが浮かぶ。
 言葉づかいとは違い、子供らしい笑顔に私も小さな笑みが浮かぶのを感じる。
「それじゃあ、どうしてすぐに答えてくれなかったの?」
「あ、…申し訳ありませんでした…」
 本当に堅苦しい言葉づかいをする子だ。
 責められたとでも思ったのか、愛らしい笑みだったのに表情も沈んでしまった。きらきら輝いていた瞳の光も陰りが見える。可愛い物好きと自負する私としては、愛らしい彼女の表情を曇らせてしまったことに強い罪悪感を覚えてしまう。
 それでも、私から視線を逸らさないのは何故なのだろうか。
 尋ねてみたい気もするが、今はこの子を安全に親御さんのもとへ送ることが先決だろう。
「それじゃ、もう一度訊くけど…あなたは迷子なの?お家がどこか、わかるかしら?」
 もう一度、先ほど投げかけた言葉と同じ質問をする。
 すると彼女は、人と話すことが嬉しいのか、嬉しそうに幼い子供独特の愛らしい笑みを浮かべた。
 けれどすぐに、どんな高価な宝石よりも輝く笑みは消え去り、残念そうに表情は沈んでしまった。なんとかまたあの笑顔が見たくてどうしたらいいのか考えるが、なかなかいい案が浮かばない。
 どうしたものか。
 同じ迷路にはまってしまった。
「…迷子、……迷子、ではありません。」
 すがるような眼をする子だ。
 幼いのに、まるで借金地獄に堕ちた余命いくばくもない老人が、知人縁者に金の工面を願うときの眼のようだ。
 …いや、幸いにも私はそんな場面に居合わせたことも、陥ったこともないので、ただの想像でしかないのだけど。
「それじゃあ、お家は?見たところ、この辺りの子じゃないよね?引っ越してきたばかりなのかな?」
「…家、は…。とても遠いところ…、にございます。」
 やっぱり外国ですか!?日本には旅行にいらしたのでしょうか!?
 一気にセレブ感溢れる(主観だけど)発言をした少女に、小学校時代から近所のお店をお手伝いしてお小遣いをもらい、中学に上がってからはバイト三昧だった金の亡者と呼ばれてきた私の血が騒ぐ。
 御礼金とかを期待するわけではないけれど、もしかしたら豪華なお家を見られるかもしれない。そしたら、少しでも目標とする物が見えてくるかも!
 そんな期待を抱いて、私は嬉しくなった。
 これまで、私が生まれた同じ日に天国へ行ってしまったお父さんの代わりに、少しでもお母さんを支えようとして、幼いながら頑張ってきた。苦労をかけっぱなしだった母さんに楽をさせてあげたい。でも、どんなことが母さんに楽をさせてあげるということなのかがわからなくて、私はこれまで本屋さんで立ち読みしては理想の裕福な家庭像を想像していた。
「それじゃ、お家まで送って行ってあげるから、一緒に帰ろう?」
「…帰る?」
「うん。」
「一緒?」
「ええ。責任持って、送り届けるよ!」
 胸に握った拳を当てて言うと、彼女はこれまでで一番綺麗で愛らしい笑顔を浮かべて、私に見せてくれた。
 こんな綺麗な子、ひとりでは帰せないよね!誘拐されちゃう。

 はぐれたら大変だから。
 そう言って繋いだ彼以外の手。
 握った彼のそれよりもふたまわりは小さな手からは、同じくらいのぬくもりを感じた。

 そうして繋いだ私と少女。