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へなちょこマ王とじょおうさま 「8、人としての死」

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いわく、元初に二州四夷あり。
百姓条理を知らず、天子条理を知れどもこれを嗤いて敬うことなし。
天地の理を蔑ろにし、仁道を疎かにして綱紀を軽んずること甚だし。
風煙毎に起こりて戦禍万里を燼灰にす。人馬失われて血溝を刻み大河をなす。
天帝、これを愁えて道を解き条理を正さんとせんも、人淫声に耽溺して享楽を恣にす。
帝悲嘆して決を下す。我、いまや二州四夷を平らげ、盤古の旧にかえし、
条理をもって天地を創世し綱紀をもってこれを開かん、と。
帝、七国を拓き、中の一国をもって黄海・蓬山となし、王母をしてこれを安護せしむ。
残る六国に王を配し、各々に枝を渡して国の基業となさしむ。
一虫あり。解けて天を持ち上げこれを支う。
三果あり。一果落ちて玉座をなし、一果落ちて国土をなし、一果落ちて民をなす。
枝は変じて玉筆をなせり。これをもって開檗とす。
太鋼の一にいわく。天下は仁道をもってこれを治むべし。
民を虐げてはならぬ、戦乱をたしなんではならぬ、税を重くし、令を重くしてはならぬ。
民を贄にしてはならぬ、民を売り買いしてはならぬ、公地を貯えてはならぬ、
それを許してはならぬ。道をおさめ、徳を重ねよ。
万民の安康をもって国家の幸福とせよ。

「それから?天子の責務、宰相の責務、それに加えて天地の成り立ちに国家の成り立ち、制度の成り立ち。最後に仁道とは何か、礼とは何か、しちゃいけないことにするべきこと、定めることと定めちゃいけないこと!階段上っただけで一杯勉強しちゃったわ、まったく!」
 蓬山へ向かった私たちは、幸い待つことなくすぐに天勅を受けることができ、今こうして無事に受け終え、玄武に乗って王宮に向かうべく、最後に進香するため、それ専用の宮へ歩いていた。
「主上…」
 けれど、天勅を受け終わった私は憤りを感じていた。
 気遣わしげに私の顔色をうかがう塙麟にも、気を使っている余裕がない。
「なんであんな当たり前のことをわざわざ呼び出してまで言うの?言われるまでもなく、わかっているわ!」
 悔しかった。
 天に選ばれたから親を捨て、恋人を捨て、故郷を捨てた。にもかかわらず、最初に王が行うべく儀式で言われたのが「民を虐げるな、売るな、戦争するな、道を治めよ、万民の安寧をもって国家の幸福としなさい」である。
 わかっている!叫びたい。
 自慢ではないが、私はわかりきっていることを強制的に確認させられるのが好きではない。
 主が、自身の半身が怒っているのに、見守る塙麟は楽しそうだった。クスリ、と笑う声が心を穏やかに、軽くしてくれる。
「当たり前だからこそ、逆に難しく、多くの先達が失われて来たのです。」
「……」
 そうだ。
 王に選ばれるくらいだ。みんな、王としての素質はあったのだろう。けれど、私がここにいる以上、少なくとも前の塙王は道を失い、そして死んだ。
 天勅を受けて王になったからには、当たり前のことを言われ、脳…というか頭に刻み込まれていたはずなのに。

「…そう、だね。」
 彼女は、私の麒麟だ。
 そう深く実感することができた。
 朝の出だしは、きっと味方などほとんどいないだろう。その中で、唯一絶対の味方が麒麟である宰相だ。彼女だけは私を何があっても裏切らない、例え道を失い、病んでしまったとしても、(これは私の希望かもしれないけれど、きっと)最期まで半身である私のことを思っていてくれるだろう。
 怒らせていた肩を落ち着かせ、一呼吸吐いた私に、塙麟は満面の笑みを浮かべた。幸せそうだ。
 今は塙麟ひとりだが、いつか絶対!巧の大地にも、彼女のように幸せそうな、幸せ一杯な笑顔の華を咲かせたい。

王として、正式に天にも認められた私が今、やるべきことは天勅の内容に怒ることではない。一日も早く巧を再興し、民に安心と笑顔をもたらすことだ。
「さ、帰ろうか塙麟。私たちの家へ」
「はい、主上!」
 ごつごつした岩のような玄武の背に乗り込み、幼い塙麟に手を差し出して乗るのを手伝う。
それから動き出した岩山のような玄武に揺られ、短い船旅を行き、私たちは2日後巧国・翠篁宮に降り立つのだ。

「頑張ろうね、塙麟!」
「はい。」
「塙麟みたいに、誰もが屈託なく笑顔を浮かべられる国を作ろう!」
「はい!」
 笑顔で答えてくれる塙麟が、嬉しかった。

「あ、伝えるのを忘れていたけど、塙麟に字を考えたよ。」
「え、」
 突然の言葉に、驚く塙麟。
 やっぱり可愛い。
 驚いたと思ったら、塙麟は花が咲くように徐々に顔をほころばせる。
「巧国に平和をもたらしますように。…で、“塙和”」
 空に字を書きながら塙麟…改め塙和の顔色をうかがう。
 書いては消えて行く文字を追いながら、塙和は嬉しそうに、顔を一層輝かせながら指先を見ていた。
 2文字書き終わると、塙和は私を見つめる。
 その瞳は嬉しそうに笑いながら、感極まったように潤ませていた。

「塙和に、平和な巧国をあげるよ。…絶対に」
「はい。」
 穏やかに、静かに答える塙和の声は、なんだか容姿にあわない穏やかな深みを感じさせる声だった。
「いつか、巧国のみんなが笑って暮らせる国になる。私たちがそうする。だから、今は泣いているときじゃない、泣くのは私が民を、みんなを見捨ててしまったときにして。」
「…主上…、そのようなことを…!」
 自分でも、嫌なことを言っていると思っているから、塙和からしたら信じられないとんでもない王様だろう。でも、私は言っておきたかった。
「先の塙王は名君ではなかった。でも、確かに天に選ばれ、その治世は50年続いた。」
「はい。」
「私はね、塙和。沈まない王朝はないってことを知っている。永いか、短いかの違いしかないんだ。どの王にも、終わりは訪れる。名君でも、そうじゃなくても…」
「…」
「でも、それでも私はできるだけ長く玉座に座っていたい。だって死にたくないもん」
 はにかんで言ったけれど塙和は、何も言わなかった。
 私も塙和の声を待たずに次の言葉を続ける。考えて口に出しているわけではなかったから、めちゃくちゃだ。でも、ほかならぬ私の半身だと言うのなら、知っていて欲しかった、私の想いを。
「私はこの国で生きる。私を支えてくれる官と、民と、…だれよりも塙和と一緒に。」

「ずっと、ずっと、私たちは一緒に生きて行くんだ。」

「だから、嬉しかったりしたら、泣くんじゃなくて笑って欲しい。泣き顔は、あまり好きじゃないから」
 母は、どんなにつらいことがあっても、娘の私に涙を見せたりしなかった。けれど、父の命日…私の誕生日には、私が眠りについた後、隠れて泣いていることを知ったのは此方に来る前、最後に一緒に誕生日を祝った時だった。あの時心に受けた衝撃は忘れないだろう。
 だから、涙は、泣き顔は、もう二度と逢えない母を思い出させるから…。母を思い出しても揺れない強い心を手に入れるまでは、私の前では泣かないで…。

 心は、決めたはずだった。
 この国を創りなおすため、故郷を、恋人を、たったふたりきりの家族だった母を置いて、私はここに来た。
 心は、固めたはずだった。