へなちょこマ王とじょおうさま 「10、信頼」
お前は?と訊かれたので、「桜、という。」名前だけを教えた。当時、何が良かったのか私の日本での名前が流行って“桜”と命名する親が増えていると聞いていたから不自然ではないはずだった。
「そっか、桜か。主上と同じ名なんだな。」
「まーな。」
こんな軽いやり取りができる相手を、私は知らなかった。初めての感覚に楽しくなっていく。
その後、レードンを仙籍に入れて正式に畑の世話を任せた、直接任命を行った瞬間、彼が、私が巧国塙王であると知った時の顔は、一生忘れないと思う。あれで、私は塙王だと打ち明けるのを伸ばした方が面白いものが見られることを学んだのだ。
いや~、レードンにはいろんなことを教えてもらったものだな!(笑)
ちなみに、今やレードンはあの畑をはじめとして、王宮内のすべての畑の世話を任せている。あの初めて会った廃屋は、レードンに貸した。農具や土、肥料などを運び込んで毎日畑を回って世話をしている姿を目にする。
フォーセリア広しといえど、巧国でしか見られない光景だろう。きっと。
こういう、影の努力と新しい出会いを経て得た原料から、私たちはこれまでにあらゆる商品をフォーセリアに生み出してきた。
でもさすがに試したことのない商品を世の中に出すのは勇気がいる。なにより作りだした物を最初に味わう特権があったっていいじゃないか!そんな考えのもと、王資本の商品は王宮内で最初にふるまわれることとなった。
するとどうだろう?
以前から仲の良かった官署は協力体制を築いてより仲が良く、仲の悪かった官署は対立しあいより仲が悪くなった、…かと思えば何やかんや言いながらそれぞれの案をたたえあい、尊敬しあうようになった。…けれど考案の段階では張り合ってそれが相乗効果となり、よりよい商品発案のきっかけとなっている。何度でも言おう、金儲け万歳!
王宮商品発案計画を実行してから、私は毎日休息を兼ねてお茶会を催している。最初は私を確実に休ませるためにはじめられたお茶会も、今ではよい商品品評会となって、皆の楽しみの一つとなっている。
私は、今日は誰が集まるのだろうかと予想しながらニースと、今日集まれる官たちの待つ東屋へ向かうため、部屋を出た。
作品名:へなちょこマ王とじょおうさま 「10、信頼」 作家名:くりりん