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へなちょこマ王とじょおうさま 「9、王としてできること」

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「……」
「…」
「……」
「…」
「……くわっ」
「…」
「……」
「…主上、少しでも休まれた方がよろしいのでは?」
「……ん?」
「恐れながら主上は、即位よりこれまで、30年ほとんど休まずに政務をこなしておられます。いくら我らが仙の身体とはいえ、まったく休息をとらずに勤労につとめられるお姿は素晴らしきものと、主上にお仕えできたことを嬉しく、また誇らしく思いながら諸官も日々勤めておりますが、いかに仙籍に身を置いているとはいえ、それが30年もの長きにわたり続きますと、いささか心配でもございます。女官たちも心配しておりましたので、どうか、一晩でも構いませんのでお休みください。」
「……ん。」
「…」
「……」
「…」
「……」
「…」
「…あ…、これ、夏官長へ宛てたものだ…しかもラブレターっぽいんだけど…、うっわ!綺麗に色を変えたりしてる!この世界にも色ペンとかあるのかな?このきらきら光ってる字、一体何を使って書いたんだろ?…気合入ってるな~…今さらだけど、見ちゃって良かったのかしら?」
「……すぐに夏官長へ届けてまいります。」
「うん、よろしくぅ…」
 王の執務室であるこの部屋には今、私とおでこに髪の生え際でM字を描いている(それでも豊かな)黒髪に鋭く細い目をした常に漆黒の鎧に身を包んだ男・アシュラムだけだった。
 彼の言葉を信じるならば、私は30年前に即位し、国の復興だけを目標に掲げ、言葉通り休まず突き進んで来た。そんな私だが、30年の時を使い国土だって即位前とかに比べたら妖魔も出なくなったし、緑や家々の屋根の色とかも増えて綺麗になったと思う。
けれどまだまだ足りないのだ。
朝廷内も結構整えられて来たと思うし、塙和が失道寸前ギリギリまで政務をやらずに人材収集だけに努め、国中を這いずり回って頑張ったおかげで、世界中から優秀な人材を集めることもできたのだ。このアシュラムも、その一人。
塙和も毎日楽しそうに、嬉しそうに笑っているし、万々歳だ。…今のところ。
 街並みも綺麗になって来た、官も揃えた。
 けれど、他国にはいまだ故郷に帰れない巧の民がいる。
 彼らを速く、故郷に返してあげたい!
 そのためには、もっともっともっと!国政を整え、難民として国を追われた彼らも安心して戻って来られる国づくりを進めていかなければならないのだ。

 決意新たに、私はまた新しい書簡を手に取った。仕事はまだまだ沢山ある。この美しい装飾の施された机に積まれた書簡の山がいい証拠というものだろう。
 目につくことにくらいは、私は全身全霊でぶつかりたい。

 しかし、不思議なことがある。
 さっきから黙って書類整理を手伝うこの男、私の記憶では禁軍左将軍って軍の中では最も高位の将軍にしたはずなのにどうして王の執務室にいるのだろうか?
 いつもはそんなことないのに、今日は広いおでこの下にある眉根に皺が寄っている。アユラム…間違った、アシュラム、それじゃベルドみたいだよ?いくら元部下だからといって、そこを真似するまで敬愛しなくてもいいと思う…大好きな尊敬できる上司だからってちょっと引くよね、正直。
 それに、こっちは真面目に仕事してるのにさっきから煩い。
 私にはあまり時間がないんだ。こうしている間にも、下では多くの民が豊かな国を望んでいる。他国では逃げるしか道がなかった巧の民が、家へ、故郷へ帰りたいと願っている。そんな人たちに速く豊かで、平和な故郷の巧国をあげなくちゃいけないんだ。
 お前たちだって、それは理解して、願っていることだろう?

 アシュラムは私が渡した夏官長へのラブレター(すごくカラフルで可愛らしい)を持って部屋を出て行った。
「…主上」
 入れ替わりに女官長が入って来る。夫婦そろって穏やかな微笑みを絶やさない彼女にしては珍しく、つらそうに顔をしかめている。
 長宰を務めるスレインの妻であり、三公の一角を担うニースの娘(養子らしいけど)である彼女はまだ子供を儲けていないけど母のような優しさで私や塙和を見守ってくれる頼りになるあたたかい人だ。
「レイリア、どうしたの?塙和になにかあった?」
 笑顔で聞いてみるけれど、レイリアの表情は晴れない。
 彼女は一度下を見て、何か考える間をおいた後、決心したように眉を吊り上げて私を見た。
「主上、左将軍もおっしゃっておりました。主上に見える機会の多い諸官長も申しておりました。主上、どうぞ少しばかりで構いません。お願いですから一刻でもお休みください。」
 何を言うかと思えば。
 私は呆れると同時に、申し訳なさとありがたさを感じた。
 これだけ心配をかけてしまって、申し訳ないと思う。けれど、これだけ私を心配してくれる人たちがいることが、純粋に嬉しい。
「ありがとう、レイリア。諸官にも申し訳ないことをしたね。みんなに余計な心配をかけてしまった。」
 そう言った私に、レイリアは安堵した吐息を漏らし、胸を撫で下ろした。うん、ごめんね。
「でも、みんな知っての通り、私は王であり仙である。少しばかり無茶無理無謀やったって、大丈夫だよ。それに、私はそのための神籍だと思っている。だから、大丈夫!」
 軽く笑って次の書簡を手に取る私に、レイリアはショックを受けたように顔を伏せ、その状態でズンズン近寄ってきた。長い前髪が彼女の白い顔にかかって影を作り、表情を隠す。
 そして、私の手から持ち上げたばかりの書簡をムンズと取り上げて、顔を上げる。穏やかなばかりだった暖かな視線は今や鋭くなり、私を睨みつけた。
 その深い青色の目には涙が溜まっている。唇は硬く結ばれていて、かすかに震えているようだった。
 少しでも気分が変わるようにと、大分前(どれくらいってのは、覚えてない)にレイリア自身が開けて行った窓から雲海の風が入って来る。風で髪が揺れ、レイリアの顔を隠して行くのがなぜか、怖い。

「主上、わたくしたちは数日前から、いいえ。…主上が一睡もお眠りになられていないと気付いた時から、幾度も奏上申し上げました。しかし主上は「大丈夫」の一点張りで耳を貸してはくださらない。左将軍も、台輔も、三公も、諸官長も、わたくしども女官も、僭越ながら主上にお休みくださいますよう申し上げ続けました!主上はそのたびに、「わかった」とおっしゃっていたではありませんか、ではいつお休みいただけるのでございましょうか!?」
 身振り手振りってこういうことか。
 怒るレイリアの様子を、私はそんなことを考えながらポカンと見つめていた。傍から見れば私の顔はさぞかし間抜けだっただろう。
 動くたびにダイヤか水晶のように輝く涙が飛び散る。

 私は官に、私とともに歩いてくれる官に、ここまで心労を与えてしまっていた。私を支えてくれる官の、こんなになるまでその言葉を聞きいれてあげられなかった。
「……すまない…」
 知らずの内に外へ出た声は、確かに震えていた。目頭が熱い。
 官たちの想いを、そして自分の人間としての生を終え、仙として、王としての強さをもらったと思っていた私の身体への慢心が、この事態を引き起こしたのだろうか。