Bang
兄さんは兄さんで、自分なりの世界との関わり方を考えて居るみたいだ。
兄の周りには人が一杯いる。
あまり人と群れたがらない出雲や、雪男にですら慕ってくれる後輩や、よく面倒を見てくれる先輩がいる。それでも、雪男にはどうしても彼らとは越えられない溝がある。いや、距離を置いてしまう。
「全員、整列!」
隊長の言葉を、祓魔師たちがリレーのように繰り返す。
「おーっしゃ、行くかぁ!」
燐が拳を手のひらにぶつける。にやり、と笑った顔が凄みを帯びた。最近祓魔師たちの間で密かに『悪魔殺し《デモン・スレイヤー》』と言う二つ名で呼ばれているのを知っているだろうか。
雪男の視線に気がついたのか、頬に素早く、だが優しく触れて笑う。いつもの、兄らしい笑いだ。
「久しぶりに刺身食いてーな」
「すき焼きじゃなくて良いんだ?」
雪男が燐のヒゲにくっついていたゴミを取る。高校の後半から、少し背が伸びた。それでも自分よりはちょっとだけ低い。兄の目が自分を覗き込んでくる。吸い込まれてしまいそうな気がした。
「たまには、良いだろ?」
そして雪男の首を抱いて、額同士をごちんとぶつける。
「お前が良いなら、それで俺は良いんだから」
まったく。
こんな言葉一つで言いくるめてしまう兄さんは、ホント、タチが悪い。そして、それで簡単に安心してしまう僕は、兄さんが好きすぎるバカだ。
「じゃ、頑張って稼いで貰わないとね」
「お前足ひっぱんなよ」
ごすん、と腹を殴られた。痛いな。てか、お前に言われたくない。
「兄さんこそ」
雪男も燐の腹を殴った。
突然互いの腹を殴り合って気合いを入れ合う兄弟に、呆れた顔をしながら出雲が手を差し出す。
「ホラ、髪ゴム貸してあげるから、まとめなさいよ」
「お、サンキュー、出雲」
「別に…、髪が邪魔で的が見えないとか…、一応隊長なんだから。それだけよっ!」
ぶっきらぼうに言う出雲に笑いかけて、兄が前髪を掴み、ゴムでぐるぐると結び始める。
「お、見やすくなったぜ!」
開けた視界に満足したのか、ライフルを担ぐと、意気揚々と集まっている祓魔師たちの方へ向かう。
「あれ…、良いの?」
「…良いんじゃないですか?」
出雲の問いかけに、雪男が肩を竦める。
燐の頭はゴムでまとめられた髪の毛が空に向かって立ち上がり、歩く度にぴょこぴょこと揺れている。燐が通り過ぎた後に、忍び笑いがさざ波のように起こった。
「奥村っ!なんだその頭はっ!ふざけてるのかっ!」
隊長の怒鳴り声が轟いた。
完