Holy and Bright
「……怒ってるんですか?」
遊星盤を飛ばすために前を見たままではあったが、先程からジュリアスが黙ったままなのを気にしてアンジェリークは小声で尋ねた。
「ロザリアにはちゃんとお願いしてきた……」
言葉が途切れた。ジュリアスがアンジェリークの体を後ろから抱きしめたからだ。
「……ジュリアス……?」
「エリューシオンもフェリシアも……美しいな」
アンジェリークの体に軽くのしかかるようにしながら、その頭に顎を乗せてジュリアスはぽつりと言った。透明の障壁で覆われているので風景は流れていくものの、ゆっくりとした速度で飛んでいるので、遠くを見渡すことはできる。そして足下では、あの、アンジェリークを気落ちさせた森の焼け跡はもはやなく、樹々の茂る緑の帯が続いている。
「そんなの、当然です」
そう言うとアンジェリークは、すっとジュリアスの髪の一筋を握り、口づけた。
「この髪に誓ったんですもの……私は幸せになるんだって」
ジュリアスは目を見開いた。
「そうしたら星々も幸せで」
くすくすと笑いながら軽く頭を振ってジュリアスの顎を自分の頭から外させると、アンジェリークは振り返ってジュリアスを見つめた。
「あなたも幸せ……ですよね?」
「ああ……そうだ」
どうにか返事はできた。不覚にも、声はうわずりそうになったけれど。
そして、満面の笑顔。
アンジェリークは再び前を見て遊星盤を飛ばしていく。そのときジュリアスは、はっとして自分の周囲を見た。
翼だ。
アンジェリークの背から出た翼が、一気にジュリアスの体を貫き、覆い、遊星盤全体をくるんでいる。それはきっとアンジェリークが、エリューシオンとフェリシアを有するこの星のことを祈っているからだろう。
私は確かに今、翼ごとアンジェリークを抱いている−−その温かな、懐かしい感覚と共に。
そしてルゥの言葉がゆっくりと、ジュリアスの心を満たしていく。
幼かった子ども。けれど彼はわかってくれた。
彼はやがて……いや、すぐにいなくなるだろう。
それでも、ジュリアスはルゥに……星々に向けて証明し続ける。
彼らの天使たる女王−−アンジェリークを幸せにすると。
この腕の中に広がる、聖なる眩い翼ごと。
--- The End ---
作品名:Holy and Bright 作家名:飛空都市の八月