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悪魔と恋をしましょう

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「お断りします」
きっぱりと佐隈りん子は言った。
時刻は夜といっていい頃で、場所は芥辺探偵事務所の一室、ベルゼブブ優一とふたりきりだ。
ベルゼブブは叫ぶ。
「ななな、なんですとー!?」
その顔は大きくゆがめられ、驚愕の表情が浮かんでいる。
信じられない、という眼で佐隈を見る。
「このベルゼブブと、最強の悪魔にして、獄立大卒のエリート、魔界の貴族のベルゼブブ優一と付き合うのを断るんですか、あなたは!?」
ついさっきベルゼブブは佐隈に愛を告白して交際を申しこんだのだが、佐隈はほんの一瞬も迷わずに断ったのだった。
「いったい私のなにが不満だと言うのです!?」
ベルゼブブは手を振りあげ、ビシッと佐隈のほうに向けた。
すると、佐隈は表情を変えずに平然と答える。
「だって、ベルゼブブさん、ペンギンみたいじゃないですか」
そのメガネの向こうの眼が冷静に今のベルゼブブの姿を眺めおろす。
「ペンギンっぽいひとに付き合ってほしいと言われましても、ねえ……」
はぁ……、と佐隈はため息をついた。
ベルゼブブは猛然と言い返す。
「これは私の仮の姿です! あなたも見たことがあるはずです、本当の私の姿は王子様そのものです!」
「王子様って自分で言いますか。いや、まあ、それはともかくとして、本来の姿がどうであれ、こちらではアクタベさんに結界の力を解いてもらわないとペンギンっぽい姿なら、無理です」
佐隈は立て板に水のごとくスラスラと反論してきた。
むう、とベルゼブブは黙りこむ。
しかし、少しためらったあと、重い表情でクチバシのような口を開く。
「これは、アクタベ氏には話さないでいただきたいことなのですが」
「なんでしょう?」
「実は、私、その気になれば、アクタベ氏にかけられた結界の力を解くことができるんです」
「本当ですか〜?」
佐隈の眉根が寄っている。明らかに疑っている様子である。
それに対し返事をせず、ベルゼブブは集中をする。
魔力を使う。
次の瞬間、ボンッと白煙が大量に発生し、ベルゼブブをおおい隠した。
だが、やがて、その白煙は散っていき、ベルゼブブの姿が見えるようになる。
ベルゼブブは芥辺の結界の力のかかったペンギンのような姿から、魔界にいるときと同じの本来の姿へと、変わっていた。
人間とは異なる、けれども人間に近い姿。
体格は良く、すらりとした長身である。
肌は白く、瞳はアイスブルー、髪は金色。
その顔は彫りが深く整っている。
だれもが美形と認める容貌だ。
ベルゼブブは典雅な雰囲気をあたりにまき散らしつつ、佐隈に微笑みかける。
「どうです。本当だったでしょう」
今や、佐隈よりも大きい。
「なにしろ私は最強の悪魔ですからね」
ベルゼブブは余裕たっぷりに言い、誇らしげに胸を張った。
しかし。
「へえ」
そう相づちを打った佐隈に感心した様子はない。
佐隈はくるりと踵を返した。
それから佐隈は歩きだした。ベルゼブブに背を向けて離れていく。
「さくまさん、どこに行くんですか」
「アクタベさんに連絡するんです」
「なにをですか」
「ベルゼブブさんがアクタベさんの結界の力を解いたことです」
「えっ」
「良い情報をお知らせしたら、アクタベさん、私のお給料をアップしてくれるかもしれませんから」
「なんですとー!!??」
ベルゼブブは雷に打たれたような表情になる。
それから、すぐにハッと我に返り、佐隈との距離を詰め、佐隈の肩をガシッと力強くつかんだ。
「さくまさん、あなた、私を売るつもりですか!?」
「いえ、ベルゼブブさんじゃなくて、ベルゼブブさんの情報を、売るんです」
「私でも、私の情報でも、どっちでも同じです! あの恐ろしいアクタベ氏に知られたら、私は、きっと、ただではすみません!!」
顔面蒼白になってベルゼブブは叫ぶように言う。
「さくまさん、あなたは私がどうなってもいいんですかーーーー!!!???」
作品名:悪魔と恋をしましょう 作家名:hujio