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へなちょこマ王とじょおうさま 「7、功国を」

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襲いかかって来た妖魔の群れを心の中で謝りながら切り捨てて片づける。黒いその姿が見渡す範囲で認められないことを確かめると、私は再び欅隗の背に乗った。
 私が王として即位すれば、それだけでこの国に徘徊する妖魔は姿を消すそうだ。こうして無駄に命を散らせることもなくなるだろう。
 少しでも早くそれが実現するように祈りながら、空を見上げる。灰色の空には輝く太陽の明るい光もなければ民に絶望を教える黒い影もない。
 使令は主である麒麟の気配がわかる。先に進んだ塙麟を探すのは簡単だった。
「塙麟は?」
「この先、凌雲山の麓でお待ちです。」
「その山って確か、王宮がある山だよね?」
「はい、さようです。」
「さすがに、今は王宮には行けないね。」
「…」
 そう言えば、私は部活見学とはいえ一応学校に行くのだから制服の方が何かと便利だろうと思って、制服を着て行った帰り道に塙麟と盟約を交わしたのだから、今来ている衣服はセーラー服スタイルの制服だ。つまり、全国の女子が共通しているだろうスカートをはいているわけだ。
 気にするタイプではなかったので、規定通りの長さそのままのスカートなのだが、気にし始めると、駆ける風に踊らされているスカートの下、ふくらはぎから下はソックスに包まれているとはいえ、それより上は素足に欅隗の毛がもふもふと触っている感触が直に伝わってくすぐったいが、サラサラのさわり心地がなんだか癖になりそうだ。枕にすればきっと良く眠れるだろう。
 さらに言えば、足の付け根の部分にもまた布地一枚しか隔てるものはない。いやん。
 …私、王様になろうと決めてから、何か吹っ飛んじゃったのかしら?思考が弾けているきがする。こんなんで大丈夫なのだろうか。
「主上!」
 危機が去って安心したのか、どうでもいいことを考えていると、愛らしい半身の声が耳に届いた。
 見れば転変したままの獣の姿で、こちらに近づいて来ている。
 血の穢れは、大丈夫なのだろうか?私、意識して避けられるものは避けたが、少しくらいは切り捨てた妖魔の血を浴びた気がするのだけれど。
 心配していれば、気にした風もなく塙麟は駆け寄った。
 欅隗に跨った私のすぐそばまで近づいて、馬に似た鼻先を胸元に擦り付ける。女の子でも、やっぱり柔らかいところの方がいいのかしら?
「よくぞご無事で!」
 王気で私の無事は確信していただろうが、やはり実際にその目で見ると安心したのか、うっすらと大きな瞳に涙が浮かぶ。
「うん、欅隗と截忤がよくやってくれた。」
 跨っている欅隗の背を撫でながら伝えれば、塙麟は欅隗をまっすぐに見つめた。
 瞳に浮かんでいた涙は一度の瞬きで綺麗に引っ込む。
「はい、欅隗と截忤も、よく主上を守ってくれました!」
 主従揃っての笑顔で褒め殺しに、欅隗は気恥ずかしそうに背を揺らし、截忤は私の身体の中で私しかわからない程度に動いた。
 襲ってきた妖魔と同じ生き物とは思えないリアクションに、私と塙麟は目を合わせて笑った。

 再び、今度は塙麟の背に乗って空を飛ぶ。
 私は血に濡れてしまっているから、塙麟には離れて飛ぶようにしたらどうかと尋ねたのだけれど、塙麟が私を背に乗せて飛んだ方が速いし、安心だと言うのでやりたいようにさせている。
「主上、あれが凌雲山です。」
 鬣しか見えない塙麟の後頭部を見ながら、そっか、あれがそうなのか…新しい、家。ぼんやりと考えていた。
 感慨深かく、言葉が出なかったというわけでもなかったけれど、なぜか口を開くのがひどく億劫に思えて仕方がなく、私は返事の代わりに塙麟の鬣を撫でた。すると、彼女がくすぐったそうに身を震わせ、次いで気持ちよさそうに撫でる手にすり寄って来た。
 撫で続けながら、下を見る。
 妖魔を切りながら、それ以前も「ここから、巧国に入ります。」そう言われてから何度か見下ろした景色が変わらない姿で広がっていた。
 どこもかしこも、変わることなく茶色の大地が広がるばかりだ。
 ここに吹く風は、心なしか侵入してきたものにぶつかる、切りつけると、とにかく穏やかさをまるで感じない強い風ばかりだ。
 人の住む家の屋根の色も、緑や色鮮やかな実や花などの植物の色も全く見えない。
 家もなければ、その中に生きる人も、きっとあまりいないのだろう。視界に広がる180度の景色には、動くものは見えない。

 荒れているな。
 何を感じるまでもなく、そう考えていた。あそこに自分と同じ人が住んでいるのだと、思うことができなかった。
 天勅を受けて王宮に入ったら、即位式の前に一度でいいから降りてみよう。

「主上…」
 何も話さない私に不安を感じたのか、塙麟が小さく振りかえろうとする。動く角のついた頭を、撫でることで制止させた。今の私の表情を、顔を見られる訳にはいかない。自分でわかっている、私は今、何の感情も顔に浮かんではいない。
 こんな状態の顔を見てしまったら、塙麟は怖がるか、不安に思うだろう。それでは可哀想だ。
 そう思ったら、なんだか微笑ましくて自然と笑えて来た。
 あ、表情出たじゃん。
「何でもないよ。あ、ほら。降りるのに丁度よさそうな出っ張りがあるよ!」
「……」
 軽くふざけて明るい調子で言ってみるが、塙麟が答えてくれない。
「塙麟?」
「あれは、…元々は大学前の広間があった場所です。妖魔に荒らされ、今は見る影もありませんが…」
「そっか。」
 そのことを知っていると言うことは、塙麟も見に来たことがあるのか、あるいは女仙にでも尋ねたことがあるのだろうか。
 小刻みに震える塙麟の背を撫でる。
 降りようと促し、私たちは元大学の前に降り立った。
 塙麟は転変をとき人の姿になり、着替えるため(裸だもんね、今)に物陰に入って行った。「御前を失礼します。」と一言告げてから(律儀だね!)暗い影に歩いて行った鬣が薄い金色の儚い印象を見る者に与える麒麟を見送って、しばらく独りで私の物となる国を見つめる。

「…見事なまでに、何もないね。」
「…主上…」
 言葉通り、そこから見る景色にも、そこ自体にも、目に映る視界一杯にあるのは茶色や黒ずんだ大地ばかりだった。
 それでも、私は昔から何もないところから何かを生み出すのが結構好きだ。
 夢中になって寝食を忘れることが多々あるほど、熱中することができる特技を持っている。
「ま、ここまで何もないと逆に好き勝手できていいかもね!」
「!…主上…」
 そうだ。
 国を一から創ることができる。
 聞いたところによると、前の王までは結構多くの差別意識が蔓延していたらしい。私は差別すること自体が嫌いだ。人の生まれや環境が、何だと言うのだろうか。それでその人自身の価値がわかるというのか。まったく意味のないことであり、それに気を取られて公正さを欠くなんて愚の骨頂だと考えるわけだ。
 そんなことを堂々と「ダメ!」と言える国。
 誰も飢えることなく、笑って暮らせる国。
 不慮の事故など以外で、妖魔なんかに怯えることなく、堂々と前を向いて生きてける国。
 空を見上げるのに、怯えることなく、「眩しい!」と思える国。
 なんてことのないことが、幸せだと思える、そんな意識も忘れてしまえるほど平和な国。