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へなちょこマ王とじょおうさま 「10、信頼」

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無茶をして、女官長に涙ながらに怒られ、溜めこんでいた思いを吐き出すように泣いて、泣き疲れて眠りに堕ち、目が覚めたら嬉しそうな心配そうな、けどやっぱり幸福感が隠せない笑顔の塙和が目の前にいて驚いたあの日から、軽く10倍の時間が流れた。
 今ではもうあんな無理無茶無謀なことはしないように努めているため、きちんと健康的な人としての生活を送っている。
 変わったことといえば、寝食を塙和と一緒にするようになったことだろうか。
 監視だと塙和や諸官は口を揃えて言うが、私は知っているのだ。私が倒れたあの日より遡ること1週間ほど前からなにやら麒麟の住居である仁重殿でなんかやっていること。そしてそれは私の引っ越しの準備だったこと。
 それと、仲間(というか、友達?)も増えた。
治世100年の年に旅先で怪我したところを助けたのが縁で仲好くなった狴拑(ヘイカン)という伝説に語られるほど有名で強力な妖魔で、名前を芥笞(カイチ)。
 年老いた虎のような姿をしていて、執務を片づける私の横に寝そべって、執務室へやって来る官吏をからかったり、女官たちと井戸端会議したりと、おばちゃんのようなことをして日がな一日過ごしているちょっと変わった妖魔だ。しかし妖魔にしてはふざけた趣味趣向だが、それでいて妖魔ながらに博識であり、なにかとためになる知識を披露してくれる。
 彼(妖魔には雌はいないそうだ)と出会ったことで、私はもう少し国が豊かになって、人々の心にゆとりができたら妖魔を敵対生物として見ることを止める法案を提出しようと思っている。それが受け入れられるかは、まだわからないけど…。
 そして、家族も増えた。

「しゅじょお!」
 愛らしい声とともに扉を開けて入って来たのは、背が扉の2分の1もない小さな少女。
 駆け寄って来るが、抱き着いた彼女を受け止める私の腹辺りまでの身長しかなくて、舌っ足らずな話し方がなんとも可愛らしくて頬が緩む。
「おはよう、小さな愛らしいニース。今日も元気だね」
 彼女は長宰、スレインと女官長レイリアの娘であり、三公の一角を占めるニースを祖母に持つ通称、小さなニース。
 同じ王宮内で暮らすのだから、こんな面倒な名前にしなくてもよかったのに…と思わないでもないが、何といってもかわいいので許す!
「おはようごじゃいます、しゅじょお!」
「うん、元気にお返事ができて、小さなニースは偉いな!」
 さっきの話の続きだが、私の口調もやや変化した。
 理由は、私は女性だから、男性の考えなどがわからない。だから少しでも理解しようと、口調から変えてみたのだ。ちなみに、女官長を筆頭に女官たちには反対されるが、諸国漫遊記に出かけるときには男物の服を着ようと思うのだが、肝心の諸国漫遊する機会がなかなか訪れてくれない。
 口調を改めた頃から、女官をはじめとする女性官吏たちに熱い視線を送られることが増えたんだが、何故だ?
 疑問も増えたが、5年前に生まれた愛らしいニースも「しゅじょお、かっこよくてしゅき!」と喜んでくれるのが、これまたとっても嬉しい。

 しかし、悩みも増えた。
 5年前、ニースが生まれるまで忘れようと努めて来たが、これほど近くに親子がいると、どうしても思い出してしまうのだ。
 300年も昔に捨てて来た故郷の母親の姿を。
 私の不安定な気持ちを察したのか、半身である塙和が不安そうに私を見ることが多くなった。すまないとは思っているのだが、なかなかどうして、1度湧きあがって来た懐郷の念は消えない。
 王はその治世の中で大きく3度、転機があるらしい。もちろん、それ以外の時期にだって斃れる王朝はあるが、その3度に多いらしい。
 いわく。
• 統治を始めてから十年ほどの時期。実務に長けた官僚団を編成できるかが最初の関門となる。官僚の編成に失敗し、国家統治への気概を失うことが多い。
• 一般的な人間の寿命が過ぎたあたり。不老不死であるにもかかわらず人間としての寿命が尽きたことを考え始め、「生きること」への欲求を失うものと思われる。
• 300年ほど経過した時期。このまま王として永遠に統治し続ける事の重圧に、精神が耐え切れずに破綻するものと思われる。
 私は軽く、2つの峠を越えて来た。しかし、3つめと2つめの家族への思いが、出て来てしまったのである。
 どうしたものか。

 私が此方に来てから、300年が経つ。あちらも当然様変わりしているだろうし、母も…。
 考えたって仕方がない。それは頭では理解しているのだ、けれど、感情が、心がわかってくれない。「母さんはあの家で、消えた娘を想いながら生きている!」心が、そう叫ぶ。
 この国で、叶えられなかった夢を、対象を母から国に変えて実現させるんだって、そう決めたじゃないか。

「…で、小さな可愛いニースは私に何か用かな?」
 葛藤を心の底に封印し、笑顔を張り付けて訊くと、ニースは機嫌を損ねたようにムッと愛らしいピンクの唇を尖らせた。
「しゅじょおは、ようがなければわたくちにあいたくない?」
 なんて愛らしいのだろうか、この娘は!スレインに向けてレイリアがよく「お嫁に行く時が大変ね」とかからかうのを耳にするが、これではそうなるのも自然だろう。
 スレイン自身は今から心構えを整えるつもりらしいが、私は許さんぞ!婿となる男をあらゆる面から見定めてやる!
「ああ、可愛い、可愛いニース!ごめんなさい。そういう意味で言ったのではないんだ。好きな子には少し意地悪がしたいお年頃なんだよ。…許してはくれないかい?」
 腰を落ち着かせていたこれまた豪華な椅子から立ちあがって、小さなニースの前で膝をつく。それでも彼女の目線よりもかすかに私の方が上だったので、さらに背中を曲げた。それでようやく、ニースの愛らしい顔がよく見える。
「…しゅじょおがどうしてもっていうなら、ゆるしてさしあげるわ!」
 横柄なもの言いも、なんて愛らしのだろう。

 先ほどはニースをかつての私とダブらせていたが、故郷での私にはこんなに恵まれた環境も、お嬢様として育てられる場所も人もいなかった。
 彼女には、私だけでなく世の女の子の多くが憧れるだろう環境が揃っているように思える。
 両親は王宮でそれぞれ責任ある仕事に就き、一国の主に可愛がられる、なかなかできない経験ではないだろうか?

 羨ましいとは思わない。
 両親に愛され、王宮で育てられ、さらには王にも愛されたニースには、後々幸福の代償が訪れることとなるだろうが、いっそのこと世界に一人くらいはなんの不幸も挫折も知らずに、それこそ「蝶よ、花よ」と育てられるすべての愛情を注がれる存在がいたとしてもいいではないか?
 いや、それでは彼女自身が世の中に出た時に困るか…。
 だが、今はいい。
 この環境を純粋に楽しむ心を忘れていない、今はそれでもいいのだ。
しかし、今が過ぎ、“大人”としての歩みを始めるとなれば…。

「愛らしいニース。許していただいたお礼に、私の淹れたお茶などいかがでしょうか?」
 300年の鍛錬の成果をご覧にいれましょう。
 右手を胸に当て、頭を下げながらふざけてそう言えば、ニースはまた愛らしい、小動物のような無償に愛でてしまう笑顔を浮かべて笑った。