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へなちょこマ王とじょおうさま 「10、信頼」

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 そしてやけに芝居かがって頷くと、「近くの東屋でお待ちいたします。お茶の用意ができたらいらして?」(都合により編集済み)と言って、部屋から出て行った。
 小さな背中を見送り、私は女官を呼ぶために置かれたベルを手に取り、揺らす。チリンチリンと軽やかな音色が響き、すぐに数名の女官が静かに入って来た。しかし急いで来たようで、みんな揃って息を上げている。
「休憩にするから、セットを持ってきて。場所はいつもの東屋だ。」
「はい。」
 ひとりが答えると、もう一人が「お茶受けの菓子はいかがいたしましょうか?」と尋ね、最後のひとりは「昨日、淳州より今年の新茶が入りました。」嬉しそうにそう言った。
 聞いたところでは、彼女は淳州の生まれだそうだ。かつては他の州と同じように荒れ果てた淳州だが、今では首都喜州と並ぶまでに復興を遂げ、お茶の産地として名を馳せている。

 300年の時を経て、巧国はフォーセリアでも随一の商業国家として復興を遂げた。

「早く行かなければ、お姫様の機嫌を損ねてしまうな…」
 一通りニースの好きなお菓子をリクエストして、ほくほくとやる気にみなぎる様子で出て行く女官を見送る。彼女たちも、幼いお姫様とのお茶会を楽しみにしているのだ。
 磨いたお菓子の腕を披露できる場だから。
 ここで出される料理、お菓子、お茶、すべてこれから王宮主催の店へ出される品々だ。王宮には、何百と仙として気が遠くなるほどの生を生きた人が集まっている。それだけいれば、どんな分野に対しても高い経験値を誇っていることだろう。ならば使わなければもったいないではないか。
 私は、そこを利用して、商業として成り立つ金儲けをしたかった。生きた経験値は普通ならばそれだけである程度の金を必要とするけれど、ここではそれもタダだ!そしてその知識を井戸端会議や不平不満をぶつける寸評会などで語るのみで、実に無駄な方向で使っている者たちに働きかけることでそれを成功させた。金儲け万歳!
 お金をもうけられれば、国の復興資源として利用できる。復興していけば今度は民が行って、他国へ広がり、活力となる。他国へ行けば、それだけ人との交流の場が広がる。いいこと尽くしじゃないか!金儲け万歳!

 商品の原料は、王宮内で作った。
 しかし、私は農業初心者である。そんな器用に何でもこなせると言うわけではもちろんない。

「…また枯らしてしまった。」
 芽は出るのだが、なかなか大きく育たない美味しい実をつける木…になるはずの枯れ草を手に、私は呟いた。
 思っていたよりも気落ちした声が出て驚いたが、目が出るだけで大喜びしてご機嫌だった単純な私だ。
 さて、どうしたものか。
 どうして育たないのか、何故枯れてしまうのかがわからなくて改善のしようもない。
「どうしたものか…」
 しゃがみ込んで根を付けていた土を見て、私は結論の出ない疑問を考え続けた。
「あ!枯らしちゃったのか?」
 肩を落とし、落ち込む私の耳に若い声が聞こえる。
 振り返ってみれば、そこには王宮で見るには珍しい、こう言っては何だけれどみすぼらしい身なりの青年。
なんだろうか、私に何か用だろうかと考えていると、青年は土に汚れることも気にせず歩み寄って来た。
 そして私の握っている枯れ草を見て、「あーあ」と言って天を仰いだ。
「お前、主上からここのお世話を任されていたのか?」
 主上は私です。
 言えるはずもなく、私は頷く(だって、王である私が王でない私に任せたのだから、まったくの嘘ではないもん)。立ちあがりながら汗をぬぐおうとして顔をこすったら、手についていた土が目に入った。地味に痛い。もしかしたら、涙が浮かんでいたかもしれない。
「ずっと気になっていたんだ。お前、そんな恰好でいつもここにいるから。」
 いつも気になっていた。気になっていた。…これってもしかして、青春の1ページ?もしかして恋の予感!?キュンとする場面か?
「見ていたが、お前下手だな。農業のなんたるかをまったくわかっていないだろう。」
 偉そうに腰に手を当てて、首を左右に振る。
 何か教えてくれるのだろうか。もしかして、下で農業を営んでいたのか?
「そういうあなたはどうなんだ?」
「おれ?」
 キョトン、とした顔が可愛い。リスみたいだ。
 あたたかい太陽の光に照らされて、汗をかいた彼の顔をキラキラ輝かせた。
「そこまで言うなら、あなたにはこれを育てられる自信があるのか?」
 挑発するように、でも笑顔でそう言ってみたら、彼はすぐに乗って来た。
 ふふん!と胸を張る。…なんて単純。
「俺は農業が仕事だ。自信なんてあるに決まっている。」
 あれ、と思った。
 農業が仕事だと、彼は言った。簡単に挑発に乗ってくれて、扱いやすいことこの上ないが、農業を生業として生きている彼が、何故ここにいるのだろうか?
「失礼だが、ここは正寝、王の住まう場所だ。農業を生業としている者が、なぜそこにいる?」
 そう言った私の顔を、彼は心底驚いた!と発している顔で見つめた。
「え!正寝ってホントかそれ!?」
 知らなかったのか。
「ああ。ここは王の寝城だ。」
 だってだからこそ私がいるし、勝手に畑も作ってしまった。
 いつもは使っていないから、人も置いていない無人の宮だ。私が即位してからは維持費が馬鹿にならないからと、官たちを説き伏せて手を加えていないからほとんど廃屋のようになってしまっている。
「…怒らないで聞いてくれるか?」
 やっちまった!orzと嘆いていた青年は、しゃがみ込んだまま、上目づかいで私を見た。やることがいちいち可愛い奴だ。
 笑ってしまいそうになるのを耐えながら頷くと、彼はまた話しだす。天を見上げながら語りだす、けれどその声は沈んでいた。
「俺、外宮に用があって来たんだ。けど、一緒に来たやつとはぐれちゃって…でもどうせ、せっかく来たんだから、ちょっとくらい探検してみてもいっかな~って…」
 なにこの幼稚園児…。
「迷子になって、勝手に好き放題歩きまわってみた挙句、ここまで来ちゃった、と。」
「……はい」
 深くため息をつくと、彼はビクリと肩を揺らした。先ほどの態度との違いが面白い。
 けれど、私はそこで閃いてしまった。
「ねえ、農業なら俺に任せろって言ったよね?」
「…え、そこまでは言ってない…」
「ん?」
「まあ、自信はあるって…」
 ニヤリ。
 笑ってみせると、彼は膝を折ったまま後ろに下がる。
「なら、ここの世話をしてみる気はないか?」
「でも、ここって王様の物なんだろ?お前みたいな一介の女官に何ができるんだよ」
「いいから!やってみたいか、みたくないのか、どちらだ?」
 今度は私が腰に手を当てて、胸を張る。
 少し悔しそうに私を睨んだ青年は、次いできらきらと輝く瞳で見上げた。
「こんな大きな畑を世話できるってんなら、望むところだ!」
「よく言った!」
 お互いに、照らす太陽にも負けないキラリと輝く笑顔で笑い合う。
「それでは、名前を聞こうか。」
「レードンだ。」
 立ち上がり、膝についた土を払って、彼は凛々しく笑った。